授賞式!【2】
国王様と王妃様が退室なされた後、ラウル殿下が私の元にエスコートをしに来た。
いつもの様に手を握り合う訳ではなく、腕を差し出し掴まるようにと促す。
「あの、ですね、殿下……」
私は言葉に詰まる。いつものように舌が回らない訳ではなく、何から聞いて良いのかわからなくて。
「ん?リーネは嫌だった?僕はこれしか無いなって、ずーっと思ってたよ?」
「は、はぁ……」
ラウル殿下は通路を歩きながら、私の顔を見下ろしつつ話しかける。
「僕は、自分の心が此処にあるって、色鮮やかに主張をしてくる事をリーネに合って初めて知ったんだ。
こんな特別な事を見逃すほど、僕は愚かではないよ。だからリーネの心も動かしたくて、僕を見てくれるようにって考え行動した。邪魔な身分差だって、この授賞式で消し去った」
苦手なはずの、ペラペラ王子の方のラウル殿下なのに、何故が今は面倒くさくない。逆に聞き逃すものかと、耳をそばだててしまう。
「リーネがどうしても嫌なら、一旦引くけど、今度は時間をかけて僕を好きになってもらえる様に努力するから。僕はリーネの為なら時間だって沢山かけられるよ。ただ最後には、僕の手を取ってもらいたい」
そう言って覗き込んできたラウル殿下の瞳は、やはりおばあちゃんの好きだったブラウスの色だ。
「この瞳の色。落ち着くんです」
「へっ?そうな、の?僕の瞳の色は、王族の割に薄いんだけど……」
「それが、良いんです……」
ラウル殿下の瞳を見て、伝えたかった事を思い出した。
「……分かったよ、おばあちゃん。心に筋肉が付くって」
見つめたラウル殿下の薄紫の瞳が、戸惑う様に揺れた。
でも私にはそれが「そうだよ。よく分かったじゃないか!」そう、おばあちゃんが頷いたように思えた。
「ふえっ?お、ばあちゃん?」
「フフフッ……そう、おばあちゃんなんです」
私はラウル殿下への説明は放棄して、1人納得しながら笑い、満たされる。
「私を時々、前の森の住まいに帰してくださいますか?あそこには祖母との思い出があるので……」
「もちろんだとも。今だって手入れはさせているから、いつ帰っても大丈夫にしている……でも……」
「でも?」
「その時は僕も一緒に行きたい。一緒に帰っても良い?」
「そうですね……。でも殿下は考え事をし出すと魔物や動物に襲われそうですからね。私が見張ってないといけませんね」
「えっ?見張っていてくれるの?仕事以外でも?」
「いいですよ。ラウル殿下には必要ですよね。私は適任ですし……」
「それって……?」
既に目の前には私の部屋のドアがある。
ラウル殿下は私の行く手を阻むように前へ進み出ると、私の手をそっと腕から外した。
「僕の事を、殿下じゃなくてラウルと呼んでも良いってこと?」
私の正面に立つラウル殿下は、少し不安気だ。私が殿下に特別な感情を抱いていないと思っているのだろう。
「そうですね。急には無理ですが、徐々になら」
「それって……、それって……」
殿下が両手の平で私の両手を取り、包み込むように握りしめてくる。
「いっつ……、痛いですっ殿下っ!」
「あ、ごめん……」
謝るものの手は離そうとしない殿下が、また頬を赤らめて私の顔とドレス姿をじっくりと眺める。
「綺麗……綺麗だよリーネ。授賞式でリーネを見た時からずっと、それを伝えたかった……。こんなに美しかったらリーネの格好良さも知らないのに、その美しい姿だけに憧れた誰かが、奪いに来るかもしれないっ。さっき僕は時間をかけて待つとは言ったけど、本当は、そんなの絶対に嫌だった……」
ラウル殿下の握る手に、また力が入った。
「だから痛いですってば、殿下!」
「あ、ごめん。またやった……」
明晰な頭脳の持ち主の筈なのに、どうしてこの人はこうなのか?
「フフフッ、何か安心します。そう言うよく分からない殿下……」
「えっ?そう、なの?」
殿下は不思議そうな顔をしているけど、こういう殿下と一緒にいるのは、やっぱり悪くないなと思う。
「殿下こそ、こんな筋肉魔女で良かったんですか?もし私達に女の子が産まれたら、その子も筋肉魔女かもしれませんよ?」
「筋肉魔女の娘、かぁ……」
殿下の頬がボボボーッと、益々赤く染まった。何を想像したのだろうか?
「す、凄く良いと思うよ。筋肉魔女の娘。僕はその子の成長を見守り、育てていきたいと、心からそう思う」
ラウル殿下は筋肉魔女を好む特殊な癖でもあるのだろうか?だとしたら、私に執着してくれる理由もよく分かる。
「リーネ?あのさ、僕は今、とっても気持ちが煩いんだ……。僕はリーネにもっと近づいても良いんだよね?」
ラウル殿下がおずおずと私に尋ねる。
「そうですね……、私は」
私が話し始めた所でラウル殿下の背後にあるドアが開き、突然私達2人は部屋に引きずり込まれた。
「わっ!」
「キャッ!」
部屋の中から引きずり込んだ張本人は、風の様にドアの隙間から通路へと消えて行く。
「良い仕事をしてくれるな……。リーネを彼女に任せたのは、やはり正解だった」
ラウル殿下の口から漏れ出でてしまった独り言だったが、静かな室内では私に丸聞こえだ。
閉ざされた私室にラウル殿下と2人きり。
ラウル殿下の長い両腕が、私を閉じ込めるように背まで回され抱きしめられる。
様子を伺いながら、私の顔を覗き込むラウル殿下の瞳は、少し不安そうに揺れていた。
「キス、しても?」
「……はい。前にも、どさくさに紛れてしたじゃないですか?」
「あれは、せっかくのチャンスだから無駄にしたくなくて……」
「そういうものなんですか?私、凄く驚いたんですよ?」
「ごめん。僕はリーネと運命を共にするつもりだし、迷いはなかったんだ、今だって、こうしてリーネと話していると、迷いなんて消える」
ラウル殿下の整った顔が急に近づき私の唇を奪っていく。
「また、急にっ」
「僕はリーネの驚いた顔も好きだからね、でも……」
今度はゆっくりと近づいてきたラウル殿下の唇は、しばらく私の唇を離さずに息づかいさえも伝えてくる。
「これは約束のキスだからね。僕とリーネが結ばれる約束の口づけだから」
真剣な眼差しで、私の瞳を射抜くように見つめながら言葉を伝えてくれる殿下から、私はもう逃れられないのだと悟った。




