表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/40

辿り着いた名前

 王都の市場は、朝だというのに静かだった。

 人はいるが、足を止める者は少ない。

 声も控えめで、活気は感じられない。

 サイラスは歩きながら、周囲を見ていた。

 店先に並ぶ花へ視線を向ける。

 すぐに気づく。

 あの花だ。

 見慣れているはずのもの。

 だが——

 量が多すぎる。

 一つの店ではない。

 二軒、三軒と続いている。

 どこも同じ花を並べていた。

 束にされたもの。

 小分けにされたもの。

 乾燥させ、袋に入れられたもの。

 形を変えながら、同じ花が広がっている。


 サイラスはひとつ手に取る。

 香りを確かめる。

 ——同じだ。

 店主に尋ねる。

「どこから仕入れている」

「商人からだ」

「まとめて持ってくる」

「最近はどこもそれを使ってる」


 別の店でも聞く。

「直接は知らないな」

「仲介がいる」

「顔は見たことがない」


 さらに別の店。

「名前は聞いたが、覚えていない」

「違うところからも来てるらしい」


 話は揃わない。

 だが、花は同じだった。


 サイラスは考える。

 この量を、一人の商人で扱えるはずがない。

 だが、大きな商会の名も出てこない。

 規模のわりに、出どころが見えない。

 流れはある。

 だが、追えない。

 ひとつに繋がらないように、分けられている。

 意図的に。


 サイラスは視線を上げ、市場の奥へ進む。

 やがて裏通りに出る。

 人は減り、静けさが増す。

 そのとき、荷車を押した男が現れた。

 同じ花を、大量に積んでいる。

 男は店に入り、花を渡す。

 すぐに出て、次の店へ向かう。

 さらにその先へ。

 サイラスは距離を保ったまま、その動きを追う。


 ふと、視線を感じた。

 サイラスは振り返らない。

 そのまま通りを進む。

 ひとつ角を曲がる。

 さらにもうひとつ。

 足をわずかに緩める。

 後ろの気配も、同じように遅れる。

 確信する。


 店先に寄る。

 足を止めるふりをする。

 人の流れに紛れ、立ち位置をずらす。

 影が、わずかに遅れる。

 ——十分だ。


 サイラスは視線を上げず、歩き出す。

 今度は逆方向へ。

 人の流れに紛れ込む。

 足音が、途切れる。


 さらに通りを曲がる。

 路地へ入る。

 ようやく足を緩める。

 追ってくる気配はない。

 巻いた。

 サイラスはそのまま歩き続ける。

 何事もなかったように。


 さらに店を回る。

 同じ問いを繰り返す。


「……ああ、それなら」

 店主が口を開く。

「フローディア商会だ」


 思考が止まる。

 その名は知っている。

 ルーファスから聞いていた。

 レオンの父の商会だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ