午後休暇~アンジェラ~
■惑星ヤマト04 軌道上 スター・ブレイザー 食堂
「先輩、ここにいたんですかぁ?探したんですよ」
スター・ブレイザーでは食堂と士官食堂とで別れている構造ではない。艦長やそれぞれの班長とで纏まることはあるのだが、それも作戦行動時。なので昼時でなくとも予定さえなければ……食堂は雑然とした人の世界で満ちている。なぜなら銀河連邦統合軍の食料事情はすこぶるいいから。
ナンブの眠っていた巨大遺跡構造体に遺され……研究生産されていた地球原種の食物を提供されるというのは、…老若の兵隊にとって魅力的なサービス。地球種族にとって現在では手に入りにくい最高級品がいつでも提供されている。これを経費で賄うとしたら地球帝国首都の国家財政でも無理……もしくは市場混乱に陥り暴落するかとネロが笑っていたのを思い出す。
私は周囲の賑わいが生まれる食卓の華やかさを目で認めつつ、船外カメラが外部を映すサービスのある席へついていた。そこでドロイドへ何杯目かのコーヒーのお変わりを頼んでいる時にミカエラがこちらを見つけたのか……両サイドで縛り伸ばしているピンク色の髪の毛を揺らし駆け寄ってきたのが今。ついでにドロイドへ自分の分の注文をしながら。
「暇を持て余してたのよ。分遣隊の方針を決めるナンブはネロが連れて行ったし、タイタンは整備中。報告も済んでいるし惑星に降りる必要もない」
「それ、それですよ!ひどいじゃないですか!報告の後で艦長たちに呼ばれたんですよ!あれ私悪くないですよね!?」
「おぉ騒がしいなと思ったらミカエラとアンジェラで揃ってるじゃないか。懐かしい」
ミカエラが頼んだ冷凍フルーツの山がでんと届く。冷凍フルーツは特に士官の間で人気なもので、貴人の間で嗜まれる新鮮なものとは違うがそれに近く……遜色ないものだろうと持て囃されていた。この短期間だけとはいえ消費量は地球帝国領内の貴人の間で消費される量を追い越したとか。
さておきミカエラがライチに手を付け、さわやかな香りが広がった時。この船の航海班長であるガブリエラがうるさい声を聞きつけてか……やってきて。テーブルにつくと自分の分の注文もしたところで帝国海軍時代の懐かしいメンツが揃ってのひと時が始まる。
黒髪を後ろで結びやや浅く焼けている肌のガブリエラ。彼女は21世紀の地球でいえば……メスティーソという遺伝子の起源らしく、その時代のものに類似していたメニューをいつも選ぶ。そんな昔を思い出す懐かしいシチュエーションではあるが、話題はあんまり懐かしくもない。真新しいことばかり。
「再生者様の件でご報告か、いや話に聞いたときは驚いたけどな。案外宇宙が平和になる時はすぐかもしれない」
「笑いごとじゃないですよガブリエラさん!直接見なかったから言えるんですよ!あのサイズでぇ……えぇ?本当にどうなってるんですか先輩」
「私が聞きたいところね。ただ一つ言えるのは……これからもこんなことばかりだと思うわ」
しわくちゃの犬みたいな顔をしながらミカエラがグレープフルーツをしゃぶって齧っていると……ガブリエラの注文したもの、この時間だと遅い軽食か。いくつかのパン……何?と聞けばエンパナーダ?という調理パンのミートパイ。それが届いたガブリエラが喜んで齧りつつもこちらに視線を向けたまま聞いてくる。それで彼はどうなのかと。フルーツの香りに負けない牛肉脂の香りを広げながら。
「怪獣娘はさておいて、再生者だよ。結局どんなやつなんだ?ブリッジで見はしたが人となりはわからないじゃないか。人格的に問題はないのか?」
「えぇ……?見た感じ優しそうな人でしたよ。だから相手がアレでも助けたんじゃないんですか?」
「まぁ、人格が破綻しているわけではない。それはわかっているけど」
けど、か。とガブリエラはそこで大方察してくれたようでそれ以上彼について聞く言葉は出なかったが。代わりに出て来たのは周囲からの評価がどうなっているか、という話。この食堂にいる連中も大なり小なり興味があるようで……聞き耳を立てているのが感じ取れるとれるほど。雑談がまばらになっていくのが聞こえてくる。ところどころでこちらの会話を伺っているような気配。
ガブリエラは彼女らの代わりに聞いてくれている、彼は結局どうなんだと。
ガブリエラとはスクール時代からの同期でよく組んでいた。あまり言葉を用いない私ではあったが、察してかある程度先んじて行動してくれたり周囲との緩衝材になってくれたり。その彼女から見ても今の私の物言いが……歯切れが悪い、と目線が言っていた。
「みんな士気は高いよ。地球帝国で生まれて異性に会う機会は限られてくる。男性といえは殆ど公人にして帝国に徹底管理されている貴人だ。若いのは特に喜んでるよ、ミカ以外は」
ガブリエラさんバカにしてます?とバナナを齧りながら顔を傾けて……ピンクの髪も揺れた口も半開きのミカ聞いてくるが。してないしてない、とガブリエラが適当に追加注文していた炭酸飲料を渡し反論を封じた。これで喜ぶからまだまだそういう話が出来ないのはいいことか、悪いことか。
「統合軍に来れば飢えることもなし、実際いつも潤沢な補給と食事を受けられる。私たちみたいな不良軍人には最高の就職先……だけど頭目がどうもわからない。設立してから2度目の作戦……公的には1度目だけど不安に思うのも仕方がないさ」
退役軍人連中はまだいい。寝床と飯と法的な保護が受けられる。しかし希望を抱いて転属してきた者たちは……あの男の気安さや親しみやすさから最初は喜ぶものの。今回のような件を間近で経験すれば……漠然とした不安と恐怖が内から染み出てくる。
同じ地球人という種の起源が同じであるけで、彼は我々の味方ではないのではないか?
宇宙の勢力図が変革の時を迎えている。我々はその尖兵として働かされている……そんな不安が。
「そこまで大それたものだったら、楽だったのだけれど」
「それはそれで厄介だな。まぁ顔を見ればわかる、野心のなさだよ」
「本人の性分と、やってることのスケールのギャップが大きすぎる」
私も追いつけていない。私たちが……私が求めている以上のことを彼は自然と追い求めている。私はただこの時代に量産される兵士が生まれた意味を与えてくれればいい、程度だったのに。今は兵士だけではないところまで向かおうとしている。我々を……私たちを、私を置いてそのまま行ってしまいそうな速度で。
助けを求められれば、わき目も振らずに駆け出している彼は……気が付けば私の真横から消えてしまっている。追いついた時には、我々が求めているところを一足も二足も先に飛び越えている。
飛び越えて、こちらを見て手を振っているのだからタチが悪すぎる。
「やってることだけ並べれば宇宙神話の話だからな。それがへらへら笑って側にいたら、まぁアンジェラでも参るか」
それで今日は子守はお休みか、とからから笑うものだから。ついムキになり、そうよとだけ返すとより面白がらせてしまったか。ガブリエラは追加で注文した炭酸アルコールを流し込み始める。朝食から酒の席の楽しみにし始めたのは、これ以上この話をするのは面倒なことに突っ込むのを察したか、からかい始めているな。
「でもごはんおいしかったですよ?この前あのダッサイ戦艦の食堂でたくさん食べちゃいました」
「……食べたの?あそこの食堂で作るあいつの食事」
「はい。報告書のサインもらいに行ったら、ずーっとオムライスが出来ないって唸ってたので」
タコスのように重ねられて積まれた、やぶれた薄焼き卵とコゲたチキンライス。上手くできない!と悩むと彼が作る側から食べていたとミカの供述が始まったもので……他の食堂にいた連中の気配が殺気立っていく。特に何も考えずにやってのけるから、この子は天才肌で優秀なのだが……中々まだそれに見合った戦闘班長としての意識が作られていない。
もう何度かハードな作戦に組み込めば立場が意識を作ってくれるはずだが。
ガブリエラもミカエラが何をやっているか、をわかったもので……それ以上は喋らんでいいとフルーツの追加をドロイドに頼み。炭酸ドリンクの方をミカエラに押し付けていた。異性と会う機会も少ない軍人どもをわき目に、さっさと側に座って食事の給仕を受けている。地球帝国の貴人であり公人でもある男性へ給仕するものは……トモエのように職業として固定されているが。その逆で男性に給仕された人間は……そうはいない。
天才肌の戦闘班長が、他の連中が悩んでいる間にもさっと入り恩寵を拝領したことは……まぁしばらく艦内の世間話程度のにはなるだろう。この船でミカエラより強いやつはいないから物理的にひどい目には合わないだろうし、2~3日は質問攻めにあっても……自分の発言の責任を取ってもらうことになっただけだ。もう少し考えて喋ってくれれば。
「全くミカエラの先任は何をしているんだか」
「いやそれ、あんただよ。しばらく第三艦隊を中心に動くんだからちゃんと面倒見てあげて」
「……流石に増えるとは思わなかったわ、面倒を見る相手が」
「再生者の面倒と言えばネロ管制……執政官補殿もだろ?あぁ今は事務レベルの話をずっと続けているようで。面倒と言えば面倒か!」
あなたも面倒を見る側に回ればいいのに、と追加で頼んだシトラス・ケーキを切り分けながら。フォークで刺していくと……思い出すのがひどい顔のネロ。仕事が増えて、仕事を生やしてくる彼の後始末を大体引き受けさせれている。先んじて事務レベルでも整えていようとすれば、ナンブ本人が怯えて引っ込んでしまったため……捕まえに行き。
その隙を縫って銀河連邦議会議員や教導院のマスター達、他の産業同盟や政治集団に非政治的組織がわらわらやって来て現状を聞きに来る。アレクサンドリアは本来人類文化保管機構という名目で組織された惑星国家であり……何世代か前から観光都市のようになってはいたものの。今ではナンブのせいで銀河連邦の国際政治的騒動の目となっていた。
旧地球時代の人類文化を見る観光目的であったものが、いち早くホットな国際政治ニュースを仕入れたいもの。またザ・マスター関係の遺産や新たに生まれたゼノ・テックを見たいものでごった返している。皮肉なことに人類文化よりもナンブの方が集客力があるとデータは出てしまったと執政府の調べ。
「どうだ、いっそのこと再生者様に歌わせるのは。アルバム作れるぐらい続けば他の連中も落ち着くし、国庫も潤うんじゃないか」
「ネロみたいな話はやめて。既に試算したらしいけど、警備費用が異常。ただ時間を無駄にするだけって。それより公務やらせたほうがまだマシと言っていたのだから……」
「まぁネロも今の忙しさを受け入れているか、それならいいじゃないか」
「躁鬱の気が見え始めてからが本番ね……躁に変転しないといいけれど」
そこまではいかないだろ、とミカエラに続いて完食し終えた私たちはドロイドにプレートを渡しお開きに移るかという具合。周囲の連中も得るものは得たとばかりに雑談が始まっている。なんとか理由をつけて……あいつがたまに行く海軍秘密工廠のアヴァロンに潜り込めればとも聞こえたが、それはやめたほうがいい。帝国海軍捜査局クレア少佐の仕事が増えるだけだろうし。
「この後の予定がないならアンジェラ、ミカエラの教育をしてやりなよ」
「えぇ!?先輩来てくれるんですか、ブリッジに!」
「そうするわ。まだ次の出動まで日があるし、ソニアの帰還を待っているところだから」
「おや子守その3はお出かけ中」
「教導院の方で、よ」
ソニアは今別件で動いている。もちろんロメオ作戦分遣隊の業務内容であるザ・マスター……ゼノ・テック関係。そして今回新たに加わったエルダー関係の仕事だ。バファムトがデリガット・バフムとしてギルドの密輸部門にいた時に売買していた生物群。そして……生み出していた実験生物と秘密研究所。その捜索に駆り出されているのだ。
単独ではなく、かつてギルドで戦士をしていたアルハ・サリム護衛官と共に……宇宙の辺境にて。
■銀河辺境”アウター・リム” 惑星 地下 ダーク・マーケット
「教導院の騎士がここまで無茶苦茶だとは思わなかった!魔女の弟子だからそうなのか!?」
「アルハ・サリム!私の行儀作法を疑う前に目の前の怪物をなんとかしてください!アルマ!格子の溶断は!」
「切断まで60秒。原始的組成のため時間がかかります」
「早く!完全に水没する前に!あれのオヤツになるのはまっぴらごめんです!」
「来るぞ!お前は右に飛べ!」




