踏み込む者たち
石畳を蹴る足音が、強く響く。
風が低く草を揺らし、墓石の影が長く伸びていた。
ルーファスは迷わず奥へ進む。
小屋はすぐに見えた。
灯りは弱い。だが、人の気配はある。
扉を叩かず、そのまま開けた。
中にいたサイラスが顔を上げる。
視線が合う。
それだけで、状況は伝わった。
「レオンに、アイリスが連れて行かれた」
前置きはない。
サイラスは一瞬だけ動きを止める。
その目が、わずかに揺れた。
ルーファスは布を差し出す。
サイラスはそれを受け取り、視線を落とした。
血に滲んだ文字。
――男にも作用 完成 危険
指先に、わずかに力が入る。
呼吸が一瞬だけ止まる。
だが、それだけだった。
「……場所に心当たりは?」
「ある。レオンの実家だ」
短い返答。
「行こう」
迷いはない。
ルーファスは頷き、踵を返す。
二人は同時に外へ出た。
墓地の静けさを背に、足音だけが響く。
止まらない。
振り返らない。
ただ、一直線に進む。
向かう先は、一つだけだった。
屋敷の前で、二人は足を止める。
静かすぎる。
人の気配が、消えている。
「ここで間違いありませんか」
「間違いない」
即答だった。
一瞬だけ、視線を交わす。
次の瞬間、動く。
ルーファスが先に踏み出す。
軽い足取りで距離を詰め、そのまま扉に手をかける。
開かない。
鍵がかかっている。
舌打ちするより早く、背後から声が落ちた。
「少し、下がってください」
ルーファスが一歩引く。
その前に、サイラスが出る。
迷いはない。
体重を乗せた一撃。
扉が内側へ軋む。
サイラスの眉がわずかに寄る。
想定より重い。
もう一度、踏み込む。
蝶番が歪む。
次の一撃で、扉は崩れた。
鈍い音が、屋敷の中に響く。
静寂が、破れる。
ルーファスはすぐに中へ滑り込む。
無駄のない動きで進み、視線だけで周囲を確認する。
サイラスも続く。
足音は重いが、迷いはない。
広い廊下。
整えられた家具。
生活の気配。
だが――
人がいない。
異様な静けさだけが残っている。
ルーファスは止まらない。
迷わず奥へ進む。
扉を一つ、開ける。
違う。
次。
違う。
呼吸が、わずかに乱れる。
やがて、足が止まる。
廊下の奥。
ひとつだけ、空気の違う扉。
わずかに、人の気配が残っている。
中だ。
「……ここです」
サイラスが低く言う。
そして、一歩前に出る。
扉に手をかける。
一瞬の静止。
そして――
扉が、開いた。




