1話 デカい渋滞、デカい行列
■地球帝国 首都惑星セカンド・アース軌道上 スター・ブレイザー
新造戦艦スター・ブレイザーは、なんと全長が2kmある。
フィート換算だと概ね6500フィートでいいのだろうか。とにかく超巨大戦艦だ。その最新鋭戦艦には艦橋と呼ばれる……旧世紀に建造されたシンボリックな場所は34世紀でも健在。先ほどまで慌ただしく、各々のセクションで働いていた士官たちは、不慣れな業務が一時止み……昼休憩がようやく入るというもので。みな今のうちに休んでいこうとめいめい好きなような動き始めていた。
かくいう私も午前中の仕事が終わったもので、ようやくの休憩。航空宇宙関係者のようにオレンジ一色なジャンプスーツ(つなぎ)のままパウチ飲料を口に入れていた。もっとも片手で飲料、もう片方にハイテク双眼鏡という行儀の悪さではあるが。つなぎの上半身部分を下げて腰辺りで巻いているのも許してほしい。
「ひゃあ……あれレキシントン級じゃないですか。まだ残っていたんですね」
「教本で見て意向だな。あとは……ミカの代じゃ航空宇宙史博物館に見学はいかなかったか。あそこでは模型は展示されているんだが」
「ガブリエラ班長、昨年模型の補修もあってエセックス級に展示が変えられいましたよ」
あれですあれ、と私の隣でピンク髪のサイドテールをぴこぴこ動かしているミカエラ……アンジェラの後輩から始まった歴史的な艦船の話。21世紀……いやあれは20世紀?にもあった艦船の、名前を引き継いでいる宇宙空母にフォーカスが向いていく。多機能で複合的な艦船しか見たことがなったもので、宇宙空母ってこういう形なんだ……と驚いているとガブリエラが注釈を入れてくれるもので少ない昼休憩がまぁ溶ける。
「複数機能の運用を包括して建造計画を立てるのは合理的ではありませんからね。アーク級改装巡洋艦やスター・ブレイザーのような船は特別なんですよ……おっと失礼、執政官がお見えに」
「午後の予定をお持ちしましたが、観覧したままで構いませんよ」
「いや、そちらは昼返上でしょう。それにこれから目の前で会うものですから予定を先に」
では我々はこれで、とミカエラとガブリエラが下がれば……本来惑星国家アレクサンドリアの最高責任者であるはずのフィオナ氏が私の秘書のように隣へやってくる。そうしなければならない、している事態が起きている。ネロがいい顔をしなかった事態……が、これの仕事。
私が双眼鏡で見ていた先にある宇宙艦艇……スター・ブレイザーに横づけしている地球帝国軍の宇宙空母レキシントン級の艦隊。それに続くように並んでいる宇宙艦艇の大艦隊の……大艦隊の、というか小さい艦隊?艦艇の編成が集まっているものでだ。
ぱっと見が大艦隊になっている。
それらを構成する艦艇の最高責任者と午後から順繰りに会っていくのだ……午前中の業務と同じように!
既にこれで1週間、ようやく半分ぐらい終わったか?という具合、山の中腹にたどり着いたのか……それともまだまだ八合目が遠いか。とかくただただ人と会い、書類の確認事項を繰り返す業務を……繰り返していた。入管の仕事とはまた違うよね?入れ入るなって判断をするわけでもないし。
「……午後は我々だけで執り行いましょうか?」
「いやいや。これだけ困っている人がいる、ってことじゃないですか。もうちょっとエネルギーいれないとな」
うんざりしているわけではない。
しかし慣れない業務が続いてつい、疲れが顔に出てしまったのだろう。フィオナが心配してくれたが……そんな弱音でもないものを吐くのは大変よろしくない。幸いにも公的に面会する彼女らと会う時は、公務用の仮面や衣装(重すぎるのでパワー・アーマーのフレームで支える)を着用する形式なので表情はわかりにくだろうが……
所作の片鱗から相手の状況を判断するなんて、歴戦の野党みたいな彼女らには朝飯前だろう。中でパワー・アーマーを装着しているから長時間耐えられてはいる、という点は助かっているが。
円筒型の給仕ドロイドから受け取った、ノンカフェインのお茶と羊羹を齧って休息チャージしつつ……思うことは1つ。
その歴戦の野党みたいな彼女らとの面会。
それは先日フィオナから伝えられたように、地球帝国皇帝から出されたオフレのものたちだ。つまり地球帝国を離れていた、元所属の人間たち。その多くは軍人である。海軍であったり海兵隊であったり、また軍隊ですらない者もいた。言ってしまえばアメリア達と同じような公的組織に所属をしていない人たちなのであるが……今回はアメリア達の時よりもっと多くの艦船や人が集まっている。
ネロが言っていたのはこういうこと、ではあったのだが規模の大小の……境がわからない。なぜアメリア達のときよりも?というものだ。
「皇帝の勅命と言えど真実か否か、というのがありますから。しかも今回は当代になってから最初の式典と勅命。今後の方針を見極めるために……今まで通り余程の窮地ではない限り、地球側の行いなど様子見となるのでしょうが」
「私の存在、か」
その通り。とフィオナは頷いて午後の予定を見せてくれる。彼女らのようにプラントされたデバイスかウェアラブル・デバイスでの操作で即確認できるわけではないので、データボードをこちらに向けてだ。ネロより背が少し高く、髪の色も同じなのに受ける印象が全く違う柔らかい微笑みが私の考えを……考えに至っただろう推測を肯定してくれる。
アメリアの時はアメリアのツテ、であったりアメリアと知古であったり名前を聞いたものを中心に広がってあんなこと……大恩赦祭?みたいになっていたわけだが。
それが前例として存在してしまったがため、皇帝が私の名前を出したのであれば……私の行ったことを考えて。また私の肩書きとの連名である地球皇帝の言葉を信じてもよい、という保証になったのだと思われる。そのため「アメリア達が無事特赦を受けた、しかも銀河連邦統合軍という形で再就職できるなら」と集まったと……最初に面会した宇宙空母クレマンソー級の艦長が話してくれた。艦名の通り細身で身長がありスラリと足の伸びた美女の艦長が。
いや最初に面会したので、今後のことを知るために「これはどういうことになっているのか」と聞いておきたかったもので……フィオナ経由で聞いてもらっての裏付け。
これについて私と地球帝国皇帝の間で合意は取れていたのか?という問題は当然あるのだろうが……会ったこともない相手との間で合意が取れているとはこれまた如何に。しかしフィオナ達は何も不思議なことではない、当然のこと……みたいな顔をしてるものだから、おそらく通達の前段階で政治的な会合の場で合意が取れていたに違いない。
それは私にとって「名前と肩書きを使われているけどいいのか?」ともなりそうだが、フィオナ達も「私ならそうするだろう」「当然そう判断するだろう」とみて動いてくれたに違ない。実際寝耳に水だったが……このように現在をもって恩赦を求めてくる人らが多いという状況を見れば……よかった、以外の感想があろうはずがない。流石優秀な方々、先んじてやってくれるとはなぁ。
「事務手続きは統合軍内部での人事の裁量で決められますから、予定としては1週間ほどのスケジュールに慣れていただければ」
「1週間よりもっと多く取れればいいんだけどね……いやだって、そのさ」
申請している顔と名前が合ってない方々が多々いるのだ。これには流石の私も大丈夫なのか、とびっくりした。えっこれ通していいの?と。それに答えてくれたのは初日のお茶の時間……パカリと割ったスコーンにラムレーズンの香り漂うクロテッドクリームを盛るエレナ・ローデンシア提督。
「そもそも体裁を整えなければなりませんから。軍属以外の人間であれば、そうするしかありません」
「いいんだそれで……」
「いいもなにも、あらゆるところで不問とするのならばこれもまた不問でしょう」
確かに籍がないような状態になってしまったのなら……もうそうしなければならないだろうが。大体どうやって誕生したんだろうか、彼女らは。さておいてそういう人らはこの機会に乗じて軍籍があった人達に相乗りしてやってきた。
それに関して金銭のやり取りなどはないか、あれば返却されたしとフィオナは通達してくれた。後々のトラブルの回避のために、だ。申請報告受理等はやってくれるようだしそこは行政や管理部門の人に任せよう。
「我々は幸福な方です……こうして身元の最大保証人となり、理解のある方がついているのですから」
「そんな大したことはできないよ。なんとかみんながやってくれているだけで、さ」
今もいつの間にか横にやってきて、午後の私のスケジュールを見て……申請されている人員のファイルを上から覗いているエレナがそうは言ってくれるが。彼女らが行政や事務手続きをやってくれているからこそ、出来ていることだ。今回のように私は切欠になっているだけ。
それにしてもエレナが来ると影が出来てわかるもので、つい左右を探してしまうものだが。結局見上げる形で誰かと確認しないといけないのも……まだ慣れない。
「ところでナンブ様、地球帝国において最高位の確約として、身元を保証する社会的制度はご存じでしょうか」
「それは地球皇帝が関わっていることかな。今回の勅命?のように制定されている条文とは違う、内部の話なら聞いてないなぁ」
「そう、それは……アイッ」
「今日もセクシー、再生者様。密輸品やご禁制の類は今日も見つからなかったよ」
エレナのさらに後ろからやって来たフランソワーズ、そしてフィオナがエレナの両サイドからローキックを放っていた。そのままエレナが膝から屈した当たりで……なんか中断されて何が何だか、と思っていたものだが。フランソワーズは私の格好を見てか、よくわからない挨拶をしてくる。どこがだいツナギだよ、そういう趣味かな……
また地球帝国と統合軍の海兵隊は警備を担当している。この機会に乗じて密輸品やら危ないものを持ち込む輩はいないか……等。フランソワーズやアメリア曰く「この最後の最後の機会かもしれないのに、よからぬ企てをするバカはそういないでしょ」とのことで……ここ連日の臨検でも検出はなし。それでも規則、保安上のためとのことで引き続きであり……こうして合間合間に報告に来てくれるので私も一安心。ポリもがんばってくれている、流石スペース・ミリタリーポリス・ドッグ!
「式典用礼服の調達は順調、あとはどこで打ち切るかだね」
「打ち切りではなく期間中順次、かな?」
「そんなところだね。期間中も手続きは開けておくとは下にも伝えておくよ。これはヒトツキぐらいの滞在かな~おばー様らと墓参りにも行っておきたいし。いい休暇になる、か」
「おぉ海兵隊の墓地かぁ……アメリア達先祖代々の、家系と」
「で、では私の実家の方にも是非……海軍司令部のグォオオ」
フランソワーズとフィオナが……膝でエレナの両肩を抑えて黙らせている。何だこの状況は……二人がかりでないとエレナは抑えられないのか、というよりも抑えられている状況がよくわからない。ヒグマの捕獲作戦にしては穏当にも思えるとしてもだ……
「まぁそう難しく考えなくていいよ再生者様は。みんなハッピーなんだし」
「そ、そう?それならいいんだけど……あとそろそろ時間だけどさ、その」
「よいのです、先に向かってください。しばらく抑えておきますので」
これからパワー・アーマーのフレームを基礎にしたハリボテの再生者様公務装束を着なければならないもので、まぁ準備に時間がかかる。そのためアシストのドロイドに女性士官が同行してくれるため、艦橋へ迎えに来てくれたのだが……この艦の最高責任者の海軍提督が海兵隊提督と国家元首にシメられている状況に引いている。私も引いているが?
「そ、それではフィオナまたあとで。フランソワーズも……その、事情はわからないが程々に?」
「再生者様も気楽にね、まだ式典は始まってすらいないんだから」
「せ、せめてお別れの挨拶ぐらいは……!」
「今生の別れでもあるまいに。まったく2度目のクーデター騒ぎから時間も経っていないというのにこれですか!あなたという子は!」
聞き捨てならない言葉が出てきているが、困惑しているドロイドと女性士官をそのままにできない。私は速足で彼女らに向かい、その場を後にしたのだが……退室ギリッギリですごい声も聞こえてくるもので。この戦艦の……何か色々なことは大丈夫なのだろうか!?と一抹の不安を抱えたままの午後を迎えることになってしまった。
本当にどういうことなんだろうか?身元の保証人とか社会制度について、知らなければならないことは多そうだ。




