名前を呼んで
0時まで残り8分
ピコンという通知音。それはまた、通知が来たことを示すものであった。
{午前0時までに学校に集合してください。}
{参加者32人の確認を行います。}
{1人でも欠けた場合、参加者全員を削除します。}
「なんなんだ…これ。ただの悪ふざけじゃ済まないぞ。」
みんなもそう思っているらしく、クラスのグループチャットは同じようなメールがたくさん届いていた。
{これ何?}
{どんな悪ふざけだよ}
{てか、学校行かないとなのかな?}
{行かなかったらどうなるの?}
{しらねぇよ。てか、削除ってなんだよ}
みんなは何も理解していないような気がする。
其の時、通知音、とバイブ。
蓮からだった。
ーーもしもし?直人?
ーーもしもし。蓮さ、学校って行くの?
ーー行くしかなくね?
ーーお前はそういうと思った。
*[23:53]『午前0時まで残り7分』
ーーおい、あと、7分だぞ。蓮の家から学校まで何分かかる?
ーー頑張れば7分。
ーーつかねぇだろ。早く出発しろ。
ーーお前は大丈夫なん?
ーーまあ大丈夫
ーー大丈夫じゃねぇだろ。お前も早く出発しろ。
思わず笑顔になる。
こんな状況にも関わらず、蓮はいつも通りだ。
くだらないことで、僕を笑わせる。
僕は、急いで靴を履いて家を飛び出た。
夜の空気は少し肌寒く、思わず身震いした。
なんだよ。天気予報では、今日16℃って言っていたのに。
そう思いながら、僕は走り出した。学校に向かって。
あと7分。
間に合わなければ全員削除。
でも、こんなのは悪ふざけだ。
*[23:58]『午前0時まで残り2分』
僕は息を切らしながら昇降口に駆け入る。
其の時、
「よお。直人!」
「蓮じゃん!」
「間に合ったか。」
「お前もな」
そう言って笑う。
「俺は余裕だったぜ?」
「嘘つけって。」
蓮も笑う。
いつもの会話。
そう思いながら、僕は教室へ向かう。
ドアを開ける。
そこには、クラスメイト全員がいた。
「全員いる?」
誰かが声を上げた。
「数えようぜ。」
誰かが数を数え始める。
1人、2人、3人。
いつも通りの学校。机や椅子もいつも通り。でも、先生はいない。真夜中の学校に僕たち32人だけ。
其の瞬間。教室のテレビが光る。
{参加者確認中…}
{参加者32人を確認しました。}
「これでいいってことか?」
「そうじゃね?」
「じゃあこれで終わりかな。」
誰かが笑う。それに釣られて皆んなも笑う。
少なくとも、今は何も起きていない。
*[23:59:50]『午前0時まで残り10秒』
僕はスマホを見る。
*[0:00]『午前0時まで残り0分』
午前0時。テレビの画面が変わる。
{点呼を開始します。}
{呼ばれたら返事をしてください。}
{返事をしなかった場合、連帯責任となりますので、参加者全員削除致します。}
その後機械のような声で、
{参加者1番。小林由奈}
「…はい」
点呼が始まってしまった。
順調に進んでいく。
僕はただテレビを睨んでいた。
そして…
{参加者7番。}
ここで少しだけ遅れる。
ノイズが走った。
{神谷蓮}
蓮が自分で自分を指差し笑って
「俺?」
「お前胃がいいねぇだろ」
蓮は少しだけ笑い
「はい。」
と答える。
少しだけ、登録完了という文字が見えたような気がするが、気にしないことにした。
点呼は続いていく。
7番目
8番目
9番目
次々と名前が呼ばれる。
そして…
{参加者32番。桐谷直人}
「はい。」
僕の声が教室に響く。
これで、全員の点呼が終了した。
{全員の返事を確認しました。}
{点呼完了。}
{それではゲームを開始します。}
{先ずは全員で写真を撮ってください。}
「写真?」
「まあ一旦撮ろうぜ。夜の学校なんて来ないじゃん。」
「そうだな。」
「じゃあ僕が取るわ。」
僕は、みんなの前に立つ。
みんなは集まってきた。
「全員入ってる?」
「多分ね。」
「じゃあ撮るぞ!」
いつも通りのメンバー。
カシャッという音と共に、写真が撮れた。
「見せて!」
「え、この写真結構よくね?俺に送ってよ。」
蓮がそう言った。
「俺に送れよ?」
「送るって。あとで」
其のあと、少しみんなで会話した。
明日の学校の話。
宿題の話。
他愛のないような雑談
少し楽しく、テレビからなった音に気が付かなかった。
{参加者を1人削除します。}
{参加者名簿更新中}
{削除中…神谷蓮}
少したつと、画面が変わり、
{削除中… }
名前が…消えた?
「蓮…名前消えたな。大丈夫か?」
「おい、直人。誰と話してんだよ」
「え?誰って…蓮だよ?」
「蓮?誰だよそれ」
周りを見る。誰も蓮を見ていない。
そして、蓮が大声で叫んだ。
「おい。冗談だろ?冗談やめてくれ。俺が何をした?」
其の声が少しずつ小さく、涙が混じった声になる。
「嘘だろ…」
写真を開く。僕と蓮のツーショット。蓮だけがいなくなっていた。
「蓮…」
「俺、消えるのかな…」
「そんなことないって。」
「お前さ、まだ俺のこと覚えてる?」
「覚えてるに決まってるだろ。」
「直人…俺にはもう時間がないようだ。最後に一つ。」
「何?」
涙が出ていた。
「俺の名前忘れないでくれ。」
「わかってる…2度と忘れない。」
「ありがとう。」
「蓮…」
僕は手を伸ばす。だが其の手は何にも触れることはなかった。
蓮の姿が少しずつ消えていく…
「蓮」
「ん?」
「お前明日学校来るよな?」
「当たり前だろ」
「そっか…」
「そっかってなんだよ」
蓮の姿がどんどん消えていく。
「蓮…」
返事が返ってこない
蓮の姿が完全に消えた。
「蓮っ…蓮ーーーーーーーー」
僕の叫び声が教室に響く。
でも、誰も振り返らない。
蓮なんて最初からいなかったように…
「蓮…」
「直人…お前大丈夫か?」
「蓮だよ!神谷蓮!俺の親友の!」
「ごめん。君が言っていることがわからない。」
テレビの画面が切り替わる。
{神谷蓮削除完了。}
僕は涙をこぼしながら、画面を見る。
僕は絶対に名前を忘れない。




