表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
95/99

■風の巻 復活のエピローグ

 稲妻が地上から立ちのぼり天空より現れた亀裂に突き刺さる。それから光は玉となってあたりに浮遊する。その光の玉が風に揺られように動いてあたりと呼応をはじめる。鈴の音の如くシャンシャンと反響をはじめる。


 その亀裂から現れたのはずんぐりむっくりしたととても身動きがとれるとは思えない土人形のような見てくれの機体。間違いない、異空間送りにした天玉照だ。


 ――馬鹿な。異空間送りにして超新星爆発ほどの威力を受けたはずだ。無事でいられるはずがない。

「ふ、ふん。だが、ずいぶんと貧相な姿じゃないか。そんな姿で僕のグリオンと戦えるものか」


 シンゴの指摘通り天玉照の関節部分は土塊が挟まって可動範囲もかぎられている。くすんだ土器のようだ。とても動くように見えなかった。


「まあいいさ。今度こそ完膚なきにまで存在を――」

 シンゴは言いかけて口をつぐむ。


 天玉照から産声のような声が世界の果てまでも響きわたるようだった。


 それとともに土塊に亀裂が入り、それは幾何学的な文様が浮きあがると合間から金色の光があふれ出す。


 瞳の部分の土塊がぼろりと落ちる。そこにはたしかな意思をシンゴは感じ、背筋がぞくりとなるのを感じた。

「ひっ」とシンゴは悲鳴をあげる。


 天玉照の土塊は徐々にはがれて、黄金の粒子となって舞いあがっていく。同時に機体は地上へとゆっくり向かっていく。


 その全貌があきらかになったときシンゴは絶句せざるをえなかった。


 全身が黄金のボディ。それはまさしく陽光の煌めきを放ち、世界中をまばゆいばかりの天の光で照らす。そのまばゆさにシンゴは目を覆うほどである。


 像は定まらず――人間のような口があるようにも思えたら、口元はマスクに覆われているようにも思える。

 二本の角があるかと思えば一本のようにもあり、あるいは冠を被っているようでもあった。

 鋭角のボディがときに丸みを帯びたものに変化する。ヒロイックな姿であると思えば、やけに無骨で兵器のようにもあるし、妙に古めかしいようにもある。


 外見は千変万化して姿は一定に定まらず印象は常に変わる。それはかつて自身がどこかで見た姿でもあるように思える。唯一、変わらないのは双眸に映る意思をたたえた瞳だけである。


「僕は何を見せられているんだ?」

 信じられないモノを見せつけられている気分であった。


 天玉照が右手の人差し指の先に一つの空間が映る。それが天玉照を引きずりこんで超新星爆発を引き起こした空間であることにはすぐにシンゴは気がついた。


『君が起こした現象は幾千幾万ある世界で起こった一つの現象にすぎない。君が思っているより自身が行使する力は矮小だったということだ』


 声がした。それは紛れもないキリの声だった。


   ――◇◇◇――


「エーテル機関が暴走しているね」

「動くのか?」

「それは問題ない」


 キリはエネルギーが上下降を繰り返すのを見ている。信じられないことが起こっていた。

 あらゆる次元から情報が天玉照に集約されていく。

 あまりに膨大な情報量を前に天玉照は最適化できていないのだ。


「戦闘は問題ないよ」

「わかった――」


 キリはチャンネルをシンゴのほうへ開く。

「グリオンのパイロット――シンゴだったな。これは最後の勧告となる。ただちに戦闘を止めて武装を解除して投降をしろ。いまなら法廷の出頭が認められる。もし行わない場合は暴力主義者(テロリスト)として実力を持って排除する」


『それを信じろというのかい? 君はそれで僕を許せるのかい?』

 ケイカのことを言っているのだろう。


「お前がやったことを俺は許さない。だからといってお前を裁く権利はない。だからお前が投降しないのならば軍務として排除する」


『ふん。やれるものならやってみるといいよ。グリオンの力を見せてあげるよ』

「そうか。残念だ」

 そこで通信が切れる。


   ――◇◇◇――


 シンゴは雄叫びをあげる。自身がここに存在していることをまわりに伝えるために。何より天玉照に挑むために。


 グリオンが拳を天玉照に向けて振りおろす。

「圧壊しろ!」


 衝撃破によって拳が振りおろされた地面は亀裂が入り、クレーターができる。だが、天玉照を潰した手応えは感じられない。


 そう天玉照はグリオンの巨体から繰り出される拳を左手一本で受け止めていた。それも力を振り絞った様子はなく、直立のまま羽でも受け止めているかのように軽々とである。


 それから天玉照の背面にマウントされていた翼のようなスラスターが開き、黄金の粒子がスラスターから噴出される。


「なんてパワーだ!?」

 フルパワーで押してもビクともしないどころか逆にグリオンは押し返されはじめ、こちらが踏ん張らないと転倒させられそうだった。


 シンゴはグリオンの背後にノーゼの外へ出る異空間転移の扉を開く。ここは一時撤退がいいだろうと考えたためだ。


「ふふっ。お前はこの水母ごと消し去ってやる」

 捨て台詞を吐いてシンゴは異空間へと逃げこむ。移動そのものは一瞬である。ノーゼの水母から少し離れたところにノーゼの水母が見える。


 天玉照がスラスターを広げると黄金の粒子が舞いあがる。両手を合わせてそこから離していくと光が長大な刃の形を形成して現出する。


 天玉照の双眸がグリオンを捉えて、刃を突きたてながら、スラスターから噴出される粒子を翼のように広げながら突き進んでくる。


「うわあああっ!」

 シンゴは拳を振りあげるも天玉照は体を回転させながら、腕のまわりぐるりとかいくぐって前進してくる。


 グリオンの分厚い胸板があるというのに天玉照は減速することもなく、むしろ加速して突っこんでくる。


「やめろ……。やめてくれっ」

 天玉照はグリオンの胸部から背中までを天上まで昇るように打ち貫く。振り向きざまにこちらへ顔を向けたかと思うと、ノーゼの方へすぐに飛び去っていってしまった。


 もう勝負はついたとばかりにである。


「それで勝ったつもりかよ。グリオンは複合の知的生命体の集まりなんだぞ。たかだか胸部に穴を開けられたくらいで……」


 そこでシンゴは気がつく。グリオンの体組織が徐々に崩壊していることに。

「な、何でだ!?」


 複合知的生命体は個々へと戻っていき、分離をはじめていた。先ほどの天玉照の一撃のせいだろうか。クエタの海に存在が溶けはじめていく。


 それはやがてグリオンが消滅して、自身をもクエタの海に還ることを意味している。


 気がつけばシンゴはもうそこにはいなかった。


   ――◇◇◇――


『この時を待っていたぞ!』

 天玉照のまわりを黒い炎が四方八方に取り囲む。


 黒い炎の揺らめく先に漆黒の機体の姿があった。

「八岐災禍……!」


『私は自らの身に黒い炎を宿すことで八岐災禍の制御に成功したのだ』

 この声はダイトのものであった。


『天玉照を封印する。日の出は永遠に失われるのだ』


   ――◇◇◇――


 放課後の学校にチャイムが鳴り響く。窓が開いていたのか風が吹きこんでカーテンがたなびく。


 シンゴは目が覚めて体を延ばした。もう陽は傾きかけて夕暮れが迫りつつある。

「変な夢だ」


 巨大な人型ロボットがいる世界に召喚された夢だ。そのロボットに乗って自分はその世界を救うのかと思えば何てことはない。


 自分はただの脇役どころか悪役だった。その悪役のボスに勝利の報酬として世界を一つやろうと交渉を持ちかけられた。


 自分は神のような存在で思った通りに世界を意のままに操れるのだという。思えばなかなか魅力的な提案であった。


 だが、それは直ちに否定される。


 自分に逆らう人間はおらず、相反する考えを持つ者もいない。誰もが疑問を持たずに自分に従う。


 それはあまりに退屈であった。いつしか自分を保てなくなって、自分のまわりの存在がオブジェにしか見えなくなって、自らの手で破壊してしまった。


「結局、僕しかいない世界じゃないか」

 何の広がりもないのだ。矮小なのは自分だけではない。世界は溶けあって広がっていく。自分しかいない世界で生きる人間を自分の考えだけで動かすことの手間は発狂しそうになる。


 ――もういいか。帰ろう。


 孤独なのはいいことにした。自分以外の人間は存在するけど、存在しないと定義してしまえばいいのだ。そうなると自分以外の人間はカボチャとかニンジンにしか見えない。


 教室にはもう誰もいなかった。もっともいようがいまいが自分に声をかけてくるような輩はいないだろうが。


 廊下を孤独な足音が自分の耳に響く。部活も終わったのだろう。あらゆるところから音が止んでしまっている。


 すると目の前を一人の女生徒が図書室から出てくる姿が目に入り、そのポケットからハンカチを落とす。


 それをシンゴは拾って女生徒に声をかけた。

「落としましたよ」


 女性とは立ち止まり、最初は声をかけられたのが自分かは半信半疑だったようだ。自分のポケットを探り、それが自分のものであることに気がつくのに少々時間を要してしまっていた。


「ありがとうございます」

 お礼の言葉だ。ずいぶんと久しぶりに聞いた気がした。


「いえ……」

 どう答えればいいだろうかと思考がぐるぐるまわる。が、結局マシな答えは出てこない。


「こんな時間まで何してたんですか? もう学校閉まりますよ」

 女生徒は特に意図があったわけではないのだろう。他愛もない世間話なのだ。


「どうも寝てしまってたようで……」

「教室でですか?」


「うん」とシンゴは頷く。

「ああ、それで顔に跡が……」

 女生徒はくすりと笑う。


「とりあえず出ましょうか」

「え、ああ。ううん」としどろもどろに何とかシンゴは返事をする。


 そういえばこんなにも誰かと話をしたのはいつくらいだろうか。

 こんなことでも感謝されるとは思ってもいなかったせいか不思議と軽い心地を感じる。


 こんな下校時間も悪くない。気がつけば、そう思えるようになっていた。

ちょっと長くなりました。4部はこれで終わりで次回から完結編の5部がはじまります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ