竜なる神
『やっと出られたか。この体の主がまさか意識を失わないと出られないとは思わなかったな』
「・・・何者だ?」
『何者だ? 下等生物が聞き方を間違えるな」
「ぐぅ・・・何が、どうなって・・・」
『そうだ。下等生物は上位の者に首を垂れるのが礼儀だろ? 我は神。竜神だ』
マステマの目を発動させたモードレッドを遥かに上回る魔力。そして、威圧感で周りにいる人たちは倒れてしまう。
妾とジャンヌは辛うじて立っているが、それにしても竜神・・・。伝説の更に伝説の存在が主様の中にいたなんて。
見た目は主様と同じなのに中身が違うということか。
『ふむ・・・。竜王の娘と無限の竜の使役者か。我の妻として迎え入れよう』
「バカ言うな。妾が心を許したのは主様であってお前ではない」
「わ、私もお兄ちゃんが好きだけど、あなたは嫌いです」
『ふふふはははははは!! 豪胆な女は嫌いではない。なるほど。この体の持ち主は余程、好かれる存在のようだ。我が依代とするには良い存在ということか』
「呑気に談笑しているとは余裕があるな!」
モードレッドの油断を付いた一撃。マステマの目の魔力が体に馴染んで更に力を増している。どこまで強くなるのだ。
だが、その一撃を竜神は何も見ずに受け止める。
『ほぉ。マステマの目を持っているのか。人間にしてはやるな。だが、神すらも超えた竜神には勝てんな』
「ぐおおおぉぉぉーーー!!」
モードレッドは首を掴まれて引きずられる。そして、空へと投げられた。竜神は魔力の塊を放つ。
『断罪の滅し』
「レムナント!! 負けるか・・・。俺は、復讐のためにアーサーを殺すんだ」
目が血走ったモードレッド。悲しい復讐に取り付かれた亡者を見て、竜神は首を振る。そして、放った魔力を四散させて対峙する。
『復讐に取り付かれたか』
「ああ、そうだ! お前も復讐を否定するか!?」
『別に。我が人に何かをするということは無い。が、宿主は違う。お前を止めようとしている。そして、殺したくないとすらも思っている。
我は宿主を依代としているが、体を奪う気は無い。我はもう滅んだ存在。これからを生きる生命の邪魔になることだけはしない。
だからこそ、我は宿主の力を目覚めさせるキッカケになろう。・・・安心しろ竜王の娘。こいつは人でありながらこの状態でも抵抗している。勝てるさ』
竜神はそう言うと、心臓の部分に手を当てて魔力を一気に流し込んだ。異世界の人間でありながら魔力を持ち、竜の眷属として存在する主様。それだけで奇跡の存在だった。全ては竜の秘宝が都合よく改変させたからだと思っていた。けど、違う。主様の中に眠る可能性が全てを可能にしていたのだ。
その可能性の力が竜神によって呼び起こされる。
『起きろ宿主よ。お前が愛し、お前を愛する女性が涙を流している。竜王の娘のために戦うのではなかったのか?
それに、だ。竜神の宿主なら超えてみせろ。大いなる壁を』
「はっ! ここは・・・?」
真っ白な空間。全てから隔絶された空間に俺はいる。さっきまでモードレッドと戦っていたはずなのに何でこんな場所に?
「ここはお前の深層世界だ」
「あんたは?」
「竜神。竜の神様みたいなもんだ」
竜神と名乗った者が真っ白な椅子に座りながらそこにいる。人の姿をしているが、体には鱗があり、尻尾がある。なるほど。竜だな。
「神様!? それがどうしてこんなところに・・・」
「お前を宿主としているからだな」
「何が何やら・・・」
「難しく考えることはない。・・・さて、お前には壁を超えて貰わなければいけない」
「壁?」
「そうだ。異世界から来たお前はこちらの世界の順応している様でしていない。器用に立ち回っているだけということだ」
「けど、魔力は使えてるぞ」
「竜王女の眷属になった影響で魔力を得たに過ぎない。本来のお前の魔力は一切使われていないのだ」
「・・・そうだったのか」
「そして、お前がこちらの世界に本当の意味で順応するには壁を超える必要がある。見てみろ」
竜神が指し示す方を見ると何枚もの大きな壁が並んでいた。簡単にはぶち破れず、よじ登るのも難しい壁。それが並んでいる。
「この壁を超えるのか・・・?」
「何枚もある壁に絶望したか?」
「・・・いや、それだけ強くなれるってことだろ。逆にワクワクしてきた」
竜神は少し目を見開いた。
「なるほど、面白い。実に面白いな。人は無限の可能性がある。そして、それを追い求めて努力することが出来る。
神には無かった物だ」
「神か・・・。なぁ、この世界はデジタル世界だって聞いたが、何でそんな世界が存在するんだ?」
「うむ・・・。平行世界というのを知っているか?」
「確か分岐によって作られる世界だっけ?」
「その通りだ。異世界とは違い、お前がいる世界とは分岐が異なる世界のことを言う」
「ん? 異世界とは違い? 待て待て待て。ということは、この世界は俺がいた世界と同じ世界だって言うのか?」
「そういうことだな」
「嘘だろ・・・」
「まぁ、嘘だと言いたくなる気持ちは分からなくもない。そして、この世界の分岐は普通の分岐と大きく異なる」
「どういうことだ?」
「今は知る必要が無い。いずれ時が来れば知ることになる。さて、修行と行こうか」
「修行!?」
「勿論だ。お前にはあの復讐に取り付かれた人間を助けたいんだろ? だったら強くなるしかない。安心しろ。竜神による修行だ。確実に強くなれるぞ」
「何だか怖いんだが」
「元々、お前は才能だけで戦っていただけ。なら、真に戦い方などを学ぶ必要がある。今後の戦いは才能だけでは勝てない。才能を持ち、戦いに身を置いていた者達との戦いだからな」
「なるほど。なら、俺に修行をつけてくれ。俺は、強くなりたいんだ」
「竜王の娘のためにか?」
ニヤニヤと笑う竜神。神であり、人を見下した存在なのに人間臭さを感じる時がある。何か不思議な感じだな。
「そうだよ。悪いか?」
「いいや。我に人間の思考は分からぬからな。だが、強くなるための意志になるなら・・・いいのではないだろうか」
竜神は虚空を一瞬だけ見上げて、再び俺に向き直る。そして、厳しい修行が始まった。




