心の筋肉【2】
" コンッ コンッ コンッ"
街での部屋探しは徒労に終わり、私は部屋の長椅子に座り寝落ちしそうになっていた。
私の部屋の扉をノックする人なんて、シエルさんしかいない。
「どうぞっ」
言葉に詰まらず、スルッと言えた。
「失礼いたします。早急にお伝えしたことがありまして」
相変わらずシエルさんはススーッと歩いて、私の前までやってきた。
「な、なんでしょう?」
シエルさんは "フッ"と優しく笑った後に、軽く眉根を寄せた。
「明後日、リーネ様の授賞式が行われます。ラウル殿下の命を助けた功績を、国王様が表彰されるそうです」
「はいっ?????」
「当日は、騎士服では無くドレス着用との事ですので、明日は試着や式の手順を確認する日となります。護衛の仕事は免除になりますので、お部屋でお待ちくださいませ」
「は、はいっ???」
「それでは何かありましたら、ベルを鳴らしてお呼びください……」
シエルさんは最後にまた "フッ"と優しく笑顔を見せたかと思うと、スススーッと部屋の中を移動して出ていった。
は?授賞式?私、の?
確かに私がゴリマッチョ姿でラウル殿下をおんぶして塔を降りてきたことは、騎士様の間では語り草だ。
あの場において、ラウル殿下の命を助けたと言えば、確かにそうなるのだろうけれど。
でも、授賞式って……。
何か褒賞でもいただくんだろうか?
いやいや、魔女に領地とか高価な品々は必要ないよね?
そうなるとやっぱり、名誉的なことになるのか、な?
貴族の方々の前で国王様から労いのお言葉を戴くだけで、それってもの凄く名誉なことだよね?
でも、そんな大きな舞台を用意されたらね、私は今から緊張して夜に寝れなくなりそうなんだよ……。
はぁーっ。
ようやく人馴れして心もマッチョになってきたと思ったのに、また新たなハードルが現れた。
心の筋トレはまだまだ続く、かぁ……。
◇
授賞式の当日、いつもより2時間早く起こされた。
式の開催時刻を、国王様の午前のお茶の時間に合わせた為らしい。
私だけの為に急遽開かれる授賞式らしく、短時間で執り行うそうだ。
「ドレスを着用なさるとお食事が摂りづらくなりますので、まずはご朝食を」
シエルさんにそう言われ、自室に運びこまれたパンやフルーツをモシャモシャと食べる。眠くて正直食事どころでは無いが、この後食べられないと分かっているからしっかり食べておかねば。
食事を終えると、昨日試着した謎のドレスが運び込まれる。
薄紫の、おばあちゃんがよく着ていたブラウスと同じ色のドレスだ。
(どうして、私がこの色が好きだって分かったんだろう?)
シエルさんは、もしかしたら人の心を読める特殊能力でも持っているのだろうか?
いつもは身に着けないアクセサリーも首や耳に施される。
金細工の華奢なものだが、やはり使われている宝石は薄紫色。
私の茶色い髪の毛はサイドだげ編み込まれ、後髪は空いたデコルテを隠すように、首や肩に散らされている。
スカートは薄い生地が幾重にも重ねられ、まるで花弁の多い花のようだ。
騎士服を着ている時にはしない化粧も、今日は丹念に施さえている。
「お綺麗だとは思っておりましたが……。とてもお美しいですよ、リーネ様」
シエルさんが満足げに私を見て目を細める。
お世辞だとは思うが、もしかしたらシエルさんが化粧をしてくれたら、どんな人でも絶世の美女に変えることが出来る、とかだろうか?
「ありがとう、ございます。シエルさんは、何でも出来るんですね」
シエルさんがいつもの儚げな表情で " フッ "と笑う。
「人より練習はしましたから……。でも、本当にお綺麗ですよ」
いつもと違う格好をして人前に出るのは本当は怖いけど、シエルさんの言葉で勇気が湧いてきた。
「私っ、心の筋トレに行ってきますっ!」
「……はい、いってらっしゃいませ」
私は勇気を振り絞って、授賞式の会場である大広間へと向かった。
大広間までは、何故かラウル殿下のお付きの人が案内をしてくれた。
歩きなれた王城内で案内は不要なのに、どうやらラウル殿下からの指示らしい。
「ラウル様はご心配なさっておいでなんですよ。リーネ様が多くの人の目に触れることが、本当はお嫌なのです。ご自身で決めた事だと言うのに……」
ラウル殿下が決めた事、が何を意味するのかは分からないが、おそらく何か特別な指示でもしたのだろう。
「ご心配、おかけしております……」
「いやいや、全てラウル様のご意志ですからね。避けようのない事ですから」
「?」
「リーネ様を着飾らせたいと、欲張った殿下が策に溺れただけですから」
確かこのお付きの人は、ヴィンセントという名だ。
いつもラウル殿下の側に居るので気安い関係なのだろうか?
今、もの凄く不敬な発言をしたような気がするのだが?
「それでは後はご説明した段取りの通り、お名前を呼ばれたら陛下の元へお進みください」
ヴィンセントさんはそう言って、私の後方で見守るように控えるのだった。




