最終手段!【2】
ラウル殿下が私の元に歩いてくる。
殿下の事だ、きっと何か策があるに違いない。
「リーネ、こんな事になってごめんね。叔父上付きの騎士が20人来たらどう?やっつけられそう?」
「出来ますが……、手加減出来ないと死傷者が出ますので、その辺りを考えると心が痛いです」
「やっぱりそうか……。うーん。他に手立てはあるかな?」
「ラウル殿下がお嫌でなければ、また……×××××××××」
「えっ?そんな事出来るの?」
「はいっ、おそらく大丈夫です。上って来る時、そうだろうなと思って見ていたので。私の先祖なら、そうしていたはずです」
「そうかぁ……。ちょっと怖いけど、リーネの事を信じてるから。うん、それでいこう」
「はいっ!」
ラウル殿下は私と話し終えるとゼイン殿下の元へと戻って行った。
これから2人の間で最後の話し合いが終わり、ラウル殿下の飛び降りる時が来たら私の出番だ。
「もう済んだか?おいっ、この魔女の手足を縄で縛れっ!後から連れ出すのに、また暴れられたら叶わんからな」
ゼイン殿下を抱えて上がってきた屈強な男が、指示を受けて私の手首と足首を縄で縛りあげる。
(待って!!これじゃ、ラウル殿下に話した作戦が実行できないよっ!)
ラウル殿下も縛り上げられる私の姿を、顔色を悪くして見ている。
「さぁ、これで準備もバッチリだな。魔女に襲われて逃げた設定だからな、こいつにお前を追わせて塀から落とさせるか」
ゼイン殿下は私の手足を縛ったばかりの屈強な男に、今度はラウル殿下を追いかけろと言い出した。
流石に男の目が死んでいる。
「ほら、ラウルも逃げろっ!最後の悪あがきを見せてくれっ、ハハッ、愉快だっ」
「はぁー、そろそろ犬笛かなぁ。でもなぁ……リーネの作戦をやってみたいし」
「はぁ?ラウル、覚悟が決まったんじゃないのか?自分で飛び降りられないなら……」
「いやっ!そのっ……。あぁ‥あぁ、そうだった。
僕とリーネは愛し合っていて、婚姻の日を待ち望んでいたんだ。
だが僕が死んでしまっては、それも叶わない……。
ゼイン叔父上、これは僕の本当に最後の最後の願いだ。
リーネと、その誓いの口付けを、させて欲しい。
僕はここで、彼女に永遠の愛を誓いたい」
「この若造が偉そうに、誓い、誓いの口付け?だと!!まだ婚姻をしていない叔父の私を差し置いて、そういう事を言うからお前が嫌いなんだっ!」
「でも、叔父上だったら分かりますよね?想い半ばで諦めなければならないこの気持ち!あの伯爵令嬢と大聖堂で微笑み合いながら誓いを交わし、2人で歩む将来を夢見た事もおありでしょう?!」
「むむむっ」
「隣国の姫の手を取り、そのまま己が胸に抱きしめたいと、そう願ったこともおありでしょう?その気持ちを断ち切らねばならない辛さ。振られ続けた叔父上だからこそ、お分かりなのでは無いですか?」
「だからお前は、やっぱり私を馬鹿にしてるだろう?!
それだからお前は消してやらんと気が済まないんだっ!
ラウル、小賢しいお前がいるから私は必要とされないんだ。
この国の本来の権力者である私の邪魔をするから、こうなったんだからな。
……だが、この魔女の気持ちを私に向けさせるには、お前に情けをかけるのも悪くない。私は本当は、優しいんだ‥。
よし、良いだろう。魔女と誓いの口付けを終えたら、しっかりとその塀の上から飛べっ!」
はぁ???!!!
何?誓いの口付けって何?
一体、どうして?そんな事になってるの???!!!
ラウル殿下が私に向かって歩いてくるのに、私は腕も足も頑丈な縄に縛られて動けないっ。もう少しで引きちぎれそうなんだけど、後ろ手に結ばれてるから、思うように力が入らないよっ!
これはもう、本当に詰みなの?
ラウル殿下に口付けされた挙句、罪人にされてゼイン殿下のおもちゃになるって、そんなの全然聞いてないっ!
あぁ、やっぱり王都になんて出て来なければ良かったんだ……。
おばあちゃんと暮らした日々が、走馬灯のように頭を駆け抜ける。
ーー「リーネ、筋肉は裏切らないよ。どんなに最悪な状況だって、筋肉と少しの工夫があれば、どうにかなるのさ」
そう言ってニカッと笑ったおばあちゃんの姿が、近づいてくるラウル殿下の瞳と重なる。おばあちゃんの着ていたラベンダーカラーのブラウスは、やっぱりラウル殿下の瞳の色によく似ているんだ。
「ラウル殿下……」
「リーネ、少し困った事になったね。その縄が外れないとリーネの作戦は実行できない」
ラウル殿下が2人だけに聞こえる小さな声で話しかけてくる。
「僕は、ここで全てを終わりにするつもりだ。その為に今まで動いて来たからね」
えっ?!終わりにするって、まさか本当に飛び降りるつもりなの?!
駄目っ!そんなの駄目っ!ラウル殿下がいなくなるなんて、絶対に駄目っ!
考えて私っ!筋肉と、少しの工夫……。
そうだっ!工夫っ!
「あのですねぇ、ラウル殿下っ!」
ゼイン殿下への宣言通り、口付けのフリをしながら顔を近づけて来るラウル殿下の額を頭突きで押し返す。
「なにっ?!痛いんだけどっ!」
よしっ!へなちょこの方の殿下が出た、話しやすいっ。
「この手首の縄、あと一息で切れそうなんです。
で、私の左足の膝上にナイフが仕込んであるので、それを使って縄に切れ目を入れてもらえませんか?」
「ひゃい?!」
「早くっ!ゼイン殿下がこっち見てます!背中で手の動きを隠しつつナイフを取り出してくださいっ、お早くっ!」
そろそろとラウル殿下の手が伸び、私のスカートの裾をたくし上げる。
「そんなに裾をまくったら、ナイフ取り出してるのバレバレじゃないですか?!出来るだけ手探りでお願いしますっ」
「ふぁぃ……」
ラウル殿下はゴソゴソとスカートの裾から手を入れ膝上辺りを探り出した。
筋肉強化したゴリマッチョの足とはいえ、素肌を触られるのはくすぐったい。
「お早くお願いします。なんか、すっごくこっち見てますから、ゼイン殿下」
「そうだろうね……、僕にはあらぬ誤解を与えてるようにしか思えないんだけど……」
ラウル殿下はナイフを探り当て、私に目配せをする。
「あのさ、これで縄を切ったら、さっきの作戦で動き出す、だろ?」
「そうですね。ゼイン殿下に悟られない内に動きたいです」
「だから、さ。叔父上にも言った手前、リーネに口付けしても良い?嫌だったら、また頭突きで押し返して良いから」
ラウル殿下はそう言い、私に顔を近づけてきた。
「リーネ、愛してる」
「?!」
驚いた私は先に頭突きで押し返すタイミングさえつかめず、ラウル殿下の唇をしっかりと受け止めてしまった。緊張で乾いていた自分の唇に、暖かく柔らかい殿下の唇が重なる。
瞬時、私の脳内には稲妻が落ちたかのような衝撃が走った。
……………………。
「リーネ……。それじゃ良い?縄を切るから」
ラウル殿下にキスされて、数秒間意識を失っていた。
キスされた後、嫌だと思う間もなく意識が飛んでしまった。
キス直前の「愛してる」は何だったのだろう?
これもゼイン殿下の目を欺く演技?だったのだろうか?




