王家の人
朝食の後に私室に戻ると、支給された私の騎士服を抱えたシエルさんが待っていた。
「騎士服、お着せしますね」
そう言い、フワッと笑みを浮かべたシエルさんは、瞬く間に騎士服を私に着せ付けた。
(目にも止まらぬ速さっ、て奴か……)
「髪も‥邪魔にならないようお纏めしますね」
そう言ってへアブラシを握るシエルさん。
出来上がったのは髪を全て後ろの高い位置で、ひと纏めにくくった髪型だった。
「ひえっ!」
顔周りでいつも主張していた茶色い癖毛が消えて、フクフクとした頬が丸見えだっ!
こんな、何のシールド無く素顔を晒す髪型なんて……。
「……シエルさん……。これって‥、この髪型じゃないと駄目ですか‥?」
「…………。駄目です」
えっ?シエルさんちょっと迷った?!
「今日は、これで行ってみて下さい。反応、楽しみなので」
「???」
「騎士の姿なので……。リーネ様は騎士の仮面を心にお被り下さい。シャイなリーネ様も素敵ですが、騎士服を着ている時は一国の女騎士です」
騎士服を着ろって言われたの、ついさっきなんですけど??護衛だけど騎士じゃないし?!
色々と不思議な理屈なんだけど、要は騎士を演じて乗り切れって言われてる??
動揺する私を見て、フワッと儚げに笑うシエルさんの笑みを見ていると、何故かこの人の言うことなら仕方がないかな……と思ってしまえる。
あっ!!
森で熊が私に近づかないのもコレと同じかも?!私の本能がシエルさんの強さを察知しているんだ……。
この人とは、戦いたくないよね。
ラウル殿下が私にシエルさんを付けたのは、抑止力の為だったか……。
王家の人ってやはり用意周到だな。
* * *
言われた通りに騎士服を着てラウル殿下の執務室に行ったのに、何故か直ぐに追い返された。
私は何か、やらかしてしまったのだろうか?
挨拶が出来てなかったとか?
いや……、緊張の中、精一杯の声だったんだけどな?
それか間が悪く、何か大事な話し合いの最中に尋ねちゃったとか?
でも、「入って!」ってラウル殿下の声が聞こえたし、それは私の落ち度じゃないよ、ね?
そう言えば部屋に入った後、キラキラ王子の方のラウル殿下が、ペラペラと何か喋っていたなぁ……。
余りに緊張していたから、話の内容は私の頭の中を素通りしていたのだけど。おかげで何故に帰されたのかが分からないままだ……。
何故かラウル殿下からはフード付きのローブに執着していて、いつでもそれを着て欲しいみたいな事を言っていたような気がする。
私にとっては顔を隠せて有難いけど、そんな護衛?女騎士で良いの?
本当に色々と意味が分からない。
今日の午後、国王陛下にお目通する際にも、その姿が良いのだろうか??
「騎士じゃないのに騎士服着て、ローブまで着込んでフードで顔を隠している魔女って、怪しい通り越してもはやオカシイよ、ね??」
物凄くモヤモヤして思いが口をついて出てしまった。
益々、自分の立場がよく分からない。
そもそも単なる護衛なら、国王陛下にお目通りする必要無くない?
あーっっっ。
意味のわからない今の状況から早く抜け出したい……。
こんなストレスを抱えていたら、王家の光り輝く人々を前にして目が眩み腰が抜ける前に、髪がゴッソリ抜け落ちそうだ。
(うっ、ストレス値MAX……)
やはり私が王城で働くなんて、荷が重かったんだ。国王様とお茶会なんて、そんな高いハードル越えられないよ……。
ーーーーーーーー
「追えーっ!筋肉魔女が逃げたぞーっ!!馬だっ、馬で追いかけろっ!」
妄想の中で、逃げ出した私が騎士様達に追われている。
騎乗の騎士様に追われた私は、強化した筋肉隆々の手足を振り、王都の小洒落た並木道を砂煙を上げながら駆け抜けていく……。
あぁ、もう無理だ……。
逃げた時を想像しても、最悪の絵面しか見えてこない。
「潔く、王家の神々しい光に触れて、灰になってこよう‥」
私は柔らかなソファに体を預け、午後のお茶会という審判の時を待つことにした。
◇
お茶会を前にして怯える私の元へ、シエルさんがドレスを手にして現れた。
「こちらにお着替えくださいませ」
シエルさんが抱えているのは淡いピンク色のドレス。
女騎士の次は、姫様か……。
若干、シエルさんが楽しそうに見えるのは何故だろう?
淡いピンク色に所々銀糸を使ったドレスは、甘い雰囲気なのに品があってどう見ても高級品だ。どう考えても私が着て良い物ではない。
シエルさんが手際よくハーフアップ型に髪を結ってくれたけど、飾り付けられた銀の髪飾りも髪型も、清楚というか甘いというか魔女のイメージとは真逆な感じだ。
シエルさんの技術力を持ってすれば、魔女さえもどこぞの姫のようにしてしまえるんだな。流石はシエルさんっ!
でもどうしよう?おかしいな……?動悸がしてきた。
何か思ってたのと違う。
私、護衛として呼ばれた魔女だよ?
本当にこの格好で、合ってる??!
「サンルームにお連れするようにとの事でしたので、明るい色合いでお支度をさせていただきました」
そよ風が吹き抜けるように、シエルさんの言葉が通り過ぎていく。
一応、ドレス姿はシエルさん的に間違ってはいないようだ。
それじゃ、気になっていたもう一つの件を……。
「あの、ラウル殿下から私にローブを着せるよう言われてませんか?」
「いえ……」
シエルさんは短く答えて、クスッと笑った。
これは、何かを確実に知っているような感じだな。
でも、それを安々とシエルさんから聞き出せたなら、私はコミュ障なんてやってない訳で……。
仕方がない、着るものについてはお任せしておこう。
ここでは私が知り得ないことばかりで、あまり考えすぎると頭がパンクどころか破裂して木っ端微塵だ。
そもそも、こうしてドレスなんて着るのも生まれて初めてだ。
…………今、筋肉増強したら、確実にドレス破れちゃうな。
うん、考えちゃ駄目だ。
感情のコントロール大事。無だ。無になろう。
ドレスを無傷で返す為に、全てを忘れて無になるんだっ。




