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30、王国脱出完了

 その後のダンジョン探索は今までになく順調に進んでいた。

 なにせ魔物が全く寄ってこないんだ。

 ただ迷宮をてくてく歩いているだけでいい。


 転移の罠のせいでここが何階層なのかわからなく、そもそも上を目指すか下を目指すか決めかねている状態だったけど、それらは全てセイクリッドオーガが解決してくれた。

 さらに言うと、魔物が寄ってこない秘密もセイクリッドオーガにある。


 なんでも、セイクリッドオーガはブルーオーガだったころこの辺りのボス的存在だったらしく、上層・下層に続く階段への道のりはもちろん、周辺の階層の道まで記憶しているらしい。

 そして自分達のボスであったブルーオーガ、その強化された個体が守護している人間とあらば、魔物達は近づくことさえできない。

 ということで、セイクリッドオーガ君は大変便利な聖獣だった。


 あと問題は、上層へ進むか下層へ進むか。

 目的は地上へ出ることなので、上層じゃないの? と思うかもしれないけど、実はダンジョンの最下層にはダンジョンコアという地上へ続くワープゾーンのようなものがある。

 つまり、下層に向かっても地上には行けるということ。

 どちらにせよ目的は達成できる。

 セイクリッドオーガに話を聞いたところ、ここは最下層に近い階層らしい。

 時間的に見れば最下層を目指したほうが良い。

 しかし、ダンジョンは下に行くほど魔物が強くなるという法則がある。

 安全面を考えると地上を目指したほうが良い。


 悩んだ末、最下層を目指す方針に決定した。

 先生の『三人で力を合わせれば恐いものはありません!』発言が決め手となった。

 誰か忘れている人が居るような気がするけど、まあ、気のせいだよね。





 数時間後。

 俺、先生、セイクリッドオーガの三人(二人と一匹)は虹のように七色の光を放つバスケットボールくらいの大きさの球体の前に立っていた。

 ダンジョンコアだ。


「とうとうやってきましたね……」


「流石に疲れましたよ。……確か、これに触れれば地上に転移できると書庫の本には書いてありましたが…」


「ガウガウガガウガウ」


「『その通りです兄貴!』だそうです」


 ここに来るまでに、最下層の守護者的な魔物と戦ったけど、特筆すべきことはなかった。

 それにしても、出てくる魔物がゴブリンやらオーガやらしかいないってどういうこと?

 このダンジョン、『リュアルの迷宮』って名前だったよね?

 『ゴブリンの巣穴』に改名したら?


「地上に戻ったらまず王城を目指さなければいけませんよね。みんなが今どこにいるのか分かりませんから。そのあとは、頼もしい仲間もできたことですし、私も訓練に参加して、今までのことを謝って全員揃って地球に帰れるように頑張りましょう! 芦原くんも、ユニークスキルを披露して名誉挽回のチャンスですよ!」


「あー、実はですね。自分は王城には帰らない予定なんです」


「それで王国の人達を…………え?」


 勢い込んで話していた先生は、俺の一言により動きを止めた。

 ギギギと音が聞こえてきそうな様子で首をこちらに向ける先生は、なんとか言葉を紡ぎ出せた。


「ど、どうしてですか? なにか事情があるんですか?」


「えーっとですね、つまり、こういうことです」


 俺は理由を説明した。


「先生は裏切りを起こした後の輝堂君や騎士団長と会っていませんから、まだ『王国の事情を知らない人間』として扱われています。つまり、これまで通りの扱いをしてもらえると思います。むしろ、ダンジョン演習での事故に巻き込んでしまった負い目があるので、あちらも強くは出られないでしょう。

 対して、自分は王国側の要注意人物として扱われているでしょう。すぐに行動には移さなくても、なんらかの形で始末されることは確実です。なので、自分はここで死んだことにしておいた方が良い、というわけなんです」


 ああ、誰か忘れていると思ったら、信介君だ。ごめんごめん。


 先生は俯く。

 俺の説明を脳内で繰り返しているのだろうか。

 まあ確かにクラスをまとめる教師な訳だし、責任感の強い先生としては生徒が一人でも抜けるというのは大問題なんだろう。

 しかし、ここで俺を連れて帰ることも生徒を危険に晒す行為であることは明らか。

 きっと多くの迷いが先生を支配していることだろう。


 俺自身、実はそれほど王城に帰りたくないというわけじゃない。

 帰ればいずれ来るであろう王国の刺客も頑張れ対処できるだろうしね。

 それでも離れるというのは、ひとえにみんなのため。

 今のところ俺は階層の大崩落により生死不明となっている。

 でも、輝堂君達と接触して『王国側につく気はない』とはっきり言ってしまったのは確かな事実だ。

 そんな俺と行動を共にしていたとあらば、先生や信介君に反意を疑われるのは当然の流れだ。

 だからここは、先生と信介君はユニークスキルを駆使して俺に頼らず自力で地上まで来たとしておいた方が良い。


 それに、俺が今まで王城に身を置いていたのはクラスメートのことが心配だったから。

 いつ王国が妙なことを仕掛けて来るか監視していた面もある。

 でも、それはもう必要なくなった。

 今の先生ならばうまくクラスを引っ張っていけるだろう。


 というのが建前。

 本当はせっかく異世界に来たんだから観光しなきゃ。という思いがあったからなんだよね。

 召喚されて魔王倒して帰るだけなんて、それは異世界召喚に対する侮辱ともいえる。

 それに、もういい加減疲れた。

 今までは自分の命が懸かってたからそこそこ頑張れたけど、あんな窮屈な生活には正直飽きた。

 というわけで、俺が帰らないのは決定事項となっている。


「…………わかりました。わかりたくはありませんでしたけど。他でもない芦原くんがそう言うならば、私がどうこう言えることはありません。生徒のやりたいことをさせてあげるのも、教師の役目ですからね。でも、これだけは約束してください」


 すっかり『人を導く』表情になった先生は、真っすぐ俺の目を見据えて告げる。


「……死なないこと。まあ、芦原くんはなんとなく何があっても生き残りそうな気がしますが。……これは、みんなの望みです。勝手に死んだら許しませんからね」


 おや、これはなんとも手厳しい。

 命の危機なんてこの物騒な異世界で生活すれば何度でも直面するだろうに。

 でも、先生の指示となれば、仕方ない。


「ええ。おそらく約束できると思いますよ。多分。死ぬのは面白くないですから、少なくとも一度は戻りますので、その時に確認してください」


「できれば断言してほしかったですね……。でも、芦原くんが帰ってくるまで私は本当にみんなをまとめることができるでしょうか……」


 一度自信がついたとは言え、やっぱりまだ少し不安が射してしまうみたいだ。


 俺は先生が人を正しく導けると日本に居たときから思っていたし、先生の芯はそういう人なんだと本気で思う。

 だからまあ、俺からしてみれば不安に思う要素なんてどこにもないわけだけどね。


「みんなをまとめる。その土台造りはもうできています。セイクリッ…………アオちゃんの戦闘力は並ではありませんので、たちまち国の最高戦力となるでしょう。それを量産できる先生の立場は急上昇です」


「ガウガウ!」


 アオちゃんっていうのはセイクリッドオーガの名前ね。

 もちろん命名は先生。


「三崎君のスキルもとてつもなく有用なので、あとは生徒からの信頼を得るだけです」


「………」


 先生の表情は少し和らいだけど、未だに固さがとれない。

 一番気にしていたのが生徒との関係だからだろう。


「でも大丈夫。生徒からの信頼なんて、とっくに得ているでしょう。先生が放課後こっそりで教室の花に水をやっていたことや、問題を起こした生徒への真摯な向き合い方は、みんな知っていることですよ。ええ、文字通り一人残らずクラスメート全員にね。だから、『みんなに愛される先生』の、その気持ち次第でどうとでもなります。先生のやりたいようにやればいいんですよ」


「な……………!?」


 さりげなく秘密を暴露したからなのか、真っ赤になって身悶える先生。

 水やりなんかは本人が気づいていなかっようだしね。


「………わ、わかりました! ええ、やってやりますよ! 私ならできます! なにせ、みんなに愛される先生ですからね!!」


 後ろを向きながら腰に手を当て宣言する先生の声は、恥ずかしさを含みながらもどこか誇らしげだった。


 そのまま俺達はダンジョンコアに触れ、地上へと転移した。

 ダンジョンコアからいただいた50000MPは、迷惑料ってことで。





 転移の時白く染まっていた視界が晴れると、目の前に迷宮都市の入口が見えた。

 入ったときは街のまん中だったのに、出るのは少し離れたところなのか。


 先生とは『お互い頑張りましょう!』といって別れた。

 セイクリッドオーガのアオちゃんは街中でさぞかし目立つことだろうから、クラスメートと合流するのはそう遠くない未来の話だろう。


 空はすっかり夕焼けに染まっている。

 別れと旅立ちの引き立て役としては、なかなかいい天気だね。


 ここはヘキサール王国の北端。

 この国を離れ、カラゼアラ共和国へと行くため、俺は北を目指して歩き出す。

 北がどちらか分からない。


『方向感覚:必要SP50』


 この国を離れ、カラゼアラ共和国へと行くため、俺は北を目指して歩き出す。

 さあ、楽しい異世界観光といこうか。

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