マクスウェル
「いい部屋に泊まっておるのー」
「そりゃ、どうも。それで、仕事って何なんだ?」
「そう急くでない。ふむ・・・ワシの見立てに間違いはないようじゃ」
「見立て?」
「うむ。うぬはとても可愛いの~!」
「きゃっ!」
マクスウェルと名乗った幼女はジャンヌへと抱き付く。ジャンヌが完全に怯えているので、引き離す。
「急に何してんだ。ジャンヌが怯えてるじゃないか」
「妾の妹であるジャンヌに次、同じことをしたら許しはしない」
「分かった分かった。そなたらの言う通りにしよう。仕事よりも先ず聞くことがあるのではないか?」
「・・・あんたの正体か」
「いかにも。ワシがマクスウェルと名乗り、国のトップだと言った。つまり、そなたらはマクスウェルを知っているのだな?」
「話で少し聞いただけだがな。王様を差し置いて国を動かす存在とだけ聞いてる」
「ふむ・・・。まぁ、街の噂程度だけ知っているということのようじゃな。そなたらが聞いた通り、この国のトップは稀代の魔術師 マクスウェルじゃ」
「つまり、あんたがそうだってことか?」
「いいや、正確には違う。ワシとマクスウェルは同一人物でありながら違う人物なのじゃ」
意味が分からないという風に首を傾げていると、マクスウェルは魔法で空中に図を書いていく。そこには俺の世界、このデジタル世界、もう一つの世界と書かれている。
「まず、平行世界が消滅したことは知っているか?」
「俺の両親が消したと聞かされた。その歪を無くすためにこの世界が出来たんだろ?」
「いかにも。このデジタル世界が創られた最初期はバグなどで正規の運用が出来なかったそうだ。平行世界を無くすはずが、デジタル世界で平行世界が出来てしまう。
それらを全て消していこうとした。
だが、予期せぬ事態が起こる」
「予期せぬ事態?」
「一つの平行世界の存在が消えることなく生き残ってしまったのだ」
「・・・まさか!?」
「そう。現在の宰相であり国を動かしているマクスウェルこそがその平行世界の生き残り。別の世界のマクスウェルなのじゃ」
もう一つの世界と書かれた図が消える。そして、リアルワールド、デジタル世界の2つだけ残る形になった。
「あやつだけが奇跡とでも言うべきか生き残った。そして、あやつの世界は消えた。科学も魔法も何もかもが共存していた素晴らしい世界だったそうだ」
「ちょっと待て。最初期に出来た平行世界って言ってたな。なのに科学も魔法ももうあったのか?」
「この世界はうぬの世界とは時間の流れが違う。うぬの世界と同等の流れで進んでいては、まだ生命が何も誕生していない。
だからこそ、超加速で世界の時間は進んでいる」
「あー・・・もう何もかも話がぶっ飛んで頭が追い付けなくなってきた」
「簡単に言うとじゃ。本来あってはならない平行世界がこのデジタルの世界で出来てしまった。その世界の唯一の生き残りがマクスウェルというわけじゃ」
「なるほどなー。何で別世界のマクスウェルがこの世界で暗躍してて、この世界のマクスウェルがコソコソしてるんだ?」
「うぐ・・・痛いことを言うの~。正直言うと、別世界のマクスウェルが強いからワシでは勝てぬのじゃ」
「強い? 同一人物なのに?」
「同一人物・・・か。ワシはこの通りの姿をしている。うぬの世界の言葉でいうならロリババアというやつじゃな! 逆に別の世界のマクスウェルは老人の姿をしているとのことじゃ」
「ロリババアか・・・悪くな・・・ゴホン! 完全なる同一人物って訳じゃないんだな」
褒めようとしたらスカーレットから思い切り睨まれた。冗談です。すいませんでした。
「竜王女も嫉妬深いのー。うぬの言う通りじゃ。存在としては一緒でも完全な同一ではない。それに、心があやつの場合はワシよりも強い」
「・・・心か」
「自分の世界を壊され、何もかも失った男が求めるのはただ一つ」
「元の世界の再生か」
うむ! とマクスウェルは頷いて肯定する。俺の両親の研究でそんなことがあったのか。・・・俺に止められるのか? そもそも止める必要は無いんじゃないのか?
「止めなくてはならぬ」
「なぜだ? 元の世界を取り戻したいって思う人間をなぜ止めなくてはいけない。俺の両親の罪でもあるのに」
「・・・世界を再生する方法をしっているかの?」
「? いや、知らないが」
「竜の秘宝という手もある。だが、これは真帝も狙っており、願いを叶えるための工程も長い。この世界の寿命を考えればそこまで時間を先延ばしにしたいと思わぬはずじゃ。
もう一つは―――」
「リザレクションコアか」
「竜王女の言う通りじゃ。リザレクションコア。至高の宝の一つ。ありとあらゆる物の再生が可能な宝になっておる」
「それを使用するのが問題なのか?」
「リザレクションコアの使用には魔力を必要とする。再生しようとする物に応じて必要な魔力が変わって来るのじゃ」
「・・・まさか!?」
「うむ。世界の再生に必要な魔力なんぞ一個人でまかなえるはずもない。必要な魔力はこの国で補うのじゃ。魔法を推進することで国の人々は魔力を勝手に高めてくれる。結果、リザレクションコアに使う魔力が貯まるという訳じゃ」
「じゃあ、止めないとこの国の人間は死ぬってことか?」
「死ぬだけならいいだけかもしれぬ。至高の宝のために犠牲になると、魂が冥界に行くことはない。つまり、死ではない状態。無になるのじゃ。
記憶からも記録からもその存在全てが消えるのじゃ」
「なんだよそれ・・・。この国の王である四帝は何をしてるんだよ!?」
「それは・・・ワシも分からぬ。悪評を広められ、国民から蔑まれ、失脚させられたとだけは聞いた」
「四帝なのに何も出来ないのかよ」
「そう責めてやるな。トワイライトは誰よりも国のために動いていた。それが外からの人間の言葉によって国が敵になってしまった。トワイライトも悲しいのじゃ」
マクスウェルは悲しげに窓を見つめる。恐らくトワイライトと面識があるからこそいろいろと思うことがあるんだろうな。
「にしても、この世界のマクスウェルと別の世界のマクスウェルじゃ呼びにくいな」
「ワシのことは気軽にアリスと呼んでくれ! アリス=マクスウェルがワシの名前じゃ」
「それじゃあ、アリスよろしくな」
「うむ。よろしく! あ、ワシの年齢はうぬらよりも遥かに上だけど気にしなくてよいぞ」
「あ、ああ。なら、やることは決まったな」
四帝でありこの国の王であるトワイライトを見つけ出す。そして、マクスウェルの暴走を止める。休める時が無いのが辛い所だな。




