王家の人【2】
「やぁ、リーネ。ドレス姿とてもよく似合ってる。……可愛いっ」
サンルームに行くと出迎えてくれたのはラウル殿下だった。
どっちだ?どっちなんだ?
キラキラの方か挙動不審な方か?
「ドレス……ありがとうございます。こんな素敵な服、着たの、初めてでっ‥」
私がたどたどしく感謝を伝えると、ラウル殿下の色白で透き通るような肌が、ボボボーーーッッと燃え上がるように赤く染まった。
「ひょ、ひょう、いたしましまし……」
あ、これ駄目な王子の方だ。よしっ、来たっ!
お付きの人がラウル殿下に駆け寄り、何か耳打ちしている。急用でも入ったのだろうか?
「あ、あ、あー。よしっ、ゲホッ。着てもらったのはリーネの為に僕が選んだドレスなんだ。サイズはシエルが合わせてくれたから、間に合って良かったよ」
えっ?シエルさんてば、いつの間にか私のサイズまで把握してたの?おまけにドレスのお直しまで??
「これから父と母も来るから、先にお茶してようよ」
ラウル殿下はそう言って、焼き菓子が置かれたテーブルへと私をエスコートしてくれる。
「リーネはどれが好き?これは軽い食感で口の中で溶けるように無くなるよ。こっちはバターたっぷりだから、紅茶によく合う」
このキラキラ王子はペラペラ喋るけど、親切だし決して嫌な人ではない。
王族ってもっと偉そうにしていると思ってたのに。
「ーーーーー私も、魔女との茶会に入れてもらうよ。
あぁ、いつもなら決して平民と同じテーブルには着かないけどね。
でも今日は気にしないでおく。私は心の広い男だからね」
そうそう。
王族って正にこんな感じで偉そうだと思ってた……って、誰?!
気位の高い嫌味な言葉を吐いたのは、スラッとした長身の男性だった。
男性はラウル殿下の側に立ち、うろんな表情で私を見下ろしている。
茶色がかった金色の髪は短く整えられえいるが、前髪だけが少し長く、耳に軽くかけられている。
瞳の色はラウル殿下よりも濃い紫色。まさに王族の瞳の色だ。
「こちらにいらっしゃるのは珍しいですね。ゼイン叔父上」
「あぁ、ラウルが城に戻ったと聞いたからね。
おまけに魔女を連れてきたとは、一見の価値があるだろう?
あのラウルが何かを画策しているのだから……。知りたいじゃないか?」
ラウル殿下は否定する訳でもなく黙っている。
「私のこの濃い紫の瞳は、王家の血が濃い証だからね。
災いを成すものが現れたのなら、王家の者として黙って見てはいられない。
そうだろ?」
そう言って男性は私の顔を覗き込み、目を合わせた。
「…………」
いや、待って?!本当に言葉が出てこないっ!
さっきの「そうだろ?」は私の方を見て言ったよね?
私がへりくだって「仰る通りでございます」とか何とか言わないといけなかったの?!
男性は気を悪くしたのか腕で顔を半分隠したまま、のけ反っている。
もしかして私、臭かったとか?昨日はちゃんとお風呂入ったんだけど……。
「叔父上……」
今まで静かだったラウル殿下の片側の口角が上がった。
「ご機嫌麗しく、お元気そうで何よりです。先月、伯爵家の令嬢との縁談が白紙に戻ったそうですね……。叔父上のお心お察しいたします。……確か半年前には、未亡人となられた隣国の王家の姫との縁談もあったとか。こちらは年齢が近く、あちらから是非にとの事でしたが、当人の姫と認識のズレが生じていたとかで、呆気なく破談にされましたからね。破談が続くのはお辛いでしょう。昨年は美女との噂名高い子爵の娘との縁談もあったそうですが歳の差が……」
「ラウルっ!私はお前のそう言う所が嫌いなんだっ!
人の嫌がる事をズケズケとっ!そういう事は今言う必要ないだろう!?」
「私は叔父上を心配しておりましたので、次にお会いする機会があれば、非力ながらもお慰めしようと思っておりました」
そう言って真面目な顔をしているラウル殿下は、間違いなく確信犯だろう。
言われ放題の叔父上様は、こめかみに青筋を浮かべて憤慨している。
「ラウル、私はお前よりこの国を動かすに相応しい人間だ。
王家の基盤を強固にするには、この濃い紫の瞳を持つ者が権力の中枢を握らなければならぬ」
「僕は必要とされた職務に就いているだけなので、権力の中枢を握っているとは思っておりません。王太子である兄が僕の能力を買い、必要とするからこそ任されているだけです」
これは口喧嘩って奴??
市場で見かけた男の人同士の喧嘩も、言い合いから始まってたっけ。
それで口喧嘩が行き詰まると、その次は「なんだとオラァーッ」って拳がでて……。
「フンっ!やっぱり様子を見に来て正解だったな。
魔女を引き入れて何をするつもりなんだ??
よくよく見物させてもらうからなっ!」
あ、見るだけなんだ。
「どうぞご勝手に。僕も叔父上の縁談が次こそまとまりますよう、心からお祈り申し上げます」
ラウル殿下は煽るのか……。
流石に王族の人達は、拳で解決はしないのね。
「クソッ!」と、下品な言葉を吐いて部屋を出ていく叔父上様を、ラウル殿下は余裕の笑みで見送っていた。
「あの……、かなり怒ってましたけど、大丈夫ですか?」
「あぁ、ごめん。
リーネには怖い思いをさせちゃったかな?
話を聞いていて分かったと思うけど、叔父上は性格に難があってね。来る縁談全てが上手くいかないんだ……。
それもあってか権力に固執するし、僕も兄上も手に焼いているんだよね。
でも、そう……。
排除のシナリオは出来ているから、後は叔父上が大きな動きをすればそれを機に……」
「ラウル様っ!!」
いつもラウル殿下に付き添っている30代くらいだろうか?ヴィンセントと言うお付きの人が突然会話に割って入った。
「はっ!?またしても僕は暴走したのか?済まない……。心の声がダダ漏れになるなんてっ。愛しい人の前では隠し事も出来なくなるのか?なんて恐ろしい……」
「ラウル様っ!!」
ラウル殿下が何かを話そうとする度に、ヴィンセントさんが割って入る。
これは一体、何が起きているの??




