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48、トレットの町の騒乱(2)

 前編三人称です。

 その日、トレットの町に滞在する冒険者がギルドに集められた。

 老若男女、種族問わず様々な人間が集まっているが、その共通点は全員がDランク以上の冒険者という点だろう。

 今回の召集について各々の意見を交換している中、太く迫力のある声が響き渡った。


「諸君、よくぞ集まってくれた! これより我々は、町の北側にて目撃された魔物の大群を討伐しに行く! 敵は数も質もこれまでの大量発生の比ではない! よって、君達上級冒険者の力が必要だ! トレットの町冒険者ギルドの総力を挙げて、我らの愛する町を守ってみせようぞ!」


「「うおおおおおお!!」」


 その様子を、現在受付嬢として一日中カウンターに突っ伏しているノルシーが見ると、こう呟いた。


「はあ、あの気迫を普段の仕事にも向けてくれればいいんだけどねえ」


 まったくである。





 今回の討伐戦に参加するのは総勢およそ三百人。

 内訳は、Dランク二百人、Cランク九十人、Bランク十人、Aランクが一人。

 Sランクは当然のことながらおらず、たった一人のAランクも正確には元Aランクだ。

 その元Aランクとはもちろんギルドマスターのことである。


 現在トレットの町冒険者ギルドが駆り出すことのできる・・・・・・・・・・最高戦力だが、大量の魔物群を討伐するには少々心許ない。

 従って、作戦は緻密に考え抜く必要がある。


 前もって用意されていた作戦はこうだ。

 言うまでもないが、頭の残念なギルドマスターの代わりにノルシーが情報を統合して練ったものである。


 まず、戦力の三分の一は町の入口付近にて防衛ラインの役目を果たすため残しておく。

 先遣隊が魔物群の正確な位置を把握した後、残りの三分の二で一気に叩く。

 徐々に戦線を後退させながら敵の数を削っていき、最後には冒険者が囲い込む陣形に持っていけば勝利である。

 脳筋の多い冒険者達でもギリギリ理解できるであろう作戦だ。


 そして今、先遣隊が戻ってきたところだ。

 ギルドマスター率いる強襲隊は持ち帰られた情報をもとに進軍する。


 敵の数はざっと二千。

 種族は様々なものが入り混じっているとのこと。

 少しずつ町の方に向かってきてはいるものの、統率はとれていないようだ。


 こちらにとって有利な情報を耳にし、冒険者達は興奮気味だ。

 数では圧倒的に負けているが、人には知恵と武器がある。

 一騎当千と言われるAランクも混ざっているのだから、少なくともこちらが一方的に蹂躙されるなどという事態はまず訪れないだろう。


「そうか。では、強襲隊は三手に別れて行動する。二班が東西に迂回して側面から、そして最後に正面からの奇襲だ。頃合いを見て正面の班が火属性魔法を打ち上げる。それが合図だ。いいな!」


 昨夜ノルシーから念入りに教え込まれた台詞をきちんと言えた自分に安堵するギルドマスター。

 リーダーのこんな内心を見れば、冒険者達の士気が一気に下がってしまうのではなかろうか。



 先遣隊の情報に忠実に従い、強襲隊は魔物群を挟撃する陣形となった。

 やがて、森の上空に火球が打ち上がる。


「突撃ィィィ!」


「「うおおお!!」」


 町にも届くのではというほどの勢いで、二百人分の気合いがこもった掛け声が響き渡る。

 魔物群に気付かれるという点では逆効果なのだが……それを差し引いても気性の荒い冒険者達には起爆剤となったことだろう。


 戦場が森であるにも関わらず、火属性魔法、雷属性魔法、その他いろいろな魔法が飛び交う。

 この一手は今回の作戦で最も重要な攻撃だ。下手に出し惜しみすれば、そのせいで負けてしまう可能性もある。

 故に、それぞれが己の最高の一撃を繰り出す。


「ファイアストーム!」

「アースランス!」

「ウィンドカッター!」


「グギャアァァアアア!!」


 奇襲を仕掛けただけあり、初手で冒険者側優勢の波を作ることができた。

 次に戦士が乗り込み、中型~大型の魔物の殲滅にかかる。


「うおお! 人間の底力を舐めるな!」


「いけるぞ! このまま押し込んで一掃しちまえ!」


 ここまでの完璧な流れもあり、冒険者達の士気は最高潮にまで達していた。

 魔物はうまく動くことができず、魔法と力技によって急速にその数を減らしていた。


 属性魔力が入り乱れ、空気がめちゃくちゃになっている。

 それに加え、舞う鮮血や怒声、断末魔、その他もろもろが含まれた大音量によってそこは立派な戦場と化していた。

 常人ならば立っていることさえままならない状況だが、百戦錬磨の冒険者達はものともしない。


 しかし、一方的に蹂躙されるだけの魔物群ではない。

 冒険者にも熟練の者がいるように、魔物にも長き時間を生き延びてきた猛者が存在するのだ。


「ーーヴァルルルルルァァア!!」


「なっ、あれはジャングルグリズリー! フォレストベアの上位種だ!」


「何ぃ!? ヤツらは密林に生息しているんじゃねえのか!?」


 魔物側の強力な個体が混ざることにより、反撃が始まる。

 冒険者は押し返されていた。


 数の問題もあり、先程までの様な戦い方は厳しくなってきた。

 それを感じ取り、各班のリーダーは指示を出す。


「一時撤退だ! 場所を移して今度は迎え撃つぞ!」


 魔物の反撃は想定通りだったため、撤退は速やかに行われた。

 盾役が殿を務め、魔法での牽制も事前に予定していた陣形で行うことができた。


 そうしたパターンを何度も繰り返し、着実に魔物の数を削ぐことができていた。


 これが人間の軍隊だとしたら、こうはいかなかっただろう。

 学習し、対策されて終わりだ。

 その点、魔物は知能が低いので単純な戦力さえ気にしていれば良いのだ。


 冒険者達の顔には終始喜色が浮かんでいた。


 しかし……。

 戦線が防衛ラインまで後退し、文字通りの総力戦となったとき、ある一人がそれに気づいた。


「おかしい……。何故魔物がこんなにも……」


「大量発生の、っ! 原因は、魔気の溜まりすぎ……っだあ! 今回は、極端だったんだろう」


 事実、ここまでの規模ではないにせよこうした事態は何年かに一度起こる。

 その経験があったからこそ迅速な対応ができたという背景もあったのだが……。


「いや、そうじゃねえ。魔物の数が……全然減ってないんだ!」


「……………はあ?」


 その周囲にいた何人かの冒険者が発言した男を見た。

 その男は魔物群の位置や数を確かめに行った先遣隊の一人でもあり、弓士として全体を俯瞰することに長けているので、その言葉には信憑性があった。


 冒険者達はざわつく。

 もしそれが本当だとしたら倒しきれないかもしれない。

 先程の会話を皮切りに、魔物の不自然なまでの勢力に不安を抱き始まる者が現れた。


 その不安は伝染していき……士気を著しく下げる結果となった。


 事態を重く見たギルドマスターは舌打ちをし、叫ぶ。


「俺が原因を突き止める!! それまで持ちこたえていろ!」


 同時に、現在闘っていたオークを一刀両断して地面を揺らし、走る。


 ギルドマスターの武器は、身の丈程もある巨大な大剣だ。

 全身を覆う筋肉が発揮する圧倒的な膂力により、相手を叩き斬る。


 行く手を阻むコボルトを大剣の一撃で次々と葬っていく。

 この光景をトーヤが見れば、『無双ゲー』と表現したことだろう。


 進撃するギルドマスターにジャングルグリズリーが剛腕を振り下ろす。

 ギルドマスターは脚を地面にめり込ませる勢いで踏み込み、大剣で迎え撃つ。


「ヴォルルルァ!」


「どぉらあああ!」


 ーーガイイィィィィィン!


 まるで鋼同士を打ち合ったような轟音を発し、爪と大剣が交差した。

 辺りに衝撃波を撒き散らし、両者の筋肉が軋む。


 次の一手を先に繰り出したのは、ギルドマスターだった。

 大剣を地面に叩きつけ、その反動を利用してジャングルグリズリーの頭上に飛び上がった。

 今更こちらを確認する熊の頭に、全力で大重量を激突させる。


「ら、あああぁぁぁ!!」


 振り下ろされた大剣は見事ジャングルグリズリーの体をすっぱりと……ではなく押し潰した。


「す、すげええええ!」


 超パワーのぶつかり合いに興奮する冒険者達。

 殲滅スピードが上がっているのを見たギルドマスターは、満足して前線へと足を進めた。





 何体の魔物を倒したか分からなくなった頃、ギルドマスターは驚愕の光景を目にした。


「な、なんじゃこりゃあ!」


 開けた視界の良い場所、いるのは当然大量の魔物。そして……。


「魔物共が、どんどん生み出されてるじゃねえか!」


 こりゃ減らないわけだ、とギルドマスターは愚痴りながらもう一度よく確認する。


 魔物弾幕に隠れて見えにくいが、奥の方には数匹のコボルトがいた。

 そのコボルト達は、何やら七色に輝くものを掲げているのだ。


「ありゃあ、ダンジョンコアだな……。あれが原因か、よし! 壊すぞ!」


 長年の勘に従って即座に動き出したギルドマスター。

 オーク、ファングボア、グリーンウルフなど、立ちはだかる全ての敵を薙ぎ倒しながら進む。


 それに気づき、命の危機を感じたコボルト達は、驚きの行動に出た。

 なんと、いくつものダンジョンコアを融合し始めたのだ。


「あんなこともできるのか!?」


 次の瞬間、一回り大きくなったダンジョンコアが光を放った。

 そして現れる、巨大な影……。


「こ………こいつぁ……!」


 丸太のような太い脚。

 それに比べ、小さな腕。

 獰猛な牙と瞳が、こちらを向いていた。


「ーーガアアアアアアア!!」


 長いトカゲのような尻尾が木に打ち付けられると、それは根本から音を立てて吹き飛んだ。


「ドラゴンかよ……」




 一体、どれだけの攻防を続けただろう。


 とうに周囲の魔物達は戦いの余波により滅んでおり、地面はそこらじゅうに穴が空いている。

 血の臭いが充満するなか、荒い息のギルドマスターが汗を拭い、言った。


「へへっ、元Aランクを満身創痍にするとは……。もしかしたら、上位竜に匹敵するかもなあ」


 既に片目と右前足を失った地竜は称賛に対し答えることはできないが、代わりにグルルと喉を鳴らした。


「さて、そろそろ決着を……」


 そこまで言いかけた、そのとき。

 地竜の体が輝き始めた。


「な、何だ?」


 やがて全身が光に包まれ、すぐ側に転がっていたダンジョンコアにそれが吸い込まれた。

 ダンジョンコアはゆっくりと上昇し、いくらかの光を周辺から吸い込んだあと、さらに大きく発光して一気に町の方へ飛翔した。


「……………………。って! ボヤっとしてる場合じゃねえ! 早く戻らねえと!」


 何となく危険だと思ったギルドマスターは、重い身体に鞭を打って町へと向かっていった。





 戦線へ戻ると、魔物群の追加がなくなったことにより冒険者側がほぼ殲滅完了しているところだった。

 人間同士の戦争とは違い、魔物には降伏、撤退といった概念がないので、最後の一匹までキチンと倒し終えなければならない。


「ギルマス! あんたが魔物の追加を止めてくれたのか? おかげで助かった!」


 一人の冒険者がギルドマスターの姿を発見し、話しかけてくる。

 その青年の笑顔とは裏腹に、内心はまだ焦りが募っているのだが、このラストスパートで暗い雰囲気にさせるわけにはいかない。

 努めて明るい声で返した。


「ああ。多少トラブルはあったが、こちらもうまくいった。あとは一匹残らずこいつらを倒すだけだ。あと一息、頑張ってくれ!」


「ああ!」


 その後、無双ギルドマスターも加わり、無事殲滅を終えた。

 トレットの町で起こった攻防は、一旦幕を閉じたのである。



 ーー町の中での戦闘もそうとは限らないが。



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