エピローグ4
■夢の中 団地の一室 ダイニングテーブル
「びいいいいいいいいいいいいい!」
「おぉおぉ……よしよし、カボチャのいとこ煮食べるかい?」
「いぃぃぃぃいい!やッ!!!!」
夢の中といえど昭和の団地のダイニング。未就学児童ぐらいのキッズがわんわん泣き喚けば、まさしく団地の夕方ぐらいの様相。私はこりゃだめだなと席を立ち、泣いてる子を抱えてあやす様に揺らす。もちろんこのぐらいの年齢の子、泣き始めると一向に泣き止む気配になどならないのだが。
その子の髪は虹色に輝き蠢く長髪。泣いて目を閉じているので瞳の色とかはわからないが……その、まぁなんというかちっちゃいバファムトそのもの。衣類は……どちらかというと銀河教導院の亜麻色の服装のようだが、ぶっかぶかだ。揺らしながら思い出したが、こういう時に一通り泣いたら収まるだろうなんてのは甘い考えなんだよな。甥っ子や姪っ子がそうだったからわかる。
「アイスにする?チョコミントとアズキのプレート?があるけど」
「フルーツ!フルーツがいい!」
はいはいと冷凍庫から片手で取り出し、パッケージを開いてフルーツアイスのバーを渡すと……黙ってしゃぶり始めた。いとこ煮より、こっちの方が効果はあったようだが……はてさていつまで持つか。揺らしたら食べにくいだろう、と椅子に座ろうと思い振り返ったら。
ダイニングテーブルにはクオンがいた。流石ヤガール夢見の術を使う巫女。何かの予兆すらない現れ方で腰を抜かしかけた。
「バファムトはあなたにより虚空の狭間に送られたことで、時間と意識が混在し逆光しています。現世には出て来れないでしょうが……こうした意識を繋げられる夢の世界では」
あぁでは見たまんまこの子はバファムトなのね、と。理解したものでクオンに冷凍庫を指さすと。操術かはわからないが、冷凍庫を遠隔で開けてカップのチョコミントアイスをとっていく。ハーブのお茶を淹れていたし香草系が好きなのだろうか。
「私がおばあ様、レーツェンから読み取った記憶では……かつてのエルダー大戦がこうでした。エルダー同士が長命種を……あなたが行ったような方法で虚空へ飛ばし、現世へ二度と現れないようにしていたようです。もちろんこのように誰かの意識へ受け入れるようなことは、なかったようですが」
「そりゃ私はエルダーではないし。今はなんか……その、当時?はわからないけどレーツェンもリィンも落ち着いてお茶してたしさぁ」
レーツェンがどういう感じの人間かはわからない。過去にどういう諍いがあって大戦と呼ばれるようなものまで起きてしまったのかも。ただ今は、違うと思う。今が違うならこれからもまた違ってくるのではないか?私の肩あたりをフルーツアイスと唾液でベッチャベチャにしてるバファムトも……だ。いや、この姿が過去と今かもわからないが。
「いけませんよケンゴ。おばあ様はあれでもしっかりエルダーの1人。長命にして狡猾、特にヤガールの者として野心を持ち続ける方です。気を許し過ぎてはいけませんよ」
悪いことをしているのなら、今回のように叱らないといけないと告げるクオンだが。彼女から見てレーツェンはどういう人間?なんだ。なんか先ほど記憶を読み取ったとかいっているが。というか彼女の立場もどういうものなんだろうか?新たに誕生したエルダーとも聞いたような?
「そうですよね、おばあ様?カナタとハルカとでケンゴを挟もうとしていませんか?」
障子戸が勝手に開き、ピシャンと音が鳴った!
鳴ったらダイニングと居間の境界が無くなり、隣の部屋こと居間と繋がったのだが……そこで立っていた人物は。黒い装束を着用し、顔には黒いヴェールを被った妙齢の女性。なんかこう……聞き耳を立てているポーズで!身長はちょっと高いぐらいだが団地の部屋の天井に届くか届かないかぐらい。えっこの人レーツェン!?どこもデカいし顔の輪郭が若い!誰なのぉ!?本当にレーツェン!?
「い、いや違うのだよクオン。これは政治的にも、いや惑星国家運営においても重要なことで。現在の地球帝国と銀河連邦ともだな」
「それこそ当事者同士の距離感がまず大事だと思いませんか?カナタもハルカも……まだこれからのことで手一杯ではありませんか。おばあ様は今しばらくはその補佐をされては、国際的な大きな流れはケンゴがなんとかしてくれるでしょう。地球帝国へはこれから向かうようですし」
「おまえさんまさか、いやお前はいかん!なぜそうなる!あぁまて閉めるな!こら!」
何がどうやら、と何を疎通しているのかと思いながら……完全にオネムになってるバファムトの口を拭きながら見ているが。障子戸がこれまた勝手に閉められようとしているところを、レーツェンがふんばって止めているものの……中々に不利なようである。ここは私の夢の世界だと思っているのだけれど、エルダーの皆はずいぶん好き勝手できるんだな。もしかしてパワーの操術はクオンの方が上なのか?本当に?
「やはりここでしたか、どうもハッキリしない物言いだと思えば……また!レーツェンあなたはこういうことをする!」
「リィン!私はバファムトと御子様が心配で」
「それもあるでしょうが、別の扉と部屋を作っていますね!他人の意識世界に!外の機材を使わずともわかります!」
これまた玄関戸がバァンと開くとリィンが現れた!部屋にづかづか入り込み、クオンに続いてレーツェンが止めている障子戸を閉めるため気合を入れ始めている。服装は……なんか、大正ロマンみたいな服装なんだけど……リィンはどういう趣味なんだ?着物が好きなのか?宇宙着物?
「いやもういいから、アイス食べてさぁ」
「いけませんよ!こんな違法改装!ちゃんと私のように隣の敷地を借りなさい!」
「借りたのぉ!?誰から!?」
うそでしょ、リィンも何やってんのと玄関戸を開けて外を見ると……びっくり。これ団地だったのに外に出たらアパートとその1室に変わっている。そして隣には立派な平屋建て……たぶんここがリィンのハウスね。なんでだ?土地の権利とかどうなっている?ここは私の夢の世界なんだよね?
「まぁまぁケンゴ。気にしても仕方がないではありませんか、それより続きを見ましょう」
「えぇ、あぁうん?うん?続きはどれだっけ…?えぇっとこの前一作終わったんだよね?」
「次は電車というものが出てくるお話ですよ、さぁタブレットをつけましたので」
バファムトを抱っこしたままテーブルに戻った私は……クオンが取り出したタブレットに出力されたものを見て。映し出された映像からこれかぁと思い出した。そこからタブレットは投影ディスプレイと繋がり、立てかけられた液晶テレビで大画面で映像作品を映していく。
クオンという人格の信頼性について、アンジェラには……ネロにもだが具体的に言えなかったことがある。
実はクオンと最初に夢の世界で繋がった時というのは、私が寝る前にタブレットでヒーロー特撮映像作品を見て……そのまま寝てしまった時だった。夢の中では昭和っぽい世界観だから……そういうものはないはずなのに。テーブルに置かれたタブレットが目の前にある状態で、目を覚まし。その時に彼女と出会った。彼女は私の向いに座ってそれは何かと聞いてきたもので、だ。
というわけで私が見ていたヒーロー番組を通しで何作か見てだ。これはあぁだこうだ。戦うこととは?生きることは?願いとは?誰かと違うことは?等々夢の中で話しあっていたもので。彼女についてはおおよそ考えていることを感じ取れていたのだ。
会話の交流があったから、大丈夫だと思ったわけではあるが……そもそも夢の中だったもので人に言えるものでもなし。いやだってこういう話……映像作品を見てから話をして、意見を交換する異性とかあまりに都合が良すぎてさぁ夢の中だけの存在すぎるでしょう?おかげで睡眠中も疲労がたまり続けて、クオンとしっかり繋がるまでクッタクタだったのだが。
「今回もずいぶん賑やかそうですね!」
「人気だったなぁ~これ、結構こういうの見ている人以外からも人気があってさぁ~」
そうこうしていたら私よりクオンの方がハマってしまっていた。余計都合が良すぎる。まぁ確かにかっこいい俳優さんがなんか色々やっているのは見てて面白いしかっこいいから……ハマるのは無理もない。あとそうか、寺院の生活って娯楽なさそうだし。
一方の本当の意味で作品の視聴層っぽいキッズのバファムトはオネムで見てないし……なんだかな。リィンとレーツェンは……レーツェンがなんだか、ベランダから逃げようとしているのをリィンが捕まえているし。そろそろ玄関から出てくれないかな?
「私はこれちゃんと寝れているのかな……」
「しっバファムトが起きてしまいますよ、ちゃんと寝かせてあげないと」
まだしばらく、私の睡眠時間中の安寧は……遠いなこれは?まぁいいか、みんな平穏そうだし。お休みはこういうのでいいんだよ、こういうので。
第四章【時に遺された卵 イースター・エッグ】
エピローグ04おわり
サイドストーリー:ロメオ作戦分遣隊を2つ挟み
第五章 【地球帝国 アース・エンパイア】 へ続く
サイドストーリー、ロメオ分遣隊を2つ挟んで5章へ行きます。




