交差する二人
ルーファスは、手紙をもう一度見返していた。
この手紙を書いた男には、すでに危険が及んでいるはずだ。
捕まっている可能性もある。
一瞬、思考がそこで止まる。
だが——
手紙の内容を思い返す。
調査の記録。
違和感への気づき。
そして、墓守を経由した伝達。
正規の流れを避けている。
不用意に動く人間ではない。
なら、
まだ捕まっていない可能性はある。
逃げていると仮定する。
どこへ向かう。
人目を避けられる場所。
記録に残らない場所。
そして、すでに繋がりのある場所。
「……墓地か」
短く呟き、視線を上げる。
来ていればいいが——
その考えを切り捨てる。
動くしかない。
王都に入ってから、サイラスは歩き続けていた。
人の流れに紛れながら、一定の速度を保つ。
視線は止めない。
建物の影。
人の動き。
足音。
すべてに意識を向け、違和感がないかを探る。
通りをひとつ曲がる。
さらに、もうひとつ。
わざと進路を変え、そのたびに後ろを確認する。
足を止めることなく、呼吸を整える。
歩調を崩さず、人混みの中を進む。
向かう先は決めていた。
王都の墓地。
そこなら、少なくとも追われにくい。
街の中心を避け、外れへ向かう。
人通りは、少しずつ減っていく。
建物の密度も落ちていく。
空気が、静かになる。
やがて、見覚えのある石壁が現れた。
墓地だった。
サイラスは足を止め、周囲を見渡す。
誰もいない。
気配もない。
それを確かめてから、門をくぐった。
中へ進むと、土を掘る音が聞こえてくる。
一定の間隔で、重い音が響く。
サイラスは、その方向へ歩いた。
やがて、背を向けて作業している男の姿が見える。
「……来たか」
振り返りもせず、低い声が落ちた。
王都の墓守だった。
手を止め、ゆっくりと振り返る。
土のついた手を軽く払うと、サイラスを見る。
「確かに届けた」
短く言い、視線を外す。
顎で奥を示す。
「来い」
それだけだった。
サイラスは頷き、足を踏み出した。
墓守に導かれ、サイラスは奥へ進む。
石造りの小さな建物の前で、足が止まる。
「中だ」
短く告げられる。
サイラスは頷き、そのまま扉を開けた。
中は静かだった。
紙の擦れる音だけが、かすかに響いている。
机に向かう男が、ひとり。
その男が、振り返る。
最初に目に入ったのは、燃えるような赤毛だった。
この場には不釣り合いなほど鮮やかで、強く目を引く。
体つきは華奢で、線が細い。
整った顔立ち。
その奥の瞳が、静かにこちらを見ていた。
サイラスも足を止める。
一瞬の沈黙。
互いに、相手を測るように視線が交わる。
「……アイリスは」
先に口を開いたのは、サイラスだった。
ためらいはない。
「無事ですか」
声は落ち着いている。
だが、わずかに張り詰めていた。
男は、わずかに目を細める。
その問いの重さを測るように。
迷いがない。
「生きている」
短く答える。
サイラスの肩が、ほんのわずかに落ちた。
張り詰めていたものが、少しだけ緩む。
「……よかった」
小さく息を吐く。
この男は、危険に晒されている。
そう考えて、ここに来ていた。
だが——
目の前の男は違った。
自分の状況よりも先に、アイリスの安否を確かめた。
しかも、迷いなく。
ルーファスは、わずかに目を細める。
——大した男だ。
そう思った。
「……サイラス」
名前を口にする。
サイラスの視線が上がる。
「知っているんですか」
「手紙を見た」
淡々と返す。
「……そうですか」
サイラスは短く頷く。
ルーファスは一度だけ視線を落とし、すぐに戻した。
「こちらも名乗っておこう」
「ルーファスだ」
「王立研究所に所属している」
わずかに間を置く。
思考を切り替える。
ここから先が、本題だった。




