憤怒の罪
「強さか・・・」
「主様は強い。一般の人間よりも遥かに。だからこそ、その強さが持つ意味を考える時が来たのかもしれない」
「スカーレットは何で戦うんだ?」
「主様と結ばれるため!」
「あぁー・・・そうだったな」
俺とスカーレットとジャンヌは再び宿へと戻ってアーサー王から出された課題を考えていた。強さ・・・か。
正直、よく分からない。何のために戦うのかと聞かれればスカーレットと結ばれるためだ。けど、何かが足りない気がする。
「お兄ちゃん・・・お姉ちゃん・・・すー・・・すー・・・」
「寝言か。にしても、スカーレットもかなり懐かれたな」
「妾も最初は嫌っていた。けど、お姉ちゃんと慕い、付いてくる様子を見ていると主様が最初に叫んだことを思い出した」
「あー・・・可愛いは正義ってやつな」
「うむ。今ならそれがよく分かる。よしよし」
スカーレットの膝を枕にして寝ているジャンヌの頭を優しく撫でる。くすぐったいのか少しジャンヌは動くが、その顔は笑顔になっている。
「何だか姉妹というよりかは母娘みたいだな」
「ふむー・・・。妾が母親でジャンヌが娘か。なら、主様が父親か!」
「そ、そうなるのか。何だか恥ずかしいな」
「実際に結ばれるのだから何も恥ずかしがることはないぞ! 主様」
「スカーレットは少しは恥じらいを持って欲しいな」
張り詰めていた中での何気ない会話に俺は少しだけ落ち着けた。こんな日常が続けばどれだけ楽しいんだろうか。いっそのこと真帝を倒して帝国を滅ぼすなんてせずに、どこかで暮らせば幸せになれるんだろうか。
けど、竜王は放っておかないだろう。娘が内界にいて内界が外界を攻めているのだから。
俺とスカーレットが少し黙って考え事をしていると、突然の来訪客が訪れた。
「こんな時間にノック?」
「主様・・・」
「ああ、分かってる。・・・誰だ?」
「七つの大罪と言えば分かるか?」
「七つの大罪!?」
扉越しに聞こえる男の声。七つの大罪が直接、接触してきたのか。けど、理由が分からない。手出しをしないとアスモデウスは言っていたが、やっぱり戦いに来たのか?
「安心しろ。戦いに来たのではない。アスモデウスから聞いているはずだ。俺たち七つの大罪は少年と竜王女には手出しをしないと」
「・・・分かった。入ってもいいぞ」
「それでいい。警戒心を常に持つことだ。例え、味方だと言の葉をもってして聞いても全てを信じるな。いつでも相手をやれるように刃を研ぎ澄ませておけ」
「そんな世間話をしにきたのか?」
「ふっ。思ったよりも度胸があるな少年よ」
銀髪に褐色の肌の男が扉の向こうにはいた。一番特徴的なのはその目だ。何者も見透かすような目をしてる。右目の数字はなんだ? Ⅲって書かれてるが。
「失礼する。・・・ありがとう」
先ほどまで眠っていたジャンヌは起きて男にお茶を出していた。この時間だってのに健気でいい子だな。
「白い魔力の少女―――聖少女ジャンヌダルクか。彼女の優しさとその力は皆を惹きつけるな」
「それで? 何の用なんだ?」
「急かすのはよくない。時間は限られているが、焦れば全てが失敗する。少年が成そうとしていることはそれほどまでに重大だ」
「どういうことだ?」
要点を得ない喋り方だな。何を言いたいのか見えてこない。
「結論を言うと、アーサー王は少年が思っている以上に清廉潔白な男では無い。国落としを手伝え」
「何? アーサー王は民を思って戦う王だぞ」
「上辺だけ見て人を判断するな。人はいくらでも取り繕える」
竜王女もアーサー王が黒だという情報をにわかには信じられずにいた。あのアーサー王が悪だとでも言うのか?
「悪か正義かと言われれば、正義だろう。アーサー王自身は悪だと思って行動はしていないからな。だが、この国を見れば分かる」
「この国? 皆特に問題無く生活して・・・いや、違う」
「主様、妾もこいつに指摘されるまで気付かなかった」
「ああ。この国に来て1日ほど経つが、機械兵しか見ていない。人間がいない?」
「気付いたか。そうだ。この国には人がいない。それは何故か。・・・自らの目で見て知るのが一番か。また、しばらくしたら訪れるとしようか」
「・・・あんたは何の大罪人なんだ?」
「憤怒の罪 サタン。いや、本名を教えておこう。モードレッドだ」
「モードレッド・・・」
「さらばだ少年、竜王女。真実を見極めるがいい」
モードレッドはそう言い残して部屋から出て行った。
「ジャンヌ、あいつから黒の魔力は感じ取れたか?」
「ううん。お兄ちゃん、あの人からは何も感じ取れなかった。あの女の人から感じ取れた黒い魔力は無かったよ」
「そうか。本当に敵として来たんじゃないんだな」
「そのようだな。主様、これからどうする?」
「とりあえず、街の散策か。・・・まぁ、何にしても今日は寝るか。ジャンヌも途中で起きてお茶出しまでしてくれてありがとうな。
もう眠いだろ」
「ふわぁ~・・・うん」
「ははは。さて、寝るか」
「そうだな。主様」
俺とスカーレットは別々のベッドで横になる。ツインベッドで頼んだから俺とスカーレットは別のベッド。さすがにまだ一緒で寝るには刺激が強い。いや、同じ部屋なんだけどね。
ジャンヌはスカーレットに抱きつきながら眠っている。その様子を見て、俺とスカーレットは顔を見合わせて笑う。
何気ない日常。こんな日がいつまでも続けばいいのに。そう願って眠りにつく。
これから待ち受けるクソみたいな未来なんて知らずに。残酷な世界が俺たちを襲うのに時間はそんなに掛からなかった。




