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それぞれの事情

「ここが信濃か。見事にヤクザって感じの建物だな。・・・スカーレットとジャンヌは付いてこなくても良かったんだぞ」

「いや、主様に課せられた依頼なら妾達も手伝うのが当然」

「そうだよ。私もお父さんのお手伝いさせて」

「・・・分かった。だけど、これから先の場所は血気盛んな連中が多い。注意だけはしてくれ」

 2人は大きく頷く。裏世界を取り仕切る組織の連中だ。大人しい連中とは到底思えない。心してかからないようにしないとな。

「失礼。うちの組に何の用ですか?」

「組長に話をさせて欲しい」

「突然の訪問で組長と話をさせろと言われても困りますね。アポを取って頂くか紹介が無いと厳しいです」

 思った以上に丁寧な対応に驚く。もっと乱暴なイメージをしていたが、あくまで冷静な感じの組織なんだな。

「うーん・・・情報屋のオロチの紹介って言えば分かるかな」

「オロチさんの紹介ですか。少しお待ちを」

 入口にいたいかにもな人が奥に行き、確認を取りに行く。10分ぐらいして戻ってきた。そして、中へと案内される。

「組長から中へ通すように言われました。どうぞ」

「すいません。失礼します」

 中は和風な作りで鹿威しのカコンという音が響いている。懐かしい感じの風景に落ち着く。

「まんま日本の庭園って感じの作りだなー」

「主様の世界ではこの風景がいっぱいあるのか?」

「いっぱいは無いけど、観光地としてあるな」

「いつか行ってみたいな」

「そうだな。いつか行きたいな」

 廊下を通り一番奥の場所へと到着する。この場所だけ離れて個室みたいになっているな。一発で特別な場所ってのが分かる。

「どうぞ。中に組長がお待ちしております」

「ありがとうございます。・・・失礼します」

「どうぞ」

 襖を開けて中に入る。中には女性が一人だけ正座をして待っていた。

「なるほどね。あんたが異世界から来た人間と竜王女と聖少女か。ふぅん、いい眼をしてるね。場数を踏んで決意と覚悟をしている眼だ」

「あなたが信濃の組長さんか。てっきりもっと強面の男の人が出てくるかと思った」

「ハハハハハハ!! 確かに任侠の世界で女ってのは珍しいかもね。だが、男とか女とかは関係無い。必要なのは支配できるだけの力だ」

「なるほど豪胆で凄い人だ」

「誉め言葉として取っておくよ。さて、用件は組織間の抗争か?」

「ええ。あなた方の抗争によって関係の無い人まで被害が出てるとのことです。抗争をするにしても無関係な人を巻き込まないで欲しい」

「ふぅ・・・難しい話だねー。私たちも巻き込みたくて巻き込んでる訳じゃない。他の2つの組織が場所と時を関係なく襲撃してくるのが問題だね」

「そもそも抗争を何でしてるんだ?」

「さぁ?」

「さぁって・・・」

「私たちは挑まれた戦いをしてるだけ。別に抗争をしたくてしてる訳じゃない。秘宝だかなんだか知らないが、私たちには関係の無い話だね」

「その結果、無関係な死人が出ても?」

「・・・この裏世界で生きるのは辛いものさ。金も食い物も住むところも着る物も全部が生ぬるい世界で生きてきた人間には分からない苦労がある。

 それぞれが生きるために必死なのさ。私も生き地獄を味わった。

 あんたが言うように無関係な人間を巻き込むのは心が痛む。だが、それで無抵抗なまま組の人間に死ねっていう訳にはいかないだろ? あんたは自分の仲間に攻撃をされても抵抗せずに死ねって言えるかい?」

「無理だな。だが、やり方はあるはずだ。他の組織と話し合うとか」

「それこそ無理だろうね。ふぅー・・・私以外の組織はこの国を支配したいと考えている。支配して秘宝を得て安泰を勝ち取りたいと思ってるのさ」

 信濃の組長が煙草を吸いながら話し合いを続けているが、進展が無いまま時間だけが過ぎていく。思った以上に内部事情は厳しいんだな。

「そうだねー。あんたが他の組織と話をつけてくれるのなら私は協力しよう」

「本当か!?」

「ああ。ただし、相当難しいと思うけどね」

「それでも可能性があるのならその道を進むだけだ」

「真っ直ぐな男だねー。あんたもいい男を掴まえたもんだ」

「当然だ。主様は世界一だからな」

「ハハハ!! いいねぇー。自身の進む道を貫き通す男とそれを愛して貫き通す女か。この裏世界を変えてみせてくれ」

 俺たちは黒服の男に案内されて信濃を後にした。


「帰りな。俺たちの組長は取り合わない」

 信濃の後に俺たちは武蔵へと向かった。だが、門前払いをされてしまい中に入ることが出来ないでいた。

「なぜだ! 無関係な人を巻き込んでまで抗争をする必要があるのか!?」

「兄ちゃん、裏世界に住む人間はそのことを覚悟の上で住んでる。子供だろうが老人だろうが死が近くにいてもいいからと裏世界で住んでいるんだ。・・・いや、そういった人間の寄せ集めがこの裏世界なのさ」

「そんなことで命を奪っていい訳がない」

「そんなことで命を奪うのさ。自分たちが生きるために」

「主様、どれだけ言葉で和解を求めても平行線になる。ここは力づくで」

「おめぇが暴れたら組が壊滅するだけじゃ済まなくなる。やめてくれな」

「親父! 体に障ります! 寝てないと」

「三帝に認められた奴に暴れられたら・・・分かるだろ? それと、俺を病人扱いするな。まだまだピンピンしてらぁ」

「そうは言うけど昨日も倒れたじゃないですか、親父」

「ただの疲労だ。気にするな」

「お爺ちゃん体が悪いの?」

「なんでぇ、三帝に認められたって聞いたからヤバイ奴かと思ったが、こんな可愛いお嬢ちゃんがいるのか。そこの美人さんとの子供か?」

「子供!? ち、違う!」

「カカカ! こんな美人が傍にいるんだ。その気にならない方がおかしいぞ・・・ゴホゴホ!」

「親父!」

「白の魔法 キュアリザレクション」

 ジャンヌの魔法によって容態が次第に落ち着いていく。

「なるほど。白の魔法がこんなに凄いとはな。お嬢ちゃんありがとうよ。立ち話も何だ、中でも入ろうか」

 中に案内されて改めて武蔵の組長と対面して話をする。

「頼み事ってのは組同士の抗争かい?」

「ああ。無関係な人を巻き込んでるから止めて欲しいって依頼だ」

「なるほどな。俺たちも無関係な人間を巻き込むなんてことはしたくない。堅気の人間を巻き込むなんてことは俺たちの信義に反する。だが、残りの2つの組織が襲ってくる以上は黙ってやられる訳にはいかねぇんだ」

「おかしいな」

「おかしい?」

「信濃の言い分では他の2つの組織に襲われたから防衛してるだけだって言ってたぞ」

「何? 向こうから襲ってくることばかりだが・・・裏で何かが動いてやがるな」

「大和が関与してる可能性は?」

「無いこと無いが、まだ何とも言えないところだな。一度話を聞いてみないと分からないが、ワシが行くとややこしくなっちまう。

 つまり、どういうことか分かるな?」

「どちらにせよ行く予定だったんだ。俺が行くよ」

「すまねぇな。ワシの名前を出せば通してくれるはずだ」

「分かった。また何か分かり次第知らせに来る」

 何かこの国の裏で蠢いているのを感じながら最後の組織である大和へと足を運ぶ。まさかこれが大きな闇に繋がっているとは思わなかった。

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