王都行き?[2]
ラウル殿下は私が署名した書類を見てニヤッと微笑むと、お付きの人に目配せをしサッと隠すようにそれを仕舞ってしまった。
同じ内容が書かれたもう1枚の方は、私の物としてダイニングテーブルに残されている。
余りの急展開に呆然としていると、矢継ぎ早に王都へ向かう日程がラウル殿下から私に言い渡された。
「僕も王都での次の仕事が待っているから、そろそろ戻ろうと思っていたんだ。君も早めに出発した方が、向こうに着いてからの仕事の段取り的に余裕が出来るだろう?あちらでも薬作りの道具は揃うけれど、使い慣れた物が良ければ持って行くと良い‥。馬車を寄越すから必要なものは何でも持って行けるよ。あぁ、この家の管理は別邸の城の者が定期的に来るから心配ないからね。必要な薬草も摘ませて君に届けさせよう。そうそう明日、迎えに来るから。昼ごろ出立だからそのつもり……」
説明の内容が長過ぎる割に、大事な王都行きの日時の伝え方が雑過ぎやしないか?
条件がもの凄く良い事は分かるんだけど、この不安にさせる感じは何なんだろう?
ラウル殿下の後ろに控えるお付きの人が、気の毒そうに私を見ているのも解せない。
私、早まったの?
軽々しく書類にサインをするなって、亡くなったお父さんが言っていたような気がする……。
途端に不安になる私と真逆に、ラウル殿下からはキラキラとした笑みが溢れている。
天然な人物とはいえ曲がりなりにも王族だ。漂わせる気品は、私の住む世界では終ぞお目にかかったことが無いような神々しさに満ちている。
私って、これからこのキラキラ王子みたいな王族様の住む世界に足を踏み入れようとしているの?
はたと気が付きラウル殿下の後ろに控える騎士様達を見てみると、やはりキビキビと動く覇気のある姿から陽の気が溢れ出している。
や、やっぱりこの人達に付いて一緒に行くとかあり得ないでしょ……。さっきは薬売りの代行が嬉し過ぎて浮かれちゃってた‥。
書類にサインしたのはついさっきだし、止めに出来るかもっ。
「あ、あの、私やっぱり、王都行くのやめようかと‥。ラウル殿下の護衛なんて、私、王城とか、行くのは怖っ……」
「はーっ、はっ、はっ、はっ‥!面白い事、を言うなぁ‥リーネは。ほら、書類にサインしてくれたじゃない?怖くない、怖くない、僕が連れて行くんだから‥怖い事は何もないよ……。それからリーネ、僕の名前を呼んでくれた、ね?。嬉しいっ……。これからも、宜しく頼む、ね。じゃ!明日っ」
コミュ障王子の方、出て来てるっ。
この王子は二重人格かと言うくらい、時々キャラ変するなぁ……。
私が親しみやすいのは、こっちの挙動不審な方なんだけどね。
王子が小さく「撤収っ」と言い放つのが聞こえたかと思うと ″ザザーッ″と王子のお付きの人と騎士達が、王子の元に集結し玄関ドアから出ていってしまった。
外からは聞いたことのある「進めーっ!」という声と、馬のいななきが聞こえ、その後に静寂だけが残された。
やり口が実に巧妙だったような気がするけど、まさか王族と言うのも嘘の「王族詐欺」とかじゃないよね?
あれ程キラキラした王族オーラに怖気付いていたのに、今は彼が本当に王子である事を願ってやまない。
少なくとも本当の王族であれば魔女を何処かに売り飛ばすなんて事はしないだろうから……。
「ふーーっ」
どでかいため息が出る。
魔女とは言え、私のようなコミュ障の小娘が王城何ぞに行って王家の輝きを前にしたら、どうなってしまうのだろう?
暖かい陽の光を受け溶ける冬の白雪のように、私も王族の光を前にしたら、綺麗さっぱり消えてしまいそうな気がする……。
逃げるなら今しか無いけれど、野宿しながら逃亡を続けるくらいなら、王城で溶けるか灰にでもなって消滅した方が良いのかもしれない。
私は仕方なしと王都行きの覚悟を決め、逃亡用だった荷物を王都用へと作り直す事にした。




