最終手段!【3】
「よしっ」
ラウル殿下がナイフで縄を切ってくれた。
私が力を込めれば、ハラリと頑丈だったはずの縄は緩んで落ちていく。
「行きますよ、殿下。私の首に腕を回して、しっかり捕まっていて下さいね」
「承知したっ」
私はラウル殿下を背負って立ちあがり、猛ダッシュで星見台の端まで走った。
◇
星見台を囲む塀の高さは、丁度私の肩の位置だ。
私はラウル殿下を背負ったまま、片手を塀の上に掛けて勢いよく飛び乗った。
「おっと……」
思ったより塀の奥行きが浅くて、バランスを取り損ねてしまった。
ふーっ、ギリギリで耐えられた……。
ここで無様に転落するわけにはいかないよ。
「叔父上っ!約束どおり、僕は今、この塀を越えてやるっ。だがリーネは絶対に渡さないっ!リーネと僕は一蓮托生だっ。
このまま僕らが地上まで辿り着けたなら、僕の勝ち。
叔父上が犯した罪の証人となるだろう!さらばだ、叔父上っ!」
「な、なんだと?おいっ!!」
私はラウル殿下と目を合わせ頷くと、そのまま塀の外へと降りていった。
◇
「よっと……」
「リーネは器用だね。窓枠に指を引っ掛けながら降りられるなんて……」
「足も、使ってますし……。この塀の、デコボコは、おそらくワザとです」
私が月の塔を下から見上げて気が付いたのは、意外に外壁の石が凹凸しているということ。
横にぐるりと渡された石の装飾も、デザインと足場を兼ねていそうだ。
そしてそれは螺旋階段を上っている時、ほぼ確信へと変わった。
さほど大きく無い窓が、等間隔に並ぶように空いていたのだ。
「私と、同じ力を持つ先祖なら……、階段なんて使わずに、壁を登るはず、ですから」
ラウル殿下に塔の外壁から逃げる提案をした理由を、ボソボソと説明していく。
「塔の建築なら、おそらく、重たい石とか、たくさん運んでる、はず。ラウル殿下程の重さを抱えたとしても、移動し易いルートが、壁には絶対にあるはずだから……。こう、今も、まるで知っていたみたいに、ルートが分かるんです。なんだか、血が騒ぐというか……」
「そうなんだ。リーネはやっぱり凄いね。僕は君に、いつも助けられている。本当にありがとう……。
首に、しがみついちゃってるけど苦しく無い?」
「あの、苦しくは無いのですが、危ないので、足でしっかり私の胴をホールドしていて下さい。殿下は絶対に手も足も、離さないで下さいね」
「うん……。それってリーネは大丈夫な、の?僕は、絶対離さないから、大丈夫だよ……」
「はいっ、殿下が落ちないのなら……、私は問題ありません」
◇
塔の外壁にしがみ付いて見渡す王都は、沢山の屋根屋根が夕暮れのオレンジに染まり初めていた。
街並みの奥に見える木々は、その先の広大な森から流れ出たかのように豊かに茂り、その反対方向に見える「リバエッジ城」の屋根にはあの、「タマネギ」が主張強めに輝いている。
「何だか、懐かしいな……」
「この景色が懐かしいなんて、リーネはおかしな事を言うんだね。
……僕はね、実は今、こう思っていたんだ。リーネと一緒に見たこの景色を、ずっと、ずーっと忘れない。
僕は、死んでも、この景色を忘れたくはない」
「殿下も、おかしな事を言いますね……」
「あぁ、僕はおかしくなってるからね、森でリーネに出会ってから」
「それって、どういう……?」
「もう伝えたよね?僕はリーネが好きなんだ。こうして僕を助けてくれる、強くて優しいリーネを、愛してる」
…………吊り橋効果?だっけ?
ドキドキを一緒に体験すると、好きと勘違いするとかいう。
「あのっ……あのっ!……。そういうのはちょっと……」
「えーっ!!何で?どうして?!僕、今、最高に心に響く言葉で伝えたはずだよ?!何が?何が駄目だったの?!」
「違っ、私、今、筋肉ムキムキだし……」
殿下は良くても私は良くない。
こんな状況で愛の言葉をもらって、私は一体どうしたら良いの??
気持ち体勢も、全く余裕無いからっ!
ラウル殿下の命を預かって降りているので、体よりも心がキツい。
この殿下を無事に地上へ運び終えるまで、気は抜けないんだっ!
黙々と手足を動かす内に、だいぶ地上に近づいてきたっ。
下で見守る人々からの声掛けや、話し声も聞こえてくる。
「ラウル殿下ーっ!よくぞご無事でっ」
「おいおいっ、殿下は魔女殿に何をさせているんだ?!」
「いざとなったら犬笛で知らせるって指示だっただろ?あれどうなったんだ?」
「いやぁ、これは、追求しない方が良いやつだろ?殿下の顔がニヤけてるぞっ……」
色んな声が聞こえてくる。
「ふーっ。とりあえずは皆に説明してからだ。叔父上を捕らえるのが先決だな」
どうやらラウル殿下が、ちゃんと現実の方に戻ってくれたらしい。
私を愛してるとか、勘違いなら早く気付いて欲しいな。
だって私は、ただ強いだけの筋肉魔女なんだから。




