王城![3]
眩しい……。私のベッドの場所は、朝日が届かない筈なのに……。
目を覚ますと漆喰の壁が朝日を受け、キラキラと白く輝いていた。
広い窓から差し込んだ眩い陽の光が、レースのカーテンの繊細な模様を浮き上がらせている。
そうか、ここは城だった。
あのキラキラ王子に連れて来られたんだ……。
胸元まで覆っている寝具も滑らかな手触りで心地良く、高級ベットの寝心地も包み込まれるように優しかった。
馬車で疲れた体はすっかり癒やされたけど、熟睡し過ぎてしまったな……。
軽く記憶まで飛んでしまっていた。
部屋を見渡せばサイドテーブルには水差しとコップが置かれ、昨晩食事をいただいたテーブルには、ガラス製の花瓶に薄いピンク色の薔薇の花が飾られている。
(まるでお姫様の部屋だね、こりゃ)
借りた寝巻きもシルク製で光沢があり、フリルの飾りまで付いている。
余りに高価そうだったので、昨晩、手渡してきたシエルさんにはやんわりと断ってみたのだが、
「こちらをお召になるのがよろしいかと」
そう言って優しく微笑まれたので、私は渋々高価な寝巻きを身につけた。
一晩経った寝巻きは寝汗を吸い、やはり少ししっとりしている。
こんな繊細な服、どうやって洗って返せば良いのだろう?
洗濯場の仕事もさせてもらえたら、洗い方が分かるだろうか?
(庶民には、高貴な身分の生活って、逆に難しいのよ……)
早めに使用人の部屋へ移してもらわなきゃな……。
”コンッ コンッ”
「シエルでございます。リーネ様、お目覚めでしょうか?」
やばっ、まだ寝起きで着替えてもいないのにシエルさんが来ちゃってる。
私、新参者なのに寝坊しちゃったよ……。
「おはようございます、リーネ様。よくお休みになれましたか?」
シエルさんは大抵、儚げな微笑を浮かべていて心が読めない。
でも、怒ってはいないようだ。
流れるような動きでカーテンを開け、カップに水を注いでくれたかと思うと、シエルさんがドレッサーの前で何やら準備を始めた。
「リーネ様、ラウル殿下との朝食に向かいますので、準備をこちらで」
シエルさんはそう言うと、フワッと微笑んだ。
あ、これ、シエルさんにお任せしなくちゃいけないやつだ……。
昨晩からのあれこれで察した私は、ささっとベッドから抜け出し、シエルさんの成すがままになるのだった。
◇
「やぁ、リーネ。よく眠れたかい?昨晩は寝る前だから軽食だけだったよね?うちの料理長が作るものは何でも美味しいから、沢山食べると良いよ。パンも焼きたてでまだ暖かい」
朝食が用意された部屋に入ると、ラウル殿下は既に来ていて出迎えてくれた。
朝は余力が有り余っているのか、キラキラ王子が眩い笑みを浮かべながらペラペラと話している。
私はシエルさんに品の良いペールブルーのワンピースを着せられ、見た目だけは貴族の娘っぽくされている。顔周りだけ髪が編み込まれ、程よくスッキリとシエルさんに仕上げられた。
(顔、隠したかったな……)
こんなに顔が出ていては、いつ何時、誰かと目が合ってもおかしく無い。
視線の先は、決して会話が成立しないテーブル上の料理に固定だな。うん、決定。
私が引かれた椅子にそそと座ると、給仕の方がカップに紅茶を注いでくれた。
こんな身分違いの平民がこのような場で食事をいただくのは、申し訳なくちょっと胃がキリキリとする。
とは言え、視線の先には香りの良いパンや色鮮やかなテリーヌも見える。
勿体無いから、しっかりいただいておこう。
◇
「リーネが僕の護衛をするに当たって、騎士服を用意したから着てもらいたいんだ。流石に普段着を着た女性がいつも僕の側に居たら、周りから何かと詮索されるからね‥。僕の予定なんだけど、大体午前は執務室で仕事か、広間で会議かな。午後は来客対応か、場合によっては簡単な視察に出る事もあるよ。夕方以降はまた執務になるか、パーティーへの出席なんかもある。しばらくリーネは、午前から夕方までの時間帯で、王城内にいる僕の護衛をよろしくね」
ゴクリと口内の物を飲み下す。
フワフワのスクランブルエッグが美味し過ぎて、王子の長いトークも苦にならなかった。
ありがとう、美味しい料理。
「今日の午後は僕の両親に紹介するから、そのつもりで。そんなに畏まらなくても大丈夫だよ。国王って言っても僕の父親だから気を楽にね。ちょっとお話好きなオジサンだと思っていて」
この国の王様で、なおかつ「お話好き」なのか……。
ーー「魔女と聞いてどんな人物かと思っておったら、こんな小娘とはっ!ラウルの目がこれほど曇っていたとはな。こやつ魔女というのも嘘かもしれぬ。先程から下ばかり向いてモゴモゴと何を言っているかも聞こえぬし、こんなオドオドとした小娘はいらぬわっ、地下牢にでもつないでおけっ!」
わぁーーーーーーーっ!なんか妄想見えた。
私、暖かい食事はこれが最後になるのかも‥。何だか目に涙まで浮かんできたよ‥。
「えっ?えっ?ふぉ、したの?」
私が激しい妄想の末に涙腺崩壊しかけていると、ようやくあのコミュ障王子が現れた。
私が挙動不審な王子に安堵したのも束の間、お付きの人達がラウル殿下の背後に集まった。
「ラウル殿下は午前の執務に急を要する物がありますので、これにて失礼させていただきます。リーネ様はお食事が終られましたら支度をし、ラウル殿下の執務室までお越しください。では」
突然お付きの人は私に話しかけると、ポカンとしている私をそのままに、ラウル殿下を連れ去ってしまった。
お付きの人達による見事なフォーメーションによりラウル殿下の姿は上手く隠されている。人目に付かないように連れ去られ去ったのだろう。
私には王家の事情なんて分からないから「どうして?」なんて聞ける筈もなく只、ラウル殿下を取り囲む集団を見送る他無い。
「ふーっ」
ため息を付くと幸せが逃げていくと言ったのは誰だったか?
まだ目の前で起こる事態が飲み込めない。
私に分かるのは、目の前にある焼かれたトマトは美味しくて、今朝の食事は森の小屋に1人で居たら食べられなかった。
そんなシンプルな事実だけだ。




