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コミュ障(筋肉)魔女は、シナリオ王子から逃げられない  作者: なかな


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完璧シナリオ王子(ラウル視点)


「えっ?あ、ちょ、ちょっと待って!!礼、お礼まだしてないから!」


 ペコリと会釈をしたかと思うと、土を蹴り上げながら猛ダッシュで来た道を戻って行く女の子の背を見送る。


 いや、見送りたい訳ではない、もっと話がしたかったんだっ!


 ……だって僕は彼女に抱えられながら、気恥ずかしさを紛らわしつつ頭の中でシナリオを練っていたんだから。


 そう、完璧に王子として振る舞う為の「シナリオ」をね。



『大変世話になってしまったね‥。良かったら自己紹介をさせてくれないか?僕はこの国第2王子のラウルだ。先程は急な事と言い、森の道案内をお願いしてしまったね‥。緑の魔物から助けてもらった事と合わせて、是非、お礼をしたいのだが、時間は大丈夫だろうか?もし駄目なら後日、改めて礼をさせてもらうよ?‥‥‥そう?今からでも良いならお茶の支度をさせるから、是非ゆっくりしていくといい。何なら食事も一緒にどうだろう?帰りは騎士に馬で送らせるから心配しないで良いよ?あ?そうそう、君の名前を聞いていなかったね。良ければ教えてもらえないか?』


 っと、ここまでは言っておきたかったっ!!!


 ーー用意したシナリオが、無駄になってしまったな。


 僕は大体こうなんだ。「シナリオ」が無いと話せない。

 役を演じるように、その場に相応しい言葉や流れを作っておかないと、会話が出来ないんだ……。


 話が僕からの一方的な物になりがちなのは分かっている。

 でも、僕は王族という立場があるから多くの人は話を聞いてくれるし、僕も聞く側が嫌な気持ちにならない様に、配慮したシナリオを組むよう心がけてはいるんだ。


 でも今みたいに、用意したシナリオが全く役立たないこともザラにある。

 世の中は僕を中心に回っている訳じゃ無いから当たり前だけどね。


 それにしても、さっき会った子が居なくなったのはショックだったなぁ……。


 僕の目の前で揺れていた、フワフワした薄茶色の長い髪が目に焼き付いて離れない。木漏れ日が柔らかそうな癖毛を照らすと、そこだけがキラキラ輝いて、まるで繊細な飴細工を見ているようだった。


 食べたら甘いんじゃないかな?


 日の光を受けて透き通る髪色に僕は、食欲さえ覚えていた。


 そう、あの子が余りに早く走るのでローブのフードが途中、脱げてしまったんだ。

 あぁっ、その時っ!

 ……それは、僕が最大級の幸運を手にした瞬間だった。


 細い鼻梁に形の良い薔薇色の唇。

 フードに隠されていない部分だけでも整った綺麗な顔だと思っていたけれど、正面から風を受け、形の良い白く広い額に優しげな細い眉、パッチリと開いた薄緑の瞳を至近距離で見つめる機会を得た僕は、一体、どんな神のルーレットを引き当てたのだろう?


 僕がこの不器用な気質を持ってでも、国の為に尽力し、完全無欠の王子を演じ続けていることへの、ご褒美がこれなのでは無いだろうか?


 ならばそのご褒美を有難くいただいて、なおかつチャンスは無駄にせずにあの子との繋がりを得ようと、そう心を決めて練ったシナリオだったのに……。


 あぁ……。



 ◇



「殿下ーっ、ラウル殿下っ!!よくぞご無事でっ」


「殿下っ!よく自力でお戻り下さいました。半時程前、殿下捜索の為に近隣の森へ小隊を向かわせましたが呼び戻しをいたしますっ」


「殿下……、あれ程城の敷地内から出てはならないと申したではありませんか。お考えが深い時、どこまでも歩きながら考え続けてしまう癖はご自分でもお分かりでしょうに……」



 僕が城に帰ると側近達が僕に詰め寄ってきた。

 そう、分かってるよ。こうして僕が知らないうちに居なくなるのは、今に始まった事では無いからね。


 僕はまだ二十歳という歳で、結構若くはあるけれど、今は国のブレイン的な立ち位置にいる。


 兄と違ってカリスマ性はないけれど、国が抱える問題の解決案を出すことは僕に出来る事で楽しみの一つだ。情報や条件さえ正しく揃えば、後は僕の思考の渦に放り込むだけ。

 問題は一つだけより、幾つも同時にあった方が楽しい。脳を情報でいっぱいにしておくと、より深く集中出来るから。


 ただ問題なのは、思考モードに入ると僕の足は勝手に歩いちゃうんだよね。

 目が覚めたみたいに意識が戻った時には、全然知らない場所にいることがあるんだ。

 だからいつも側近達は僕から目を離さないんだけど、どうしたって年に1回や2回は見逃されて、僕は行方不明になってしまう。思考のスイッチは突然入ったりするからさ、どうしようもないんだよ。



 ◇



「また、居なくなって、悪かったね。今回はちょっと危なかったよ。魔物に襲われて、足も挫いてしまった」


「何ですと!!あぁ、もう今後は殿下を椅子にでも括り付けておくしか……」


「それは、嫌かな‥。でさ、助けてもらったんだ、女の子に。この近くに住んでいるらしくて、うーん、ローブ?魔女みたいな服、着ていて」


 側近達が集まってザワザワとしている。

 何だろう?僕が幻覚を見たとでも思っているのかな?魔物から助けてくれる女の子ってあまりいないよね。


「それで、その女の子が、僕を担いで城まで送ってくれたんだ。凄いよね、あり得ないって僕も思ったよ。それも凄いスピードで走って……」


「恐れながら、殿下。その者は間違いなく『森に住む魔女』です。魔女のような、では無く、お話を伺う限り本物の魔女でしょう」


「へっ?魔女??」


 我ながら間抜けな声が出た。だから即答する様な会話は苦手なんだ。


「魔女に助けられるとは、何を礼に寄越せと言われるか分かったものではありませんぞっ」


 いや、礼の話を聞く間も無いくらい素早く帰っちゃったけどね。

 


 ……………………。



「そうか、ならば仕方が無いな。こちらから出向いて魔女の要求を聞くしかあるまい。向こうが要求を固めて来る前に制してしまえば、こちらに良い方へ転がす事も出来るだろう。幸い、僕は明日の午前が空いている。騎乗して魔女の家へ向かうとしよう。土地に詳しい者の手配と、魔女の機嫌を取る為に菓子や小物など手土産の用意を頼む。魔物が出る可能性も考慮して護衛の騎士も控えさせてくれ。以上だ」


 よしっ、短いシナリオだけど悪くなかった、スラスラ言えたぞっ。

 次の段取りに向けていくつか上手いシナリオ、考えないとな……。






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