動き出した計画
「計画は予定通りか?」
「はい。もうすぐでこの国の人間の魔力総量が目的の数値に達します」
「そうか。世界を救うためには犠牲も必要となってくる」
「・・・犠牲無く救うことは出来ないのでしょうか」
男がマクスウェルに問いかける。場の空気が一瞬にして凍る。国のトップに反論するということの意味も男は知りながら反論をしたのだ。
「犠牲無く・・・と言ったのか?」
「はい」
「なるほど。お前の気持ちはよく分かる。お前が反論するのもな。だからこそ、言わせてくれ。
我々は犠牲の上に立たねばならぬ。国の人間はこの事を知らぬ。だが、世界を救うために彼らの屍を越えなければならない。
そうしなければ、何十億という人間が消えてしまう。
世界は瀕死だ。それを救うための尊い犠牲―――いや、英雄として彼らの魔力を使わせて貰おうではないか!!」
男は涙を流す。男にも家族はいる。周りにいる人間にも家族や友人、恋人もいる。だが、彼らは誰一人として反抗はしない。この行為こそが世界を救うのだと信じているから。
・・・マクスウェルの身勝手な行いだということに誰一人として知りはしない。
「なぁ、具体的にマクスウェルはいつ動くんだ?」
「恐らく近い内に動くじゃろ」
「何で分かるんだ?」
「国の魔力が満ちて来ておる。そう遠くない日に目的の魔力総量に達するじゃろ」
「なるほど。それで、何で俺たちはこんなことをしてるんだ?」
「修行じゃ」
俺、スカーレット、ジャンヌは頭の上に石を浮かせた状態で座っている。そのままの状態で3時間が経過しようとしていた。
魔力を体の周りに留めておく修行だっけか。少しでもバランスが崩れれば石が落ちる。そうならないようにずっと維持し続けなければならない。
「ふわぁ~・・・さすがに眠くなってくるな。って、スカーレットは寝てるじゃないか」
「お母さん。ダメだよ、寝たら」
「ぅん・・・ジャンヌ、もう朝か?」
「違うよ! もう、寝ぼけてたら今度からご飯作ってあげないよ?」
「む! すまない。いやはや、どっちが親か分からないな」
自然と笑いがこみ上げる。その状況を見て、アリスがやれやれと嘆息する。
「うぬらに修行をしてくれと頼まれたからやっておるのに、もう必要ないレベルまで到達しておる。いくらリアルな肉体を持っているからといっても限度がある。
それほどまでに成長速度が尋常ではない」
「そうなのか?」
「うむ。人が5年や10年と掛けて身に付ける物をわずか1週間で物にしおった。末恐ろしいのじゃ」
アリスは驚きと共に呆れる。そんなにかよ。まぁ、自分たちでも成長速度がおかしいって感じるけど。それは、今までの戦いの経験もあるからだろう。
「オリヴィアはどうしてる?」
「うぬらの修行を見ていて、負けられないと一層厳しい修行をしておるよ」
「そうか・・・。落ち込んで無いといいんだがな」
「正直、落ち込んでおるじゃろ。だが、それを見せないのがオリヴィアじゃ。ワシも寄り添ってはおるが、うぬらも何か相談を受けたら乗ってあげて欲しいのじゃ」
「ああ、俺たちが助けになるなら何でもやるさ」
「ありがたいのじゃ」
話をしながら修行を終えて、宿へと戻る。そこにはボロボロになりながらソファーに寝転んでいるオリヴィアがいた。
「お、おい! 大丈夫か?」
「ぅ~ん・・・はっ! す、すまない。疲労から寝てしまっていたようだ」
「いや、それはいいんだが・・・その、服が」
「え? きゃあああ!!」
慌ててオリヴィアは乱れていた服を直す。まじまじと見ていた俺の頬は両サイドから思い切りビンタを受ける。しょうがないじゃん。不可抗力でしょ。
「ご、ごめんなさい。もう大丈夫だから」
「オリヴィア何をしておったのじゃ? そこまでボロボロになるほどの修行をするように言ってはおらぬが」
「アリスに言われただけの修行ではダメだと思ったの。だから、自分なりに修行を変えてみたのよ」
「そうじゃったのか。じゃが、無理だけはしないようにじゃ」
「無理はしない・・・って言いたいけど、グレン達のこと見てたらそうも言ってられないよ。私に任された国なんだもん。私が何とかしないと」
「違う。オリヴィアは分かっていない」
スカーレットはオリヴィアは抱き寄せて頭を撫でる。
「・・・ぇ?」
「オリヴィアは強い。だが、無茶をし過ぎている。確かにお前に任された国だ。けど、それだけじゃないはずだ。この国を守ろうとする想いがあるはずだ。
それにだ、私”が”なんて言うな。私”たち”だろ?」
「・・・ぅん・・・うん・・・」
スカーレットの胸の中でオリヴィアは泣き続ける。強く気丈な素振りを見せても、強がりに過ぎない。彼女の中で抑えていたものが一気にこみ上げる。
「ワシは気付けなかった・・・。こんなにもオリヴィアが苦しんでいたなんて」
「近すぎて見えなくなることもある。だけど、アリスがいなかったら壊れていたかもしれない。だから、今度から気付いてあげればいいんじゃないか?」
「そうじゃな・・・」
オリヴィアがひとしきり泣いた後、修行で身に付いた魔力を高める。
「ぐす・・・泣いてばかりいられないわ。修行で魔力を強化したの」
「修行で魔力を強化?」
「ええ。魔物とギリギリまで魔力を溜めてから戦うって修行をして、内蔵してる魔力を高めてたの」
「そんな危ないことしてたのか」
「これぐらいでもしないとでしょ。とりあえずは、魔力上がったと思うのだけれど」
「うむ・・・。上がっておる。前よりも遥かに上がっておるのじゃ」
凄いな。前に感じていた時よりも遥かにオリヴィアの魔力が上がってる。そして、純度も違う。ただ魔力総量が多いだけでなく、魔力の密度が違う。
「凄いな・・・」
その時、街中にサイレンが鳴り響く。全ての魔力総量が計画通りに目標に達したのだ。そう、オリヴィアの魔力で。
このサイレンの意味を知ることになったのは、すぐ後の事だった。




