それぞれの思惑(ラウル視点)
「リーネが出て行こうとしてるって?」
夕刻の執務室に、珍しくリーネ付きの侍女シエルが訪ねてきた。
リーネはこの時間、既に護衛の仕事を上がっていて、今頃は薬作りをしているはずだ。
側近や事務官達が手の動きを止めないまま、聞き耳を立てているのは僕にはバレバレだからな。
「はい。今後の生活を整えるべく間借り出来る物件をお探しのご様子です。
もちろん私に尋ねる等の失策はなさっておりません。
秘密裏に物件探しの為に動いていらっしゃいますが……。
お可愛らしく部屋のクローゼットに資料を溜めていらっしゃいますので、ご報告に上がりました」
そう澄ました顔で伝えるシエルは、王家の懐刀として仕える密偵だ。
代々、王家に仕える隠密を輩出する家系の出で、彼女はその中でもトップクラスの使い手だ。
「リーネ様は、仕事以外に興味関心の無いラウル殿下の心を動かしたお方。国王陛下からも直々に『逃してはならぬ』との言葉を頂いております。物件の申し込みをする様子が見えましたら裏から手を回し、片っ端から契約を壊せばよろしいでしょうか?」
リーネに賃貸物件の契約をさせない、「壊す」とだけ言いながらその方法については語らないシエルは少々やっかいだ。
有能な密偵だが、こちらの細かい指示を必要としない分、やり過ぎてしまわぬように手綱はしっかり握っておかねばならない。
「そこまでしてもらう必要はない。ただ、報告を直ぐに上げてくれた事は、大変役立った」
(リーネがする事の邪魔をしたい訳では無いんだよ。賃貸契約が上手くいかなかったら、リーネがガッカリしちゃうじゃないか……)
シエルの涼し気な目元が優しく緩んだ。
おそらく僕と似たような思いもあるのだろう。
……リーネを思うのは僕だけで良いのに。
シエルならリーネを任せられると思って専属にしたけれど、シエルはいつもリーネと一緒に居るし仲良くなっていて、少し悔しい。
こうなったら僕の計画を最終段階まで、猛スピードで仕上げるしか無いな……。
リーネは絶対に逃さないし、僕がリーネの1番になるのだから。
「あの計画……授賞式の日取りを早めよう。至急、国王へ伺いを立て可能な限り早い日時で式を執り行うっ!」
執務室内がどよめいてる……、皆、本気にしてなかったとか?
「……はっ、承知いたしましたっ」
側近のヴィンセントでさえ、返事が僅かに遅れてるじゃないか?!
本気にしてなかったな?!
「お早い判断と行動は、悪くありませんわ……」
シエルがそう小さく呟くと、涼やかな目元をキラリと光らせた。
シエルもそう思うなら、やはりこれが最善手だな。




