庭師の小屋(ラウル視点)
「殿下、ラウル殿下っ。お体に問題でも?」
リーネが仕事部屋にしている庭師小屋からの帰り道、何を心配してか騎士のマシューが慌てて僕に走り寄ってきた。
「へっ?何もないけど」
眉根に皺を寄せ、不審な目をして僕を見られても、本当に何でも無いからね。
「先程お飲みになったお水が問題なのでは?魔女様と一緒にいらっしゃたのに、こんなに直ぐに帰られるなんて」
ふむ、どうやらいつも僕はリーネの所に長居していたらしい。
時間を忘れちゃうから記憶に無いんだけどね。
「戻りましたら、直ぐに医師をお呼びしましょうか?皆に分からぬよう内々に連れてきますので……」
「いやいや、ちょっと待って?!本当に何でもないから」
「でもご様子がいつもと違いましたので」
はぁー、その理由を言わなければならないのか……。
でも、幼い頃から僕に付いているマシューになら話しても良いか。
「さっきリーネの水を飲んだら、心がこう……落ち着くというか、力が抜けて素の状態になってしまったんだ」
「殿下が素の状態は……、あまり望ましくありませんね」
「そうなんだよ。スラスラと言葉も出ないしポカンとしてしまった。ただ、それと同時にいつも抑えていたリーネを愛おしいと思う気持ちも沸々と湧き上がってきたんだ……」
「はっ?」
「抑えていた気持ちが "ここにあるっ” と主張してきて、僕は、その思いに抗う事ができそうになかったっ」
「…………」
「そして、目の前にあるのはリーネの小さな背中だ。
もう、僕は自分に素直になっても良いんじゃないかな?
その背中に抱きついて、僕の本心をさらけ出しても良いんじゃないか?
そんな思いに押しつぶされそうになってしまった」
「それは、今後の計画に差し障りそうですね」
「そうなんだっ!僕がリーネを手に入れる為の計画を、僕が邪魔してどうするっ?!おまけにリーネは仕事中だ。僕が抱きついて邪魔なんてしたら、彼女は困惑するか筋肉をモリモリにするだろ??彼女を困らせたいわけじゃないんだ……、僕は、彼女に、嫌われたくないっ!」
「嫌わ……?!」
「だから僕は、あの場は直ぐにでも立ち去る他なかった……。これが真実だ。疑問は解けたか?マシュー」
マシューが本気で心配してくれているのが分かったから、僕は包み隠さず話した。彼は努めて僕を理解しようとする騎士だから。
あ、でも他に言っとかなきゃいけない事があるな。
「マシューさ、さっきリーネの顔をじっくりと見てただろ??
一旦忘れて、しばらく思い出さないでくれ。
僕がリーネの事を公に出来るようになるまでは、僕以外の男に彼女の姿を覚えられたくないんだ」
マシューが口を開けてポカンとしている。
あれ?この男、こんな間抜けな表情する奴だったっけ?
「聞いてるか?マシュー?だからリーネの顔は見なかったことにしてくれ。目を瞑ったとしても、そこにリーネの顔は思い出すなっ」
「は?はいっ?!」
「よしっ。後はリーネと愛を深める為の『あらすじ』に詳細も入れていくから、側近達と共有出来るよう、打ち合わせ用の時間を開けてくれ。あ、もちろんリーネの居ない時間だからな。
……あいつがトリガーさえ引いてくれれば、日程まで話は詰められるんだけどなぁ。
まぁ、奴が引かないのなら、こっちから引かせるまでだ。
ひと月以内には結果を出したい。短期戦で勝ちに行くっ!」
流石マシューは騎士だ。
結果を出すとか、短期戦で勝つなんて言葉を言っただけで顔付きが変わったぞ。
よしよし。
僕がリーネという幸福を得る為には、皆の協力は欠かせないからね。




