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29、ブルーオーガ

 種族:ブルーオーガ LV:14 

 HP:890/890 MP:165/165

 筋力:887 耐久:543 魔攻:57 魔防:176 敏捷:302

 スキル:身体強化LV10、剛力LV3、鉄壁LV2、棒術LV8、軽業LV5、咆哮LV3


 なかなかに強力なステータスだ。

 数値を見ると騎士団長とほぼ同じくらい。

 でも、気になるのは軽業スキルと他のオーガと比べて圧倒的に高い敏捷の値。

 魔防は低いままのようだけど、さっきまでのような固定砲台じゃ通用しなさそうだ。


 それに、単純な大きさもステータスとは違った脅威となる。

 名前通りの青色の肉体は、通常のオーガのサイズをも大きく上回り、手に持つ棍棒は丸太をそのまま武器にしたかのようだ。

 その大質量で本当に敏捷302のスピードが出せるとすれば、それはもはや恐怖映像だ。

 一瞬でも気を抜くことができない戦いになるだろうことは、想像に難くない。


 そんなブルーオーガは、獲物を前にした興奮を隠そうともせず、柱のような喉を震わせた。


「ガアアアアアア!!」


「ひいいいいいいい!」


「………!」


 それは雄叫びというよりも、衝撃波と表現できる程だった。

 おそらく、咆哮スキルの影響だろう。

 さっき倒したオーガとスキルレベルはそこまでの差は無いはずだけど、見た目の迫力も相まってだろうか、圧倒的存在感を放つブルーオーガがさらに大きくなったかのように錯覚する。

 度重なる爆音を受ける自分の鼓膜を気遣いつつ、俺は変なテンションを残したまま言う。


「さて、まずは俺が奴を瀕死に追い込みますので、そしたら聖魔反転を使ってみて下さい!」


『聖魔反転:レアリティ10

      聖気を魔気に、魔気を聖気へと反転させる。

      生物やアイテムに対して有効であり、対象に手で触れることによ

      り発動する。

      使用者の精神状態によって効果は異なる。

      ユニークスキル。                     』


『魔気 主に大気中に存在する負のエネルギー。

    人体に悪影響を及ぼす。

    魔気が結集したものは魔物となる。               』


『聖気 主に大気中に存在する正のエネルギー。

    人体を活性化させる。

    聖気が結集したものは聖獣となる。               』


 うん、行けそう。


「ええ!? ちょ、ちょっと待ってくださ」

 

「ファイアボール!」


 混乱する先生の声を最後まで聞くことなく、俺はファイアボールを放つ。

 火球はブルーオーガ目掛けてまっすぐ飛んでいく。

 しかし、ブルーオーガは巨体に見合わない俊敏な動きをもってそれをかわしてみせた。


 やっぱり、さっきまでと同じようにはいかないかぁ。

 普通のオーガやゴブリンに対しては百発百中だったから、結構自信があったんだけどなぁ。

 少し不満げに思いながらも、注意深くブルーオーガの動きを観察する。


「こ、恐ぁ………」


 気持ち悪いくらいの恐るべき速度でこちらへ迫るブルーオーガ。

 やっぱり青鬼ブルーオーガってことなのね……。

 流石の俺も冷や汗ものなのでファイアボール連射で足止めする。

 オーガは見てから避けるタイプであるようで、驚異的な反射神経に物を言わせた回避(笑)で徐々に距離を詰めて来る。

 青く速くなっても脳筋は変わらないみたいだ。

 俺は極めて穏やかな笑顔でブルーオーガの動きを予測しながら魔法をオニのようにばらまく。

 計算された着弾点に自ら突っ込んでいくブルーオーガ。

 四方八方から飛んで来る火球を恐れ、ついに後退り始めた。


 もちろん、そこにさらなる追撃を叩き込む。


『火属性魔法LV2:必要SP2』


「ファイアウォール」


 ブルーオーガの背後から噴き出した炎が壁を形成し、その身を焼かんと燃え盛る。

 魔防の低いブルーオーガがこの中に突っ込めばひとたまりもない。

 一瞬の逡巡のあと、背後の灼熱地獄よりも前方に進みファイアボールを食らう方がマシと判断したようだ。

 

「ガアアアアアアアアア!!」


 怒気を孕んだ咆哮と共にブルーオーガは再び突進を開始する。

 ファイアボールの詠唱が間に合わない速度だ。


「………くっ」


「え、ええええ……っ!?」


 咄嗟に先生を抱き寄せ、後ろへ逃げる。

 幸いブルーオーガの敏捷よりも俺の敏捷に方が高い。

 しかし、今俺は脚を負傷している。

 それを差し引いて今のところスピードは互角といったところだ。

 この狭いダンジョンの一室では、すぐに追い詰められてしまうだろう。


 ダンジョンの壁が見えはじめ、それを好機と見たブルーオーガが加速する……その瞬間。

 俺はあらかじめ詠唱を完成させておいた魔法を発動する。


「ファイアウォール」


 疾走する俺とブルーオーガの間に、炎の壁が出現する。

 突然現れたそれに驚愕するブルーオーガ。

 ブレーキをかける間もなく、ファイアウォールに突っ込んでいく。


「ガアアアアアァァァァァ!!」


 絶叫しながら地面を転がるブルーオーガ。

 その隙に、安全な壁際へと先生を避難させる。


「ここでじっとしていてください」


「は、はい………」


 ブルーオーガに再起のチャンスを与えないようにファイアボールとファイアウォールを駆使して追い詰める。

 それに業を煮やしたブルーオーガは強行手段に出た。


 手に持った大きな棍棒で地面をたたき付けたのだ。


 ドゴオオオン!! と音を響かせ震動と衝撃が俺を襲う。

 バランスを崩してそのまま攻撃を中断させてしまった。

 まずい……。

 地面に手をつかなかっただけよしとしてください。


 一方ブルーオーガは棍棒を振り回しあちこちを破壊しながら俺を叩き潰さんと迫る。

 目線は俺しか捉えていないので、完全に怒らせてしまったようだ。

 思考加速を意図的に発動し、棍棒に意識を集中する。


 大振りの予備動作に入るのが見えた瞬間、地面を蹴る。

 既に誰もいない空間に向かって棍棒を振り下ろすブルーオーガ。

 俺はその比較的柔らかそうな大腿部を狙い、剣を力いっぱい横薙ぐ。

 銀閃が青い皮膚を切り裂き、鮮血が舞う。

 しかし、手応えは薄い。

 オーガ特有の防御力は、物理攻撃に対してはその数値に見合った効果を発揮するのだ。

 ギロッと視線をこちらへ向ける。

 その反応からしてもさほどダメージが入っていないことは明白だ。


「ガアアアアア!!」


 棍棒を持っていない方の手で俺を弾き飛ばすように薙ぎ払う。

 あ、これまともに受けちゃやばいやつだ。

 せめてもの防御として、剣の腹を盾のように持ち漫画などにならって後ろへ跳び、衝撃を逃がす。


 肺の空気が一気に放出される程のパワーだ。

 巨大な腕により数メートル吹っ飛ばされる。

 思えばちゃんとした攻撃といえるものを食らったのは初めてかもしれない。

 全身を蝕むような痛みをなるべく気にしないように努め、追撃をしかけようとするブルーオーガに対しての次の一手を打ち込む。


「フ……ファイアウォール……」


 炎の壁が出現するも、その火力は弱々しい。

 詠唱の時間が十分でなかったのに加え、脳が痛みの方に反応してしまってうまく魔法構築が出来なかったのが原因だ。

 ブルーオーガは魔法によるダメージを厭わずこちらへ近づいてくるが、多少の減速はしたようだ。

 棍棒を避ける余裕は出来た。


 しかし、俺はあえてブルーオーガの懐へ突っ込んでいく。

 ここからは表情が見えないが、ブルーオーガはきっと呆気にとられた顔をしているのではないだろうか。

 俺は左手で掌底突きの構えをとる。

 その左手に薄紫色の光ーー魔力光が収束していき……。


「魔力撃」


 爆発した。


「ガ、アアアアァァアアァァァ」


 吐瀉物をぶちまけながら鳩尾を基点に回転して宙を舞うブルーオーガ。

 既にその目には戦意、敵意といった感情は見られず、戦う気力はもう残っていないようであった。

 まあ、さっきのダンジョン大崩落させた魔力撃と違ってMPはそれほど篭めていないし死んではいないでしょう。


 このブルーオーガはステータス的には騎士団長とほぼ同じくらいのステータスだった。

 つまり、ブルーオーガを倒すということは騎士団長を倒すのと同義と言ってもいい。

 まあ、騎士団長は頭がいいし実際手ごわいのは騎士団長の方だろうけどね。

 それでも、さっき相対したときにはあのまま戦っていたら確実に負けていたであろう騎士団長と同レベルの相手を倒せたのは俺が成長した証だ。

 ここは素直に喜んでおこう。

 やったー。


 そんなことを考えながらMP吸収はちゃっかり済ませておきました。

 あとは……。


「先生、さあどうぞ」


「え? あ、はい!」


 口を半開きにしてこちらを見ていた先生に声をかける。

 先生は瀕死のブルーオーガの元へと歩みより、その体をじっと見つめた。


「えーっとですね……。さっき自分のステータスを初めて見たんですけど、本当にありましたね。ユニークスキル」


 え、ステータス確認してなかったんですか?

 まあそれだけ切羽詰まってたってことでしょうけど。


「それで、今使うのは聖魔反転……でしたよね?」


「はい」


『聖魔反転:レアリティ10

      聖気を魔気に、魔気を聖気へと反転させる。

      生物やアイテムに対して有効であり、対象に手で触れることによ

      り発動する。

      使用者の精神状態によって効果は異なる。

      ユニークスキル。                     』


 今まで先生にスキルのことを教えなかったのは『使用者の精神状態によって効果は異なる』という一文のせいだ。

 むやみに使って問題が起きてからでは遅いしね。


 解析によって判明したスキルの効果を説明する。

 ついでに聖気と魔気のことも。


 先生はところどころ質問しながらも理解できたようだ。


「なるほど……。つまり、今この魔物に聖魔反転を使えばその、聖獣になるということですね」


「ええ。そして、聖獣使役スキルで従えるというわけです」


『聖獣使役:レアリティ10

      聖獣と契約を交わし、従えることができる。

      使用者、聖獣双方の了承が必要である。

      使用者は契約した聖獣を召喚することができ、親愛度が高ければ簡単

      な意思疎通ができるようになる。

      ユニークスキル。                       』


 話し合い(物理)の末、ブルーオーガからの了承は得た(強制的に)ので、あとは聖獣化からの契約だけだ。

 

「では、いきます!」


 先生が手を翳すと、淡い光が溢れだしブルーオーガを包んだ。

 やがてブルーオーガ全てを飲み込み、徐々にその形を変形させていく。


 発光が数十秒続き、縦長となった輪郭の頂点がら光が解けていく。

 速度はゆっくりなのでその姿をよく観察することができる。

 最初に見えたのは頭部。

 薄い金色をした肌にブルーオーガの面影が残る強面。

 少しずつ見えた全身は騎士団長よりもさらに鍛えられた風な筋肉質だ。


 種族:セイクリッドオーガ LV:14 

 HP:47/950 MP:345/345

 筋力:927 耐久:621 魔攻:127 魔防:327 敏捷:522

 スキル:身体強化LV10、剛力LV4、鉄壁LV3、棒術LV8、聖闘術LV1、魔力撃LV1、軽業LV7、咆哮LV4


 ステータスが全体的に高まり、スキルも増えている。

 何より変わったのは、種族だ。

 ブルーオーガからセイクリッドオーガになっている。

 うん、ほのかに発光しているその姿はまさしく神聖(セイクリッド)だ。


「どうやら成功したようですね」


「よ、良かった~……」


 ほっ、と胸を撫で下ろす。

 すると、今まで仁王立ちしていたセイクリッドオーガが慌てて正座し、頭を地面につけた。

 DOGEZAだ。


「ガウガウガウ!ガガウ!」


「………?」


 思わず首を傾げてしまう。

 何かを伝えようとしているのだろうけど、生憎オーガ語は分からない。

 困惑する俺の隣で、先生は何か考え込むような仕草をみせる。


「えっと………多分、この子謝ろうとしてるみたいですね」


「え? 言っていることが分かるんですか?」


「はい、なんとなくですけど………。聖獣使役の効果だと思います」


 確かに、聖獣使役のスキル説明には『親愛度が高ければ簡単な意思疎通ができるようになる』とある。

 でも、今使ったのは聖魔反転だけだし、そもそもこんなに急に親愛度って高くなるものなの?

 そんな俺の疑問を読み取った先生は苦笑混じりに言った。


「聖魔反転を使うときに、一緒に聖獣使役を使ったんですよ。そしたらすぐに契約を了承してくれて、何故かこうなりました……」


「そうなんですか。それで、謝ろうとしているというのは?」


「えー、『さっきは襲い掛かってしまい、申し訳ありませんでした。舎弟にしてください兄貴』だそうですよ……」


 なんと、セイクリッドオーガが服従したのは先生ではなく俺だったらしい。

 え、なに? 魔物って勝負に負けたら相手に従う決まりなの?

 でも舎弟とか迷惑なだけだし、ましてやオーガなんてね……。


「まああれは仕方ないことだったし、別に気にしてないよ。あと、舎弟は結構」


「………?」


「……と、伝えてください。先生」


「あはは……わかりました」


 こっちの言葉も相手には伝わらないみたいだ。

 いや、考えてみれば普通のことなんだけどね。

 さっき普通に話しかけてた自分が恥ずかしい。


 先生が俺の言葉を伝えると、セイクリッドオーガは心底残念そうな顔をした。

 そのあともしつこく嘆願してきたけど、頑なに断った。

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