動き出した真実
サイラスは一瞬だけ視線を落とした。
「……追われています」
ルーファスは何も言わない。
ただ、その言葉を否定しなかった。
「村で調べていたことが、知られた」
サイラスはわずかに視線を上げる。
「夜のうちに、何人か来た」
一度、言葉が途切れる。
「……逃げて、ここまで来た」
息を整えるように、短く続ける。
淡々としている。
だが、余裕はない。
ルーファスの視線が、わずかに変わる。
予想通りだった。
だが——
思っていたより、早い。
「……確証はないが」
一瞬だけ、言葉が遅れる。
「内部に関与している人間がいる」
サイラスは黙って聞いている。
「王立研究所に出入りしている人物だ」
わずかに間を置く。
「レオンという人物だ」
名前を出す。
サイラスの眉が、わずかに動いた。
「……誰ですか」
「研究所の代表だ」
ルーファスは答える。
「王と研究所の間に立ち、情報にも物資にも触れられる立場にいる」
サイラスは小さく頷く。
「……なら、筋は通ります」
短い沈黙が落ちた。
「ひとつ、確認したい」
サイラスが言う。
「アイリスは、完全に回復したんですよね」
「ああ」
サイラスの肩から、わずかに力が抜ける。
「他に回復者は?」
「確認されていない」
サイラスは視線を落とし、言葉を選ぶ。
「……ひとつ、気になることがあります」
「離れている間、ずっと考えていました」
「どうして、アイリスだけが助かったのか」
そのまま顔を上げる。
「アイリスには、異国の血が入っている」
一度、ルーファスを見る。
「その影響という可能性は、ありますか」
ルーファスは、わずかに目を細める。
「この国に外国人は少ないが、ゼロではない」
「同様の症例も確認されている」
「だが、回復した例はない」
短く言い切る。
サイラスは視線を落とす。
「……そうですか」
小さく息を吐く。
そして、再び顔を上げる。
「アイリスは、ずっと前から花に触れていた」
「母親が持ってきた花です」
「改良される前のものに、ずっと」
ルーファスは顎に手を当て、考える。
「改良前の花との長期的な接触で、順応が起きた……」
低く呟く。
わずかに間。
「……いや、それだけでは足りない」
視線を上げる。
「順応しているなら、そもそも発症しないはずだ」
サイラスはすぐに口を開く。
「……祭りです」
静かに言う。
「普段、店で扱っている花は元のものです」
「でも、祭りの時期は違う」
少しだけ眉を寄せる。
「量が足りなくて、外から仕入れていたと聞いています」
一度、息を整える。
「腕輪を作るとき、アイリスは長い時間、改良された花に触れていたはずです」
「他の人より、ずっと長く」
結論を落とす。
「だから、発症した」
ルーファスは黙る。
思考をなぞるように、ゆっくりと息を吐く。
「……通るな」
小さく言う。
「それなら説明がつく」
だが——
視線がわずかに落ちる。
「……この手紙を書いた人間も、追われている」
かすかに呟く。
そこで言葉が止まる。
レオンさん。
思考の中で、その名前だけが浮かぶ。
だが、すぐに押し戻す。
「……もう、強引に動いている」
低く言い直す。
わずかな沈黙。
サイラスが口を開く。
「なら、時間はありませんね」
その言葉に、ルーファスは即座に反応する。
「……お前は動くな」
短く言う。
「まだ追われている可能性が高い」
「今動けば、見つかる」
サイラスは視線を逸らさない。
「それでも」
静かに言う。
「何もしなければ、同じです」
一歩も引かない。
「止めるなら、動くしかない」
迷いはなかった。
沈黙が落ちる。
ルーファスはその目を見る。
理解する。
止めても、止まらない。
「……分かった」
短く言う。
「なら、無駄な動きはするな」
「接触は最小限に抑えろ」
サイラスは頷く。
「分かっています」
わずかに間を置く。
ルーファスが続ける。
「目的を整理する」
「花の流通経路と、レオンが関与している証拠だ」
サイラスは頷く。
「外から当たります」
迷いはなかった。
「店や市場を見れば、流れは分かるはずです」
ルーファスはそれを受ける。
「こちらは内部を調べる」
「研究所の記録と動きだ」
ルーファスはサイラスに視線を向ける。
「同時に進める」
「はい」
短い合意。
覚悟は決まっている。
「連絡はどうします」
サイラスが問う。
ルーファスはわずかに考える。
「墓守を使う」
簡潔に言う。
「人目が少ない」
「確実だ」
サイラスは頷く。
「……分かりました」
それで十分だった。




