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38、薬草採取

 俺とアリスは今、町を出てすぐの場所にある森に来ている。

 薬草採取の依頼を達成するためだ。


 草花の香りが鼻孔をくすぐる中、足元を注意深く観察していく。

 ブーツを新調したばかりなので、木の根っこに躓かないように気をつけなきゃ。

 そうして視界に入った『草』を解析。


『薬草 上質な薬草。

    傷を癒す効果がある。       』


 本当はもっと詳細な成分とかも見られるんだけど、依頼をこなすにはこれで十分……というかどうせ分からないのでこれで判定する。

 そして丁寧にちぎる。

 根っこから抜くとまた生えてくるのに時間がかかり、採取のサイクルが滞ってしまうのだ。


 スキルリストを見ると、採取スキルの必要SPは30。

 一応最低ランクなので勇者の成長速度であればすぐに習得できると思う。

 こうして自分の適性が確認できるというのもMP変換の利点だね。


 などと考えていると早速習得できていた。


名前:トーヤ・アシハラ 年齢:16 種族:人族(勇者) LV:12

HP:480/480 MP:1024/1100 SP:99

筋力:480 耐久:380 魔攻:860 魔防:880 敏捷:540

スキル:、MP変換、視覚強化LV1、剣術LV8、体術LV1、火属性魔法LV3、回復魔法LV10、空間魔法LV5、HP高速回復LV3、MP高速回復LV10、解析LV3、魔力撃LV4、MP吸収LV9、気配察知LV6、隠密LV4、思考加速LV5、採取LV1、速読LV1、大陸語LV10、方向感覚


 なにやら新しいスキルも増えている。

 視覚強化、体術、速読なんかだ。

 視覚強化は地面を注意深く見ていたからかな。

 体術は戦闘に取り入れているからだろうし、速読はもとから適性が高く、書庫での大量読書で熟練度が貯まっていたんだろうね。


 スキルのレベル上げを兼ねて採取を続けていると、アリスが手にいっぱい草を抱えてやってきた。

 wwwwwwwだ。


「とれ………ました……」


「ご苦労様。助かるよ」


 そう言って受け取ると、笑顔になってまた採取しにいった。

 大量の草を一気に解析していく。

 納品できそうな薬草を仕分けしていくのだ。

 鑑定だと一つずつ調べなければならないのだけど、解析ではこの山をまるごと調べられる。

 効率の良い作業はやっていて気持ちいい。

 次々と解析しては薬草を空間収納に入れていく。


 その作業は一時間ほど続いた。





 そよ風に頬を撫でられながらアリスと森を探索する。


 視界の端で草むらがガサゴソと揺れたのが見えた。

 気配察知を発動すると、どうやら魔物であることが分かった。


 草むらの奥に魔物の集団の気配も感じる。

 今見つけたのは斥候みたいだ。


「アリス、魔物だよ。気をつけて」


「!!」


 俺は腰の剣に手を当て、アリスは俺の外套の裾を握る。

 臨戦態勢に入った途端、三体の魔物が飛び出してきた。


 魔物は、小柄な人型で狗の頭部を持っていた。

 これまたファンタジーの定番、コボルトだ。

 確かもとはドイツの伝承にある妖精なんだっけ。

 でも、唾を撒き散らして見るからに凶暴な顔で襲い掛かってくるコボルト達に妖精を感じられる部分なんかこれっぽっちもない。

 俺からしてみればただのMP供給源だ。


 一瞬の間にコボルト三体を切り付ける。

 動きを止めるコボルト。


 ステータスを見たところMPは一体につき100前後と予想外に高かったので、間髪入れずに吸収することを優先する。


 首を狙って突きを繰り出す。

 ゴブリンのとき同様、体内での吸収が一番効率がいい。

 コボルトの魔石は頭にあるようだけど、流石に頭蓋骨を貫通させる自信はないので首狙いである。


 MPを吸収している間剣が一瞬使えなくなるので、新スキル体術の出番だ。

 足払い、肘打ちなど体の先端を駆使した技がやりやすい。


 吸収し終わったら次のコボルトへと標的を定める。

 それにしても、MP吸収も成長したものだよ。

 LV1の頃は1MP吸収するだけでも一秒かかったからね。

 LV9になった今では一秒あれば30は吸える。


 戦闘中でも、コボルトの援軍は絶えず草むらから出てくる。

 アリスの声のためにもMPは大量に必要なので、丁度いい。


 でも、ほどほどにしてくれないとアリスを守りながらだから………アリスを……………って、アリス? え?……アリスいないし。


 気配察知を使うと、ギリギリ反応した。

 アリスはコボルト達が飛び出してきた草むらのさらに奥にいるようだ。


 急いで向かう。

 何があったのかは分からないけど、手遅れになる前に……早く。

 コボルト? そんなの二秒で全滅させたよ。


 ステータスをフルに使って駆け抜ける。

 木々を掻き分け荒んだ土を踏み締め、移動に全力を注ぐ。


 気配を近くに感じ、急加速を終えた直後、遂にアリスを発見した。


 その広い空間は木が生えておらず、地面もなだらかだった。

 アリスは両手を広げなにかを守るような姿勢を見せ、その後ろには何人かの小さな子供が。

 震える子供達とアリスを囲むように展開するコボルトの群れ。


 俺が現状を認識したのは、ちょうど一匹のコボルトがアリスに襲い掛かろうとしていた瞬間だった。


 コボルトはその鋭い牙でアリスの肩口に噛み付こうとしている。

 アリスは決死の表情を見せ、それでも子供達を襲わせるまいと避けようともしなかった。


 いや、あのさあ。

 一瞬見ない間にどうしてこんな状況になるんだろう。

 せめてもう少し待っていてくれれば……。


 思考加速を速攻で起動する。


 彼我の距離はざっと十メートル。例え全力で加速したって間に合う距離じゃない。発動速度、射程距離、どちらも兼ね備えた攻撃手段を……いや、攻撃じゃなくてもいいのでは? 空間魔法の転移なら……、いや、あれは発動までの詠唱時間が長い。それじゃとても間に合わない。じゃあどうしよう? 他の魔法といえば火属性魔法くらいしかない。LV3で新しく覚えたファイアーバレットなら速度も射程も十分足りる。でもこれは論外だ。こんな森の中で使って火事にでもなったらそれこそゲームオーバーだ。だったら……新しいのを使うまで。


『氷属性魔法:必要SP20』


 取得。

 急げ……。


「アイスボール」


 新たな魔法名を唱えた俺の目の前から、突如氷の塊が出現する。

 それは俺の意思に応えるかのように高速で射出される。


 空間を一段飛ばしで駆けるそれは小さい。

 詠唱時間が不十分だったためだ。


 しかし、目的は攻撃の中断。

 そしてアイスボールはその役目を見事果たした。


 コボルトの狗頭と氷の塊が激突する。

 氷の塊はその衝撃によって無残に砕け散る。

 一方、コボルトは認識外からの突然の攻撃により矮躯をよろめかせる。


 アリスを狙ったコボルトの強襲は、失敗に終わった。

 全ては俺の計算通りに。なんてね。


 ひとまず危機は去った。

 ここからは駆逐だ。

 うちの子を襲ったお詫びのMPはたんまりいただきますので。


 まずアリスの目の前で体勢を崩すコボルトの真後ろに転移して一刀両断。

 周囲を見渡してこれみよがしに殺気を放つ。

 こういうのは慣れないから自信がなかったけど、ちゃんと怯えてくれているようだ。


 プレッシャーに耐え切れずこちらに向かってくるコボルトを一匹ずつ剣で処理していく。

 するとなにかが頬をかすり、一筋の血が流れた。


 謎の攻撃の正体を探るため、もう一度辺りを観察すると、一匹のコボルトが魔法を使っているのが見えた。

 今かすったのは風の魔法か。

 ………MPが多いのはそういうことだったのね。

 それならばこちらも相応のお返しをしよう。


「アイスボール」


 さっき取得したばかりの氷属性魔法、LV1のアイスボールを連続でばらまく。

 いくつもの氷塊が空中で凝結し、勢いをつけて砲弾のごとく発射される。

 幻想的であり、受ける側からすれば危険極まりない光景だ。


 割と適当に撃ったつもりだったんだけど、一つ残らず的確に命中している。

 視覚強化スキルのおかげかもしれない。


 攻撃手段が『ひっかく』か『かみつく』しかない二足歩行の劣化ポ○エナくらいなら十分一撃で倒せる。

 殲滅速度を重視すれば十体や二十体、一分もかからない自信がある。

 つまり何が言いたいかというと、俺は合計97SP手に入れたってこと。



「うわああああん!!」

「こわがったあぁーーー」

「ひぐ……だからやめようっていったのにぃ………」


 アリスが必死に守っていた子供達。

 上から男の子男の子女の子は、俺がコボルトを殲滅した途端泣き出してしまった。


「うぅ………ぐすん………………ひっぐ………」


 当のアリスもずっと俺に抱き着いたままこの調子だし、この混沌とした状況が終わるには大分かかりそうだね。





 主人である凍弥と共に薬草採取に勤しんでいたところ、アリスは魔物の襲撃を受けた。

 以前村で魔物を何度か見たことはあるが、それはいずれも死体の状態だった。

 それは生々しく、生理的嫌悪を掻き立てるものであったため、アリスは決して魔物に良い感情は抱いていない。

 世間での魔物のイメージもあり、アリスは立ちすくんだ。


 主人は魔物を、しかも三体も倒せるのだろうかーー。

 主人の顔を見上げてアリスは不安に思った。

 主人の、これまでの自分の扱いから考えて犠牲にするということはないだろうが……。

 最悪、そういうことも考えなければならなかった。


 しかし、そんな彼女の不安も杞憂に終わった。

 主人は目にも留まらぬ剣技をもって三体の魔物を切り伏せてしまったのだ。


 その流麗なる剣さばきにアリスは圧倒された。

 自分の主人はこれほどまでに強かったのか、と。

 そういえば、自分は覚えていないがアリスを拾ってくれた奴隷商人であるマルクの馬車を襲ったフォレストベアを倒したのが主人だと聞いた。

 なるほど、確かにこの強さも納得だ。とアリスは戦慄した。


 まるでおとぎ話のような戦いに見惚れていた、その時だった。

 アリスの耳に、微かな悲鳴が聞こえてきたのだ。


 アリスは狼の獣人である。

 そんな彼女の聴覚は、人間の何倍も優れている。

 だから、凍弥の聞き逃した悲鳴を聞き取ることができたのだ。


 直後アリスは、一も二もなく駆け出した。

 獣人としての直感が彼女にそうさせたのだ。


 僅かな音と人間の臭いを頼りに、森の中を疾走する。

 ようやく辿り着いたそこには、固まってうずくまっている三人の子供。

 そして狗頭の魔物が群れを成していた。


 見たところ子供達は自分よりも年下だ。

 このままではあの魔物達に食べられてしまうだろう。

 そう悟ったアリスは、怯える子供達の前に踊り出た。


「っ! だ、誰!?」


 そして襲い来る恐怖。

 こんな恐怖を感じたのは火事で家族を失ったときや、奴隷として売られることを告げられたとき以来だ。

 自分でも何故こんなことをしたのか分からない。

 見ず知らずの人族の子供のために命を投げ出すなど、正気ではない。


 だが、アリスは引かなかった。

 自分がそうすべきだと判断したが故に。

 『自分の正しいと思った行動をしなさい』そう主人と約束したが故に。


「ギギャア!」


 魔物の牙が彼女の命を引き裂こうとその凶刃を向ける。

 生臭い吐息、今はそれが、死の香りに思えた。

 体が震える。硬直して指一本動かせない。


 もう自分は助からないだろう。

 短い人生で、呆気ない終わり方だったなあ。

 アリスが死を覚悟した、そのときーー。


 とんでもない勢いで迫ってきた氷塊が、魔物の頭に直撃したのだ。


 魔物はよろめき、混乱している。

 アリスも、何が起こったのかさっぱり分からない。

 ただ、自分は助かったのだということは分かった。


 呆然とするアリスの目の前に突如、人影が現れる。

 いつの間にか魔物は真っ二つに切り裂かれ、血に塗られた銀色の輝きだけが彼女の目に映った。


 そのまま殺気を膨らませ、次々と魔物を撃退していく人影はーー。

 何を隠そう、彼女の主人だったのだ。


 辺りに魔物の死体のみが集まったその現場を見て、アリスは遂に緊張の糸が切れた。

 怖かった。

 もはや過去形となったその感情を思い出してしまい、背後の子供を守るという使命感によって支えられていた精神が、崩れた。


 あのときと同じように。

 声を取り戻したときのように。

 アリスは泣いた。

 子供じみた行為だと分かっていても、主人に抱き着く衝動を抑えられなかったのだ。


 主人の困惑顔は、生憎アリスには見えない。

 これが、アリスの最初の冒険だった。

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