竜の逆鱗
「な、なんなんだ! なんだ! この魔力は・・・」
「ジャンヌ・・・目を覚ませ」
スカーレットは1歩ずつグリーへと近づいていく。その間にもジャンヌの触手による攻撃は絶え間なく続いている。その全てがパンッ! という乾いた音と共に弾かれていた。
「バカが! それに触れたらどうなるのか忘れたのか!」
「触れたら? どうなるのだ?」
スカーレットはわざとらしく弾いた手を見せる。その手は無傷。さっきはジャンヌの攻撃に触れただけで苦しんでた。まぁ、常人ならスカーレットの攻撃は見えないだろう。
「触手に触れる瞬間に一度拳を引いてもう一度放つ。そうして出来た空気の弾丸が触手を弾いていたんだ。だから、妾の手は無傷」
「空気の弾丸? ふざけてる! お、おい。近付くな! 近付くんじゃあない!!」
「いい加減に黙れ。妾の怒りは全てを超えている」
スカーレットの問答無用の拳がグリーを捉える。1発、2発、3発と連打をたたき込んでいく。次第にグリーの顔面が変形していく。
にしても、分からない。グリーは一体何者なんだ?
「・・・ぉい、た、助けろ」
「ウゥゥウアアアァァァーーー!!」
グリーの言葉でジャンヌは更に触手を増やしてスカーレットに攻撃する。
「目を覚ませ! ジャンヌ! 妾達のことを忘れたのか!?」
「う、うるさい・・・。私の記憶から消えろーーー!!」
「止めてやれ。彼女は記憶のせいで苦しんでるじゃないか」
「なっ・・・! 完治している?」
あれだけスカーレットによって怪我をさせられたのに完治した状態で立っている。・・・なるほど。ジャンヌの白の魔力によって回復したのか。
「貴様・・・」
「おっと、よせよ。この状態になったらいくら攻撃をしても無意味だ。それよりも見たまえ。研究の成果がやっとお披露目出来る」
さっきまでの苦しみとは違った様子でジャンヌは苦しみ始める。泣き、叫び、笑い、怒る。様々な感情などが入り混じりながらジャンヌは身悶える。
「ジャンヌ・・・ジャンヌーーー!!」
グリーが苦しんでいるジャンヌの側に近付いて耳打ちをする。
「さぁ、お前の大好きな姉と兄が出迎えに来たぞ。お前の両親を殺して、お前を奪い去った敵だ。思い出せ。何があったのか。何をされたのか」
「違う・・・違う・・・違うーーー!!」
「思い出すんだ!! 全てを奪い去った敵を!! お前の記憶に後から侵入してきた敵を!! その手で! 倒すんだ!!!!」
「イヤアアアアアアァァァァァァーーーーーー!!!!」
ジャンヌの叫びと共に周りにあった触手が全て無くなる。そして、全てを破壊する神が誕生した。
「出来た・・・出来た、出来た、出来たーーー!!」
「何が・・・どうなって」
「白の魔力は極限状態になり黒へなろうとした。だが! 純粋な白の魔力は完全な黒へとなることは出来ない。白にも黒にもなれない魔力は新たなる極地へと変貌した。
灰色の魔力だ。白と黒を併せ持った神にも等しい存在! 研究は成功だ。
名はイヴだ」
ジャンヌとは全く違った存在のイヴは俺たちへと手を突き出して魔力を放つ。無数の魔力弾を避ける。後ろにあった壁などが当たった瞬間、黒い球体に飲み込まれて消えた。
「おいおい。破壊とかそういうレベルじゃないな。消滅したぞ」
「うぬ。これはマズい。魔力総量も桁違いじゃ。竜の王女をも超えておる」
「こ、こんなのって・・・。に、逃げ―――」
「妾が引いてどうする」
「え?」
「ジャンヌは苦しんでいる。泣いていた。姉妹のように接することで人の繋がりの大切さを知った。次第に母娘というのはどういったものかということも知れた。
そんなジャンヌを妾が助けずに誰が助ける」
「バーカ。妾じゃない。妾”達”だろ」
「主様!」
「ジャンヌは俺にとっても妹のような存在だ。それを奪わせないぜ」
「バカが! 人の繋がり? そんなものこの研究の成果の前では全てが無意味だ。笑わせるな!」
「お前は知らないんだな。誰かを思うことでどれだけでも強くなれるってことに」
「思い? はぁ? そんなもので強くなるわけねぇだろ! ・・・まぁ、いい。この場でイヴによって死ぬんだからよ!!」
イヴの攻撃が再開される。俺とスカーレットはその攻撃を避けながらジャンヌへと近付いていく。
単調な攻撃だから避けやすいな。・・・って、おいおい。そんなのアリかよ。
「翼? まさかあれで攻撃してこないよな?」
「主様、そのまさかのようだ」
翼から無数の灰色の弾が放たれる。先ほどの直線的な攻撃ではなく、四方八方からの攻撃。これは、なかなか骨が折れそうだな。
「スカーレット。ジャンヌを戻す方法はあるのか!?」
「分からない! だけど、どうしてもジャンヌの元へと行かねばならない」
「なるほど・・・。なら、俺が道を作るしか無いな」
デミス、やれるか?
『マスターの魔力の大半を失いますが、可能です』
「頼もしい相棒だな。アブソーブ」
無数に放たれる弾を吸収していく。破壊の能力を持った弾はさすがに自分の力とかに還元出来ないか。それでも、道は出来た!
「今だ! スカーレット!!」
「主様、帰ったら褒美のキスをやるぞ」
「え? マジ?」
『マスターの魔力が急激に上昇。・・・単純過ぎます』
しょうがないじゃん。男の子なんだもん。
スカーレットがジャンヌへと近付いた。一体どうするんだ?
「ジャンヌ。妾は人と接したことがこれまで無かった。初めては主様だったな。だから、姉と慕ってくれるジャンヌへの対応が正直、最初は分からなかった。
嬉しいのか困っているのか自分の感情すらも分からない。けど、心は温まった。人と接することがこんなにもいい物だということを気付かせてくれた。
何も我がままを言うことをせず、他人への思いやりに溢れたジャンヌのことが妾は好きだ。
だから、もう苦しまなくていい。もう、泣かなくていいんだ。
妾と共に行こう」
スカーレットはジャンヌを抱く。ジャンヌの無機質な眼から涙が流れる。人の絆は固く、強い。全てを超えて人と竜が繋がりを見せた瞬間だ。




