王城でお仕事!
ようやく王城に勤め始めてから1週間。
護衛の仕事内容もだいぶ覚えた。
護衛とは言ってもやはり騎士ではないから、私はラウル殿下の側に控えているのが常だ。
いや、殿下を見張っているという方が正しい、のか?
熟考中のラウル殿下には歩き回る癖があり、突然居なくなってしまうから。
これって結構な奇行?よね?
天然という枠から一、二歩は、はみ出している
一昨日も、書類に目を通していたはずのラウル殿下は突然立ち上がり、その後しばらく部屋の中を歩き回っていた。
心ここに在らずという感じで、どっぷりと自分の世界に入り込むラウル殿下。
執務室に居る人達はすっかり慣れていて、そんなラウル殿下の様子を横目に見つつ、作業の手は止めない。
慣れって凄い。
でも、確かにこれでは、殿下だけを見ている専属の護衛が必要なのかも。
ラウル殿下が1人でミンカッセの森でウロウロしていたのも、然もありなんと思う。
結局、この癖が命取りだったのだ。
あの時は本当に危なかったよね。
間一髪だった。
◇
”ギイッ”
いつもと変わらない午前中のラウル殿下の執務室。
部屋の中程で控えていたら、ドアの開く音が聞こえた。
あ、れ?
さっきまで歩き回ってたラウル殿下の姿が見えない。これって、もしかして?!
ドアの側に控えていた騎士様が、後を追いかけるように出ていくのを見て確信する。
(ラウル殿下ってば部屋から出ちゃったよ!追いかけなきゃっ!)
私も慌てて騎士様の後を追うように部屋を飛び出た。
◇
幸いラウル殿下はまだ遠くへ行ってはいなくて、廊下の突き当たりを曲がって行く後ろ姿が見えた。
(あっちの方向は確か階段があったはず!降りた先は通行人も多いし、外に出られる場所もあるから見失ったら大変っ!急がなきゃっ)
私は小さく呪文を呟き、筋肉増強術を使う。
(とりあえず瞬発力だけ上げちゃおうっ)
メリメリッと足の筋肉が強張る感覚と共に、全身で風を感じる。
私はラウル殿下に近づくと、その背後でスピードを緩めて術を解いた。
(はぁーっ、良かったー。見失わずに追いつけたよ……)
ここまで近づければ大丈夫。
どこかにラウル殿下を狙う人物が潜んでいたとしても、私が筋肉の鎧で盾になれるだろう。
先に殿下を追っていた騎士様が、私の姿を見て目を見開いている。
私が爆速で駆けつけたから驚かせてしまったみたいだ……。
疾走したせいでローブのフードは脱げてしまっているし、急いでフードを被り直さなくっちゃ。
騎士服のデザインに合わせて用意された「特別なローブ」は、首元の目立つボタンだけに薄紫の宝石があしらわれている。
王族を象徴する紫の色をこんな所に使って良いのだろうか?
もしかしてこの宝石の色合いから、ラウル殿下付きの護衛だと一目で分かるようにしているの?
いずれにせよ、このローブを着てから身を隠すどころか、悪目立ちしているような気がする。
◇
階段を降りるラウル殿下の後を、静かに追っていく。
あっ!!
余程深く考え事をしているのか、ラウル殿下が階段の途中で立ち止まり、上を見上げてしまった。
これは危ない……。バランスを崩したら、階段下まで真っ逆さまに落ちてしまう。
共に追ってきた騎士様が、ラウル殿下の姿を見てゴクリと喉を鳴らすのが分かった。
分かる、分かるよっ、その緊張感っ!
もし、ラウル殿下が階段から転げ落ちたら、全力で駆け寄ってお守りしないといけないからねっ。
何故に敵も刺客も居ないのに、こんなにハラハラドキドキさせられるのか?
やっぱり殿下って、手間のかかる人なんだな……。
あっ!またラウル殿下がずんずんと階段を降り始めた。
騎士様が私に目配せをしてくる。
おそらく「行くぞっ」て感じなんだろうけど、合ってる??
私は心の中だけで「了解っ」とつぶやいた。
◇
ずんずん歩くラウル殿下の後を、早足になって追いかける。
光沢のあるブルーのスーツから伸びるラウル殿下の長い手足。一歩一歩の間隔が、どうにも広い。
しばらく1階の廊下を歩き続けた後、ラウル殿下はどこの部屋に入るでもなく、外廊に出ていった。
外廊に差し込む日の光が、殿下の金の髪を照らしてキラキラしている。
歩く度に揺れる金の髪の上で光が舞うように輝き、光に包まれているような神々しさだ。
(綺麗ーっ。後ろ姿だけでこんなに美しいってどういうこと?)
屋外を気にする様に、ふと顔を横を向いたラウル殿下の顔を光が照らす。
額から鼻筋、唇から顎までの美しいEラインが光に包まれ、まるで女神のような美しさだ。
(くっ、綺麗すぎて目が爆発っ!)
思わず両目を手のひらで抑えて、入ってくる映像を遮った。
(私は何も見ていない……)
気持ちを整えて再び目を開けると、目の前にはブルーの壁が迫っていた。
「リーネ、来てくれてたんだ……。嬉しいっ」
いつの間にやら綺麗をまとった女神(殿下)がゼロ距離に居た。
心臓爆発っ!!
「具合、悪いの?……リーネ、大丈夫?」
ラウル殿下が心配そうに、たどたどしい言葉使いで尋ねてくる。
えっ?挙動不審というか、なぜ幼い子供みたいは口調で言うの??
天然……いや、これってもしや、あざといのでは??
ラウル殿下に何と返して良いのか分からず、思わずフードを引っ張って顔を隠す。
ひとり緊急会議で次の言葉を考えなくては。
「だ、だいじょうぶです。問題、ありません」
「ハハッ、リーネは面白いよね。それじゃ前が見えないでしょ?……あ、そのままでも良いよ。僕が手を引いてあげる」
!!!!!
フードを引っ張り顔を隠したままの私は、何故かラウル殿下に手を引かれながら王城の中を歩き、執務室まで戻るのだった。




