極上の悪
「ふむ・・・ナイフによる切り傷は即回復。失血死になるほどの流血でも生きていて、回復までおよそ10秒。爪を剥いでも即生えてくる。
なるほど。そろそろ次の実験に行くか」
「ぅ・・・ぁ・・・もう、止めて」
「ここからが本番だろう。腕を切っても再生するのか? 臓器を壊されたらどうだ? 処女膜は? 首を切られても死なないのか?
あぁ・・・考えただけで達しそうだよ」
悪による悪の実験は続く。人間を人間と思っていない所業の実験にジャンヌの心は壊されていった。いや、壊れなければ、正気であったなら耐えることは出来ない。痛みと苦しみが永遠と続いている状況で正気でいられる人間なんていない。
ジャンヌが捕らえられてから2日が経過した。
「なぜだ! なぜ、地下への入り口がないのだ!!」
「地下だという手掛かりは掴んだのに入り口が無いなんて・・・」
「八方塞がりか。このまま時間だけが過ぎればジャンヌが」
「言うな主様。妾も考えないようにしている」
そう言うスカーレットの顔は悲痛で歪んでいた。妹のように可愛がり、時には娘のように思っていたジャンヌ。それが奪い去られたとあっては、スカーレットも冷静ではいられないだろうな。
「・・・とにかく探そう。必ず地下へと行く道があるはずだ」
「無駄じゃ。ワシでも知らぬ道を探そうという方が無理じゃろ」
「アリスか」
アリス=マクスウェルが俺たちの目の前に現れる。本当に神出鬼没だな。今回は影から出てきたし。
「また妾に打ちのめされたいのか?」
「それは遠慮しておこうかの」
「アリス。何か知ってるのね?」
「さて、どうじゃろうかな」
「いい加減にして!」
オリヴィアの怒鳴り声が響き渡る。何だ? 喧嘩か? と通行人たちが立ち止まるがすぐに動き始める。そして、オリヴィアは続ける。
「私はアリスが好きよ。大好き。私が全てを失った時に道をくれた恩人。けど、私のためだからと自分の行為を正当化するのだけは嫌い。
今回のこともそうよ。私は戦う決意をしてきた。なのに、何でアリスは私を戦いから遠ざけようとするの?」
「・・・大切な者が傷つけられる場所にどうして送り出せるのじゃ? ワシはマクスウェルに勝てぬ。オリヴィアも。今度は前のように逃すことはないじゃろ。確実に殺されてしまう。
そんな場所に送り出せというのか? ワシには無理じゃ」
互いの思いが交差して交わることが無い。だけど、互いの事を思っているのは一緒。難しいな。
「はぁー・・・もういいか。早くジャンヌの場所へと繋がる情報を寄越せ」
「断る。うぬらに教えて事態が進めばオリヴィアが戦いへと赴くことになるのじゃ」
「グダグダとうるさい。勝てない? 殺される? もう一度言えばいいのか? 妾達がいることを忘れるな。
お前たち2人で勝てないのなら妾達に頼ればいい。竜王女とその眷属である主様がいる。
全てを背負い込む必要など無い」
そうだ。俺たちがいる。2人で勝てないのなら5人で戦えばいい。だからこそジャンヌを助けないとな。
「うぬらを頼って助けて貰った後はどうする?」
「そんなこと知るか。現状をどうにかするのが先決だ。今後のことなど終わってから考えればいい」
スカーレットの言う通りだ。マクスウェルが国を滅ぼそうとしているのならそれを止めなければいけない。全てが終わってからオリヴィア達がゆっくりと国の事を考える。
「・・・分かったのじゃ。案内しよう」
アリスによって案内されたのは大聖堂であった。中に入り、俺たちを案内してくれたマイルが話しかけてくる。
「また来て頂いたのですね。しかも、お連れ―――なるほど」
「うぬ。ワシの知り合いじゃ。どうやら、一人連れていかれたようじゃ」
「確かに白の魔力の少女が見えませんね。・・・こちらです」
マイルの案内によって連れて来られたのは、以前に案内してもらった場所とは全く違う扉だった。
「ここから地下へと行けるんですか?」
「地下の存在をご存知でしたか。この街の中枢部分ですので、限られた人物しか入ることが許されない場所になっています」
「なるほど。アリスの正体をご存知なんですね?」
「ええ。私たちが付いていくと決めた主はアリス=マクスウェル様のみですので」
扉が開かれて別の案内人が蝋燭片手に階段を降りたり通路を通ったりして案内してくれる。
「私でもこんな広大な場所知らなかった・・・」
「当然じゃ。ワシが全てを秘匿しておった場所じゃからな」
「何で隠してたのよ」
「・・・魔法、科学といった物に付き物となるのは何か分かるかの?」
「んー・・・勉学? 修練?」
「オリヴィアは純粋じゃの。それらは作られた物を更に発展させるのに必要な物じゃ。しかし、ゼロベースから作り上げられた物をその部分に落とし込むためにすることがあるのじゃ」
「それは、何?」
「人体実験じゃ」
アリスから告げられる衝撃の事実にオリヴィアは言葉を失う。まぁ、確かに俺のいた世界でも動物実験とかから人体実験をするなんてことはある。
けど、この世界ではその中身がどうなってるのか分からない。
「もちろんワシ達の人体実験は安全に考慮しておる。危険なことや人道に反した実験は絶対にしないようにしてきたからの。
まず、魔法の場合、新規で魔法の術式が出来たのなら、術式の構築→魔法の効果→安全地帯での実験→動物への影響→人体への影響→データ採取→動物実験→人体実験というプロセスを踏んでおる。
そもそも攻撃魔法は人体実験をする必要が無いのじゃ。必要なのは回復などの魔法だけ。だが、もし悪がいるのならそれら全てを壊して実験をするじゃろうな」
「悪か・・・」
「案内はここまでとなっております。現在は使われていない施設のため、人は誰もいません。広大な地下ということもあるので、気を付け―――」
案内人の言葉が途中で途切れる。案内人を見ると、胸から上が無くなってしまっていた。おいおい。何が起きてるんだ?
「どうやら悪が住み込んでいるようじゃの」
目の前に現れたのは、大きな狼だった。しかし、普通の狼と違うのは、半身が違う動物の体に移植されていたり、身体の大きさが異常に大きい。あと、黒の魔力を感じる。
ジャンヌ。無事でいてくれよ!




