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36、トレットの町

「ぁ……りぁ………とぅ………ざぃ、ました…………!」


 掠れた声で感謝の言葉を告げるアリス。

 多少は喋れるようになったけど、まだまだ治りきらないようだ。

 回復魔法LV10でも治らないとは、相当傷が深いと見えるね。


 それでも、はしゃぐアリスは本当に嬉しそうだ。

 俺も笑顔になる。


「どういたしまして。今はまだ無理だけど、もう少ししたら普通に話せるようになると思うから、しばらく我慢してて」


 スペリオルヒールを連発してもこれ以上の効果がないのは感覚的に分かる。

 でも、回復魔法をカンストさせた先、治癒魔法ならば完全に治せるかもしれない。

 必要SPは1200だから、取得するだけでも大変だ。


 ちなみに治療前のアリスは体のところどころに傷や火傷があったんだけど、それもついでに治してしまった。

 やっぱり奴隷といっても12歳ーーマルクさんから聞いたーーの女の子が傷だらけじゃ嫌だよね。



 今日はもう疲れた。

 というか、いろんなことがありすぎた。

 冒険者を助けて、盗賊に襲われて、マルクさんと出会って、アリスと契約して……。

 はあ、小説だったら4話くらいに渡って書かれていそうな程の、それ程の密度だったよ。


 まあつまりなにが言いたいかというと、もう眠い。

 あくびをしながらアリスと一緒にベッドに入り、意識を闇の中へと落としていく。

 何故かアリスが未だ緊張していたのは気になったけど、それどころじゃなかった。

 おやすみなさい。



 その後すぐに、夕食を知らせにきた亭主さんによって俺の意識は再び現実に引きずり出されることとなる。





 翌日。


「ぉ………おはょぅ……ござぃます………」


 朝、寝癖を感覚に頼って整えていると、アリスが起きてきた。

 まだ早朝と言ってもいい時間帯だ。

 昨日は疲れただろうからぐっすり眠れたといいんだけど。


 え? 俺?

 まあ俺は、ずっと一人暮らしで家事も朝早く起きてやっていたから体内時計には自信があるし、前日に疲れたからといって寝過ごすことはあまりないかなあ。

 我ながら便利な体だ。


 アリスは寝起きで目をこすってはいるけど、それを差し引いてもどこか微妙な顔だ。

 おはようの挨拶を言うことに違和感を感じているのかな?


「おはよう、早いね。朝食まで寝かせてあげようと思ってたんだけど。……なら、ちょうどいいね。今日は買い物に行くから、準備しておいて」


「はぃ…………」


 準備するものなんてほとんどないんだけどね。

 今日は俺とアリスの服とか日用品を買うつもりだし、明日からは荷物も増えると思うけど。


 階段を下りると、亭主さんが朝食の準備をしているところだった。

 この人も流石、朝が早い。


 俺はさりげなくアリスを後ろに隠す。


 明るい口調を意識して声をかけた。


「おはようございます。朝食はどのくらいで出来そうですか?」


「あ? なんだ早えな。あー、急いで5分で作るから待っとけ」


 5分後に黒パンと何かの肉を焼いたものが出てきた。

 肉にはアスパラガスのようなものが添えてある。

 ただし、一皿。


「グリーンウルフの肉とガパラだ。食器は返しにこいよ」


 朝から肉とは、ヘビーだね。

 しかもオオカミの肉でしたか。


 亭主さんはアリスに目もくれず調理場へ去っていった。

 確認した。


「朝からこれは流石にきついかも。誰か半分食べてくれないかな……」


 わ、わざとらしっ。

 

 チラッと隣を見ると、アリスが名乗り出ようか迷っている。

 俺のつぶやきを耳ざとく拾ってくれたみたいだ。


「ほら、どうぞ」


「ぃ……ぃぇ………そん……な…………」


「気にすることないよ。本当に食べさせないつもりだったのなら亭主さんもこんなに量を多くすることないだろうし、わざわざ調理場に戻ったりしないよ」


 これは亭主なりのメッセージというわけだと推測してみる。

 獣人を客として扱わないのだったら泊めてさえくれなかっただろうしね。

 俺の言葉を聞いてアリスも遠慮がちに食べ始めた。


 俺もいただこう。

 まずグリーンウルフのステーキ。

 ………本当に肉を焼いただけに見える。

 塩を振るくらいしか味付けをしていないんじゃないかな?


 王城の食事も確かにこんな傾向はあった。

 煮る、焼く以外に知らないんじゃないかっていうくらい。

 地球の中世でも、香辛料を使ったり揚げたり蒸したり卵の使い方を工夫したり……いろいろしてたって聞くよ?


 ちょっと食に対する努力を怠りすぎじゃない?


 ………………


 …………


 ……


「え、なにこれおいしっ」


 自然と口に出してしまった。

 え、ここってただの宿屋だよね?

 なんで王城の料理に届きうる食事出してんの。

 ここが美味しいのか。はたまた王城のレベルが低いのか。

 謎だ。


 まあ美味しいといっても日本料理のように繊細で複雑な味が出せてるとかそういうんじゃなく、インパクトが強いっていうのかな。

 臭みがなくて食べやすいって感じ?

 なんか評価に困るものだったけど。


 本格的に料理スキル取得を目指してみるかな………。

 必要SPは30。

 治癒魔法とったら速攻でとってみよう。


 そんな一幕もあって、一旦宿を後にした。





 服屋。

 店員さんに見繕ってもらって、俺は白いパーカーのようなもの(ただし布地が硬い)と黒い長ズボンを購入。

 アリスは大きめの白いブラウスのようなもの(またこれもっったい)に、短いズボンで、ワンピースのようになっていた。購入。

 銀貨十枚也。端数はオマケしてもらった。


 奴隷でも気にしない、いい店を引き当てることができてよかった。

 それにしても、服屋で試着しているとやたら俺とアリスに視線が集まってきた。

 うーん、なんでだろう。

 あ、もしかして黒髪黒目が珍しいとか?

 薦められた服もなんかしろくろしてるし、あながち間違っていないのかもしれない。


 雑貨屋。

 櫛やらハンカチやらなんやら、とにかく生活必需品を買いまくった。

 石鹸を発見したときは驚いた。

 確か石灰とか油とかをうまいこと混ぜ合わせるんだったよね?

 そこまでできるんだったら料理ももう一工夫欲しい。

 もちろん買った。

 銀貨四枚と銅貨十二枚也。


 防具屋。

 どの商品も高かったので比較的安い黒の外套とブーツを二人分買った。

 店主はドワーフ。

 無口な人だった。

 丁度金貨一枚。


 昼食。

 宿屋に戻って、定番の黒パンとキノコ炒め、そして野菜スープが出てきた。

 相変わらず微妙だった。

 この葛藤を味わうくらいなら携帯食料を食べた方がマシと考えそうになってしまった。


 そんな感じで午前を過ごした。


 さて、いよいよあそこにいこうか。


 異世界転移の定番、冒険者ギルドへ。





 眼前に鎮座する石造りの大きな建造物……。

 やってきました冒険者ギルド。


 町並みが思いっきり中世だったから予想は出来ていたけど、イメージ通りの建物だ。

 正面にでかでかと剣と盾のが交差したマークが掲げられ、もともとのでかさも相まって周りの住居と比べて一際目立っている。

 扉は西部劇の酒場なんかでよく見る両開きの木製の扉。


 どんちゃん騒ぎが既に入口から聞こえてくる。

 夜とかだと近所迷惑にならないのかな、これ。


「ちょっと躊躇しちゃうけど、とりあえず入ろう」


「はぃ…………」


 アリスに手を差し出す。

 割と強めに握ってくれた。


 意を決して中へ入る。


 するとそこには、俺の予想を遥かに超えた光景が広がっていた。


 ここもテンプレに漏れず、パッと見酒場ともとれる内装だ。

 奥の受付カウンターでは多くの受付嬢さん達が怒声を飛ばしながらせっせか働いている。

 「ギャハハハ」と常にガタイのいい男達の笑い声が絶えない。

 さらには、竪琴や笛に合わせて歌を歌い、その場を盛り上げている吟遊詩人(?)の楽団もいる。

 テーブルは満席だったけど、酒を置いていないテーブルは一つたりともなかった。

 酔っ払い同士の喧嘩によって物が、挙げ句の果てには人が、飛び交っていた。


 ……隠密スキル発動。


 俺はアリスと顔を見合わせた。

 『なにこれこわい』と、アリスの顔には、きっと俺の顔にもそう書いてあった。

石貨……一円

銅貨……十円

大銅貨…百円

銀貨……千円

大銀貨…一万円

金貨……十万円

大金貨…百万円

白金貨…一千万円

です。


服屋で注目を浴びてたのは、二人の容姿が原因ですね。

無自覚イケメンとは、恨めしい。

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