王城![2]
このガルデンリバー国の象徴とも言われるリバエッジ城は、屋根の先にタマネギ型の変わった構造物が付いている。
『王都に行ったらタマネギを見ろ』
そう町中で聞こえてくるぐらいには、王都観光では有名だ。
「本当にタマネギ……」
暗闇の中、月の光を受けたタマネギ型が白く浮き上がって見えている。
噂に聞いたようにリバエッジ城のタマネギは、シンメトリーに作られた王城の中心で輝いていた。
「数代も前になるんだけど、建築にこだわった王が居てね。外国の建築物に感銘を受けて財をつぎ込み造らせた城なんだよ。
王妃を深く愛していたらしくて、それを証明する為に造ったとか……。
ただ残された記録によると、その王はどこまでも計算された美を求めて城を作りたかっただけのようなんだよね。
王自ら書き出した計算式の数々が、記録にしっかり残されている。
夢中になると周りが見えなくなる人って、王家には結構いるんだよ」
王都に行けば見られるというタマネギの屋根に、実はそんな裏話があったとは。
「そうなんですね。初めて聞きました」
「そうだろうね。これは余り外では言えない話だからね」
「!」
馬車での長旅で、ラウル殿下との会話に慣れてきたと思った矢先に何て事だ!
「あ、あの。私、口は硬い方、と言うか、話す相手が余り居ないので大丈夫です」
「ははっ、そうかなって思った。そうじゃないと話さない。でもリーネは知っていても良い話なんだよ」
今、軽く失礼な事言われた気がする……。
そりゃ、あんな森の中で1人で暮らす魔女には、ろくな話し相手も居ないからね。
ニコニコと笑っているラウル殿下は、一体何が楽しいんだろう?
そんなに面白い所が今の話にあっただろうか?
私達が話し込んでいる間に、ラウル殿下の後ろにはお付きの方々が控えていた。
「もう時間も遅いから、夕食は部屋に届けさせるね。明日、朝食は一緒に取ろう」
「……一緒、ですか?」
「あぁ、まだこちらに着いたばかりだからね。今後の仕事についても話しておきたいし、君も新しい生活が始まったら相談したい事も出てくるだろ?僕は日中、執務に追われるだろうから、朝食の時間に話し合うのが丁度良いんだ。朝食は父達とは別に用意させるから、心配いらないよ。流石に来て直ぐ、国王と食事を一緒に摂るとか嫌だろうからね。朝食の時間は……」
出た。キラキラ王子の方だ。
こっちとは話が噛み合わないから、出来る限り静かにしていよう。
「はい、仰せのままに」
短く返事して、後は余計な事を言わないに限るな。そもそも話すの苦手だから、いつもそうだけど。
「侍女を付けるから、リーネはゆっくり旅の疲れを取って。じゃ、明日っ」
侍女!?
私は武力として雇われたはずなのに、何故に侍女??
そう言い放ち、ラウル殿下は屋根の上にタマネギが美しく光る城の中へ消えていった。
その消えていく殿下の背を呆然と見つめていると、不意に背後から声をかけられる。
、
「リーネ様のお世話を仰せつかりました、侍女のシエルでございます」
へっ?!全然気が付かなかったよ。この人、気配薄いっ!
「お部屋までご案内させていただきますね。お荷物は使用人が後からお部屋までお運びしますので」
「こちらへ……」と薄く笑みを浮かべ、ツツツーッとほぼ上下運動も無くシエルさんが歩き出した。
王城に勤める侍女は歩き方の訓練でもするのだろうか?高貴な方に仕えるのに埃をたてないように歩く術?みたいな?
流石に階段を上がる時は体が揺れていたけれど、この気配の薄さと動きの静かさは普通ではない。それに歩くスピードもめちゃくちゃ早いっ!
筋肉強化してない通常モードの私は、シエルさんに付いて行く為、精一杯足を動かす。
「こちらでございます」
少し加速して私と距離をあけたシエルさんは、とある部屋の前で立ち止まり、重そうな木製のドアをまるで薄手のカーテンでも捲るように造作なく開けた。
で、出来る……。
間違いなくシエルさんは出来る人だ。
何がというか、とにかく動きが軽くて早い。
もしシエルさんが暗殺者だったとしたら、私のゴリマッチョの術をしても、かなり苦戦するだろう。
私はドアを開けて待つシエルさんの横を、恐々と通りながら部屋の中へと足を進める。
(うわぁ……何これ……。お客様用のすっごく良い部屋だ)
私が通されたのは、王子の護衛には不釣り合いな部屋だった。
窓にかかるレースのカーテンは繊細な模様が刺繍されていて、明らかに高級品だ。足元の絨毯も踏みしめると柔らかさを感じる程に密度がある。
うん、これは庶民が使える部屋じゃないな。
お部屋を汚してしまう前に、違う所に住まわせてもらわないと。
「シエル、さん?このお部屋……、私には凄く良過ぎるので、もっと普通の、使用人部屋とか、空いてません、か?」
私がしどろもどろになりつつ要件を伝えると、シエルさんはフワッとした笑みを浮かべながら……
「出来ません」
キッパリと告げた。それも即答だ。
それも他の部屋が空いてるかを聞いただけなのに「出来ません」ときた。
「リーネ様が仰りたい事は、分かります。ただ、ラウル殿下からこちらの部屋をご用意するよう言われておりますから……」
シエルさんはそこまで言ったかと思うとフッと気配を薄くし、次の瞬間には私の後方へと移動していた。
!!!!!
またもや背後を取られた!背筋に冷たい汗が伝う。
ゴリマッチョの術を発動する時間さえないなんて!
「……浴室はこちらのドアの奥になります。お手伝いが必要でしたらお声がえください」
シエルさんは薄い気配のままテキパキと動き、気が付くとテーブルにはお茶の用意まで出来ていた。
「食事の用意をしてまいります。ごゆっくり、お寛ぎくださいますよう」
軽く頭を下げそう言うと、シエルさんは部屋の重たい木製のドアを、レースのカーテンでも捲るような軽やかさで開けて出ていってしまった。
あれは何かの術で、もしかしたらシエルさんも魔女なのではないのか?
淹れたて熱々の紅茶を見つめながら、そんな思いが頭を過ぎっていた。




