王都にお出かけ!
淡いグリーンのギャザーブラウスにくるぶし丈のキャメル色のタックスカート。今日の私はシエルさんに町娘のような格好をさせられている。
「ラウル殿下と城下町の視察ですから。お忍びに合わせたコーディネイトをさせていただきました」
肘の位置まで伸びた髪も、街娘らしく緩く編み込み一つにまとめられ、片方の肩に流されている。
履き慣れた古い編み上げブーツはピカピカに磨き上げられ、まるで新品だ。
「目立たない姿にと言われておりますので、こちらもどうぞ」
シエルさんはそう言って、ササッと私の頭にショールを掛け胸元をコサージュで留めた。
「はい、出来上がりでございます」
優しくフワッと微笑むシエルさん。今日は何だか満足そうだ。
「えっ、あ、あの。短刀は、どこに差しましょう?」
「そうですね。目立つ所には下げられませんので、これはいかがでしょう?」
シエルさんはそう言うと「失礼します」と言ってしゃがみ、私の足、膝よりも上の位置に素早く何かを巻き付けた。
「小型のナイフになりますが、何も持たないよりは良いかと」
そう言ってシエルさんは、いつものように儚げに微笑む。
そっとスカートの裾を上げ、私の大腿部に巻かれた物を探ってみると何かある。もしや「レッグホルスター」?
足に巻きつけたられた固定ベルトには小型のナイフが収納されている。
シエルさん、エグいもの選んできたな……。
「あの、これって、使う時にスカート捲ります、よね?恥ずかしく、ない?ですか??」
私がドギマギしつつ尋ねると、
「こうします。ーーーーー 今、スカートの中、見えましたか?」
シエルさんの手にはキラリと光るナイフが握られていた。
「見えないように素早く出します。態々、足が見えるようには出しません」
クスッと笑うシエルさんは、もしかして「レッグホルスター」常備なの?
「もう一回っ、ナイフ出す所をお願いします」
「はい、コツは素早さと角度です」
シエルさんとの楽しい特訓が暫く続いた。
◇
「お待たせいたしました」
「やぁ、リーネ。今日はまた、特別に、可愛い……」
うっすら頬を染めて言葉を詰まらせている……。
挙動不審な方の殿下だ、やったぁ!
「あっ」とか「うっ」と言っている、私にとって好感度が高い方の殿下は、綿素材のシャツとトラウザーズにベストを合わせて平民風の装いだ。
ラウル殿下はどんな服でも、上質に見せてしまう呪いにでもかかっているだろうか?
質素な服が、まるで仕立て屋であつらえたかの様スッキリ見える。
あれ?いつもはアクセサリーを付けないていないのに、今日は珍しく首に銀色のチェーンを下げている。
私の視線を感じたのか、殿下が首元のチェーンを触り、その先に付けられた銀色のパーツを取り出した。
「これ、気になった?実はねコレ『犬笛』なんだ」
何それ?初めて聞いた。
「ははっ、リーネは結構表情に出るよね。ちょっと興味湧いたのが分かるよ、可愛いっ……。あ、ゴホッ。心の声出てた……。
犬笛というのは異国で使われている道具で、とても高い音を出せるんだ。犬は人間よりも耳が良いからね、この笛の音は僕が遠くに居ても犬には聞こえる」
犬に聞こえるような音って、もしや……。
「本当は、側近達が僕を心配して持たせたものなんだ。僕、時々いなくなっちゃうでしょ?歩きすぎて我に返った時、この笛を吹けば、犬と一緒に騎士が駆けつけてくれるんだ。リーネが来る前は、そうやって迎えに来てもらってた」
やっぱりなぁ、ラウル殿下の周りの方々って、ホントに大変。
「でも、犬笛だって1キロ以上離れると聞こえないから、犬を連れた騎士が僕が居そうな所をウロウロすることになってしまう。それはそれで大変だったんだ」
「だから、私のような専属護衛を増やされたのですね?」
「まぁ、そうだね。リーネは僕にとって理想の護衛だから」
そんな事を言いながら、街歩きには犬笛を持って出るんだな……。
やっぱり私はまだそれ程には信頼されておらず、護衛見習いくらいの立ち位置なのだろう。
「あ、あの、街は不慣れですが、しっかり、お守りさせていただきます」
お給金いただいてるし、しっかり殿下をお守りしなきゃね。
シエルさんからナイフの扱い方も教わったし、もっと腕を磨かなければっ。
「あぁ、リーネは僕と一緒に行動して恋人風を装ってくれたら良いから。周囲からの目眩しに一役買ってほしいからね。僕達から離れて数人、別に護衛もいるから、気持ちを楽にしてもらって構わないよ」
「はぁ」
どうやら今回の任務は護衛も出来る「恋人役」というところか。
ん?恋人役って護衛より大変なんじゃない?
「それじゃ行こうか?」
そう言って私の手を引き馬車へと向かうラウル殿下。
周りで見守るお付きの人も騎士様も、真面目な顔をしてるのに口元だけ妙に緩んでいるような?
私がこの役目をして本当に大丈夫なの?役不足じゃない?
高鳴る鼓動は不安から……か?




