37、冒険者ギルドの事情
面倒臭い話が多いです。
興味なかったら読み飛ばしてください。
この冒険者ギルドの激し過ぎる宴会には、なるべく、いやできれば、ではなく絶対に関わりたくない。
とは言えこのまま帰るのもなんだか負けた気持ちになるので、それはしたくない。
ではどうするか。
答えは簡単。空気になればいい。
というわけでアリスと共に絶賛隠密中。
抜き足差し足忍び足、と最近聞かなくなった定型文を脳内でつぶやきながら人の合間を縫って移動する。
そして思う。
何しにここに来たんだっけ。
あ、そうだ。冒険者になりに来たんだよ。
今俺は勇者という名の無職なので、ちゃんと手に職を持たないとこのままではいつかプライドが深刻なダメージを受けてしまう。
そう考えるとクラスメート達は全員王国に養ってもらってるニートなんだなあ、とか考えていると、受付カウンターの前に到着していた。
その人は他の受付嬢さん達が走り回って働いているにも関わらず、けだるげに突っ伏していた。
茶髪のポニーテールがカウンターの上にだらーんと垂れて広がっている。
アリスは首を傾げている。
「あのー、すいませーん」
「………」
「あのー、冒険者登録をしたいんですがー!」
「!」
若干大きめの声で近づいて話しかけると、ようやく頭を上げてくれた。
アリスは驚いている。
「え? ……ああ、あたしに話しかけてたのか。ふあ~あ、で、なんだって?」
「冒険者登録です」
「ああ、そうだったね。しかし物好きもいたもんだねえ。わざわざこんな受付嬢のところに来るなんて」
他のところは混んでたしね。
というよりも普通の冒険者ではここに来れなかっただけだろうけど。
受付嬢さんは散らかったカウンター上の書類の中からなにか探している。
そして二枚の紙を引き抜いた。
「そこの子も一緒でいいね。じゃあ、この紙に名前、年齢、得意武器、ステータスを書いて。得意武器とステータスは書かなくてもいい。代筆が必要ならやるよ」
やる気のない喋り方だけど仕事は丁寧だ。
大陸語スキルのおかげで俺は読み書きはできるけど、アリスはどうだろう。
アリスを見ると首を振っているので、書けないらしい。
でも、ひとつ不安がある。
「えーと、この子奴隷なんですけど、大丈夫ですかね?」
「んー? ああ、大丈夫だよ。奴隷でも冒険者になれる。というか、本当は逆なんだけど」
よかった、と思い名前と年齢の欄を二人分書く。
ちなみに、この世界では十歳から冒険者になれるそうだ。
書きながら、先程の受付嬢さんの言葉について考察する。
逆ってどういうこと?
そこで、ふと思い出した。
ギルド内で騒いでいる男の一人に首輪がついていたことを。
「なるほど。奴隷が冒険者になれるんじゃなくて、冒険者のまま奴隷になれるってことね」
そのつぶやきは本当に独り言程度の音量だったけど、けだるげな受付嬢さんには聞こえていたようだ。
少し目を見開き、口許をニヤリとさせて身を乗り出す。
「あんたなかなか察しがいいね。でも、そこの子はピンと来ていないようだよ」
急に早口になったので、少々面食らってしまう。
でもアリスに説明するという口実で俺の考えを話させようとする意志はしっかり伝わってきたので、ここはノッておく。
困惑するアリスに向けて、言った。
「ほら、冒険者っていうのは収入が不安定……つまり、運次第でお金が稼げなくなるよね。それがずっと続くと、食べ物を買うお金や寝る場所を確保するお金もなくなってしまう。すると、借金を返せなくなって奴隷になってしまうんだ」
アリスは目を伏せながらうんうんと頷く。
話を聞いて同情しているんだろうか。
いい子だ。
「そして、奴隷として働くにしても冒険ばかりやっていたのだから役に立てない。いずれは主人に捨てられてそのまま借金も返せなくなってしまう。だったら、主人のためだけに働く冒険者になればいいんじゃないか? そう思ったんだろうね。それで、ギルドに登録できないと不便だから冒険者のまま奴隷になれるようにした。こういうことじゃないかな?」
結構まどろっこしい話をしたつもりなんだけど、アリスの反応を見る限り理解出来ているみたいだ。
頭はいいとみた。
対して受付嬢さんは不敵な笑みを崩さず黙って話を聞いていた。
なんか面倒臭そうだなあ。
「付け加えると、それが制度化されたきっかけは凄腕冒険者を不当な手口で奴隷にして荒稼ぎしようとした貴族のわがままなんだがね。まあ経緯は大体あってるよ」
そこまで言って、今度は値踏みするような表情になった。
ちょっと近かったので一歩身を引いてみる。
「いやだなあ、あんたを害するつもりなんてないよ。ただ面白そうだから見てただけ。全く、今日はギルドがうるさいのなんのでツイてないと思ったんだが、そうでもなかったようだね。はい、これがギルドカード」
二枚の分厚いカードを渡された。
そこには先程書いた情報とEを表す文字が記載されていた。
今の間にこれ作ったんですか。
仕事早いですね。ミステリアスな人だけど。
「これは大陸共通の身分証でもある。冒険者ギルドのある国ならどこでも使えるよ。あと、当然冒険者として活動するためには必須のものだから、くれぐれもなくさないように。再発行には大銀貨三枚いただく。
……冒険者についての注意事項があるんだけど、聞くかい?」
冒険者ギルド協会には現在大陸の九割以上の国が加盟していると聞いた。
ということは実質このカードがあればどこに行くのも自由自在ということだ。
地球じゃ考えらんないよ。
このフリーダムさを分けてあげたい。
で、注意事項ね。
もちろん聞きますとも。
どうせ他の冒険者は聞かないんでしょ、テンプレ通りに。
「はい、聞きます」
「やっぱりトーヤは聞くんだね。他の奴らは情報の大切さをこれっぽっちも分かってないもんだから、説明も聞かずにすぐ死ぬんだ」
ほらね。
「じゃあ、簡潔にまとめるが……。
まず、依頼について。
これは明確な種類分けはされていないんだが、系統は主にこの三つに別れる。
討伐、採取、派遣だ。
討伐はそのまま単純に魔物退治。
冒険者といったらこのイメージが強いね。
もちろん一番人気。
あ、魔物の素材はギルドで買い取りもやってるよ。
次に、採取。
これは個人や店で必要になった素材を集めてきてギルドに納品する。
集める素材は薬草なんかが代表的だ。
ギルドで群生地の情報なんかも提供してる。
ただ、安全で命の危険が少ないぶん報酬も安い。
だから初心者なんかに人気だね。
最後に派遣。
これはまあはっきり言って雑用だね。
町の住人が、人手が足りないときに冒険者を手伝いに来させるんだ。
といっても、屋根の修理や害虫退治なんかばかりだが。
でも、冒険者には個性的なヤツが多い。
当然一点に尖った変人なんかもいるわけだから、得意不得意によってはすぐに依頼を終わらせることができる。
そういうこともあって、熟練の冒険者であっても派遣依頼を受けることがある。
あとは指名依頼や緊急依頼なんかもあるけど、そうそう起こることはないから説明はそのとき聞けばいいよ。
あそこの依頼板から紙を引っぺがしてここに持ってこれば、依頼を受けられる。
そして、冒険者ランクについて。
ランクは下からE、D、C、B、A、Sがあり、ギルドに功績が認められると上がる。
あんた達は登録したばかりだからEからだ。
これを基準に受けられる依頼のランクも変わる。
自分のランクよりも一つ上の依頼までしか受けられないよ。
強さとしては、Eランクが一般人に毛が生えた程度。
Sランクが人知を超えた力を持つ超人。
って感じだ。
ちなみにSランク冒険者は十人までという決まりがある。
まあ国王と同等の権限があるんだから当然といえば当然か。
説明はこんな感じだよ。
なにか質問はあるかい?」
受付嬢さんのわかりやすい説明で大体のことは把握した。
アリスもギリギリ理解できたみたい。
「さすがギルドマスターさんですね。とても分かりやすかったです」
そう言うと正面で向かい合う目に鋭さが増した。
「あたしはギルドマスターじゃないよ。だが…くくっ、ますます面白い人材だ、君は」
この人のところに全然人が並んでなかったのって、隠密スキルが使われてたからなんだよね。
俺の気配察知LV5をしてようやく気づけるような隠密の使い手とあらば、ただ者じゃないことくらいわかる。
それにギルドの事情にも妙に詳しいようだし、今の反応からしても間違いないかな。
まあそこは別にどうでもいいので、話を進める。
受付嬢さん改めギルドマスターさんはまだ俺を睨んでいたけど。
「常時募集している討伐依頼とかはないんですか?」
「ああ……。常時討伐依頼ね。昔はあったんだけどね、今はなくなった。何故か予想がつくかい?」
うん、まあこの質問は答合わせみたいなつもりでしたんだし、予想はついてるよ。
「ギルド同士で報酬についての揉め合いが起きたってところですかね?」
「まさにその通りさ」
話をまとめると、こういうことだった。
普通、討伐依頼を出すのはギルドのある町の領主や魔物被害の大きい村の村長などらしい。
目的は魔物の間引きをして街道や村の人的被害を減らすこと。
環境を守るためという場合もあるらしい。
最初の頃は常時討伐依頼を出すという形で程よく間引きを行っていた。
しかしある問題が浮き彫りになってきた。
ある冒険者が町と町を移動するついでにその間にある街道の魔物の討伐依頼を受けた。
結果、依頼を受けたのはAという町だったが依頼完成の報告をするのはBの町になった、という事態が発生した。
冒険者ギルドでは受けた依頼は同じ町で報告しなければいけない、という決まりはない。
町を跨いだ納品依頼などもあるからだ。
だが、常時討伐依頼だけはそういうわけにもいかなかった。
町と町の間の街道、そこの魔物を討伐した際の報酬は、どちらの町の領主が払うのか、という議論が交わされたのだ。
街道の所有権は国にある。という形になっているところが多いので、国が直接払うべきではないのか、という意見も出たそうだが、依頼を出したのはそれぞれの町の領主なので一体誰が払うんだ! となり、結局常時依頼制度は廃止された。
らしい。あんまり興味ないけど。
ほら、アリスもつまらなさそうにしている。
……はい、最初に話を持ち出したの俺ですよね。
すいませんでした。
ただ、常時依頼があったら便利だなあって思っただけです。
薬草とかは買い取りという形でいつでも納品できるらしいけど。
「今は、街道の魔物の間引きはかけだし冒険者や騎士団のレベル上げの名目で自主的にやらせているのが現状だ。……まあ、辺境なんかでは常時依頼制度を続けているところもあるらしいけど」
こうして話は締めくくられた。
「さて、長くなってしまったがあんた達が受けるのは薬草採取でいいんだね?」
「はい、それでお願いします」
「わかった。薬草の群生地は町を出て西にある森、門の入口より少し進んだところにある。薬草図鑑はいるかい?」
「いえ、大丈夫です。結構な間拘束してしまってすみません」
「仕事だからね。それに、あたしにとって有意義な時間だった。感謝こそすれ、迷惑はしてないよ」
「それはどうも。……アリス、行こう」
「はぃ………」
「しゃべれたのかい……」
来るとき同様、全力で隠密を使ってギルドを出ていく。
ギルドマスターさんはどちらかというと苦手な部類の人だけど、何故か憎めない気配があった。
そんな感想を抱く俺の背後から、最後に声がかけられた。
「それと、あたしはギルドマスターじゃなくてギルドサブマスターだよ」
これは恥ずかしい。




