16話 事の後始末
■地球帝国海軍秘密工廠アヴァロン 仮設ドック アース・ゼノン 食堂
「それは……大丈夫なのですか?」
「おいしいよ。かぼちゃと小豆のいとこ煮。見た目は悪いけど」
「うん、確かにおいしいな。いやでもそういうことじゃなくてさ、じいさん」
えぇ何が違うのさ、と。圧力鍋で煮た小豆とかぼちゃの煮物をつつく。レーツェンのところでアジアンに近い食事をしていたもので……ついつい懐かしく和食のオーソドックスなものを作って一人食べていたのだが。そんなところに地球帝国の参謀からの使いであるアンリ少年と、アレクサンドリアに駐在し彼の補佐もしているエルシー駐在武官殿がやって来たもので薦めたわけで。
ついでに色々連絡事項があるというクラウディアも同席している。地球帝国所属の人らが揃っているな?クラウディアだけ目元がぐったりしていて元気がないが。
圧力鍋だが使っているのは旧世紀のものとそう変わらない機構で、使用感はそう変わらない。そもそも圧力かけ過ぎて中身のものが何もわからないデッロデロな具合になっても困るからだろう。当然おいしいごはんも炊けるのだが、それは別で炊いている。厨房に圧力鍋をいくつも置いておけないしね。炊飯器はデカくて使いにくいが……旅館とかにあるタイプの2升炊きしかないもんでさ。
というわけで煮物に白米と漬物、魚の切り身の蒸し物に温野菜……葉物野菜の汁物で作った夕食にしていたんだが……自信があったもののクラウディアは箸をつけていないのはちょっとショック。もしかして箸が持てない?あぁエルシーが汁物に口をつけてから食べ始めてくれた。そういう決まりなのね、順番の。
「こっちじゃなくて、その……クオンって方でしょ。立場上なんとも言えないけど、じいさんから見てどうだったの」
「どうっていうか……結構落ち着いているね?あんまりレーツェンとかには似てない性格だし」
「そのエルダー・ヤガールと似てないとか言える根拠もわからない。僕らにはわからないことなのか?」
「わかるけどなんていうんだろうな?人の機微だから会ってみないとわからないかなぁ?」
「アンリ様、それは皆が全力で止めると思うので……どうかご理解ください」
えぇ今から止めるの?とエルシー女史の先制に不満のアンリは丁寧に魚の骨を取っては口に入れている。薬味を準備している最中の訪問でよかったよ、ちょっと多いかなとは思っていたが4人いれば食べきれるだろうし。一食で米2合ぐらい平気で食うからなこの時代の女性。(米2合=炊くと4膳、御茶碗4杯分こと600g)
「なら、それは逆にも言えることじゃないか?エルシー、クラウディア。そうだよな?じいさんの人となりを早く地球帝国の人間に知ってもらわないと」
「それはもちろん、今回の件はそれなのですから……しかしアンリ様せめて食事が終わってからでも」
「話しながらでも大丈夫でしょう。この方、あまり気になされませんから」
まぁ気にしないが私ではなくてクラウディアが返事をするのもどうなんだ、と思う。それはさておいてクラウディアが個人用データデバイスを操作して何やらずらーっと表示させているが、いまいち読めない。おそらくカレンダー、スケジュール帳のようなものだというのはわかるのだが。
いや、リーディングとかライティングの話ではなく。書かれている文章が多すぎる!小さすぎる!読めない!
「じいさんに帝国に来てもらおうと思ってね。もちろん表向きは再生者としての公務、今後の地球の再生に関しての相談。あと帝国としては色々やってもらったのに……今まで準備が出来ていなかったからと呼んでなかったのは不義理だってね」
「……うれしい申し出なんだけど、それって今すぐ?明日以降でいい?」
「いや……今すぐ来てくれって話じゃないけど、なんで?また何か起きた?」
「それについてなのですが……今回の件で聴取と聴聞がありまして……私も同席しましたが。執政官と補がその、だいぶ。処分自体はないのですが聴取の時間と……聴取に関して条例と国際法の確認とでまず3日ほど使い……」
あれは私がヤガールの寺院からネロに引っ張られてアレクサンドリアに連れて行かれてすぐのこと。
まず今回なぜ私を呼ぶか、というのを執政官補から聞かされたところから始まった。議会で。いやことのあらましとか顛末は同行していたんだから知っているはずだ、と言えば静粛にと遮られて。
初日はなぜ産業同盟管轄の惑星ヤマト04向かうか、向かった先でのことを銀河連邦法と銀河連邦という国際の中でも地球帝国の法上の解釈についての講義が始まった。それに関しては主に地球帝国府の関係者として同席してくれたクラウディアがあらかた解説してくれた。現行の地球帝国ではこういう解釈であり要請を行った……ということや、注釈を行ってくれたので聞いているだけで済んだのだが。ずっと知っているような、知らないような法律の話を聞かされて。
2日目はオシアナ非常事態宣言と呼ばれる……銀河連邦の中でも超上位に存在する敵性異星体に関する緊急事態条項の確認と、今回の件に適応される範囲についての再確認を午前中に行い。午後からはアルテミス艦隊のクレア少佐の証言、そして使用したタイタン用兵装である液体超合金ブレードの出どころや認可についてクレア少佐の上官であるメリナ・ハイマン提督からの証言と合わせて、何が起きていたかを順を追って話していく。
夜になると明日の議題はこれに出て来たサイボーグ宇宙怪獣についてだという申しがあり。いつのまにか増えていた公的立場の聴取関係者は……地球帝国の方の海兵隊の提督フランソワーズ・バロウズや海軍の方ではエレナ・ローデンシア提督。彼女らの証言に加えてローデンシア家の人でエレナのお母さんらしい海軍総司令まで出てきてる事態になっていた。最初は参加者3人だけって話だったのに!教導院のマスター・クラス?の導師まで来てどんどん増えていくんですよ。
3日目になるとヤガールとバファムトについてを聞かれていく。いやでもあの場所にネロはいましたよね?と聞いても今回の件の責任者は再生者であるため、本人の証言が必要とのことででまったく相手にされてない!ここで決めろっていう雰囲気だったのは君だったじゃないかと顔で訴えても涼しい顔で聴取は続く。
私の裁量で決めるしかなかったのは、そもそもの話ヤガールがあの場で求めている許し。それは法でどうこう出来るものなのか?という疑問から生まれた判断で決して銀河連邦法や宇宙国際社会を軽んじているわけではない……との弁明をしていると助け船がった。教導院のグランドマスター・イヤェド。顔と詳細な体のスタイルはわからないが、やせ細ったシルエットに真っ白いローブ。亜麻色のマント姿と杖をついて現れた導師。彼か彼女かはわからないが、ずいぶんしわがれた声のエルダー。
私の推測の通りと見ても、経緯とが不透明過ぎる上に連邦の方と帝国の方でも触れられたくないところであったろうし。エルダーの所業を中心に今回の事態を公に問うことこそ、責任の所在を曖昧にし連邦内部を分断させかねないため……私の判断を根拠に保留としたほうがいいと弁護に回ってくれたのだ。ありがとう知らない人……今から知っている人になったものでこれは違うか。
またレーツェンについても、現在の産業同盟と惑星国家のこともある上に……流出しているレアメタルの加工品?である聖鉄についても考えなければいけないと。そこで聞いていたクラウディアが差し当たって今回の件に関わったアルテミス艦隊のクレア少佐とハイマン提督とも帝国本国に招集し、産業同盟とで聴聞をする必要があるということも添えてくれて……この後で向かうべきだと。
またクラウディア曰くアンジェラから申請されている……宇宙超獣バファムトの鎧の部分の再利用。それついても何かあるようだし……いや、あれ再利用するの?怖くない?
これで大体終わった……と3日目には思ったものだが甘かった。そこが折り返しの前ぐらい。まぁなんか人が増える増えるで質問も増える、現行法の対処の問題や適応の枠組みをどうするかで紛糾してでネロとフィオナ執政官が予定していた当初のスケジュールを上回り、私が解放されたのは昨日……ちょうど1週間。
私が解放される前……最後の議題はクオンと彼女の今後についてだったが、触れないわけにはいかないが触れるわけにもいかず。レーツェンらと共にひとまずは私の預かりというものに保留となって。
しかしクラウディアは1日遅く……おそらくそれらから解放されたままアンリとエルシーとのでこちらに来たばかりだったのだろう。さっきから若干目元が怪しい、眠そう。眠そうだけど米これでどんぶり3杯目なんだよな……今日はクラウディアだけで4合が消えそう。
「あぁその……まぁなに。21世紀地球人の、再生者がどういうやつかってのはみんな気になっているから一度顔見せに来てくれない?」
「出来ればどれかの国家行事に来賓として参加していただけると、他の者も心の準備ができると思うので……クラウディアが出しました予定から選んでいただければ」
えぇ~そうはいってもな。
このアーマー・ボウルの地球皇帝杯はちょっと気になるが。以前海兵隊のジャネットに聞いたのだが21世紀の地球でいうエクストリーム・フットボールと野球を足したようなものらしい。エクストリーム・フットボールとはランジェリー・フットボールとも呼ばれていた……女性がビキニだか下着姿でやるフットボールだったんだが……無論肌の露出の多い軽装でのフルコンタクトなスポーツ球技。たいへん危険。
それを海兵隊や海軍等軍隊の女性らが軽装でぶつかり合い、競い合うハードなエンターテイメントスポーツとしていたという。軽装なのは体のシルエットや顔がわかるもので興行性のためらしい。最近復活したらしいが、怪我の率もすごいとか。
なんだか見ているだけでも楽しそうな催しものが多いのだが、さてどれにするかと汁物を啜りながら考えていると。気になってしまったものがあり……それを選ぶと、クラウディアとエルシーは変な声を潰したように小さく咽た。
2、3度咽ていたものだからお茶を差し出したところ……ゆっくり飲んで落ち着いてくれたが。それ以上は何もコメントされず。ただアンリだけが何度も頷き、完食した夕食へご馳走様と述べてくれた。
「いやぁじいさんわかってるよ。これは僕らも全力で応えないとな、うん。これはそうだよな」
何か一人で納得しているのはアンリだけなもんで果たしてどういうことか?クラウディアとエルシーを見れば……何も答えず、茶を啜って目線を逸らしていた。そんなに変な行事を選んだのかな?まぁこれがどういうことかは、おいおいわかるだろう。
地球帝国の首都惑星、セカンド・アースに到着すればだ。
エピローグ04へ続く。
この後エピローグが挟まり、4章が終わります。




