15話 生まれたもの
■惑星ヤマト04 首都ニュー・カピラ執政府 キャッスル 地下研究所
「それが何かわかった上でやったのか、と聞いているのだけど。答えて」
「先輩まずいですよ、一応あなたの……あれ、あれは誰で?巫女?でもここにはもう人間は」
拳銃に装着されたライトを点灯し、こちらに銃口を向けているアンジェラ。そしてアンジェラに連れて来られたミカエラはまだ何とも言えないが状況を把握しようとはしているが……現状の、今ここにいる3者がどういうものか判断しかねるようで困惑していた。試しに私が一歩、巫女の彼女の前に立つように動けば。彼女ではなく私に照準が合わせられているようで、銃口はこちらに向け続けられている。
「わかるように説明してあげる。エルダーが宇宙怪獣から生み出した新たな宇宙怪獣、超獣なんていうただの巨大生体兵器とは違う」
明らかに存在する意図としてのレイヤーが違う、と。見栄えの脅威で言えば、あの宇宙超獣バファムトは相当に危険だった。しかし同じ危険の度合いで測ってみれば巫女の彼女も相当に危険だとアンジェラは言っている。その上で巫女の彼女ではなく……それに力を与えた私に向けて責を問うように。
宇宙超獣のボディを生み出す過程で生まれたのかもしれないが、ヤガールや地球帝国の意図としては巫女の彼女の方を生み出したかった。ヤガールのマスター・パワーを操る術を用い、力と……宇宙怪獣を操れる存在。それが生み出されたものの。何らしかの理由でここで磔にされて、封じられていた。
それが最近になり私に助けを求めて来た、のが私からみて今回の一件の始まりではあったんだが。
「それが夢であなたを誘導していたのよ、ここへ。これがどう意味なのかわかっているのかと聞いているの」
「ま、まさか宇宙怪獣に操られて……」
アンジェラの説明でミカエラは素早く呑み込めたのか、拳銃どころか携帯している自動小銃をこちらに向けてきた。その銃口は……私と巫女のどちらへ向けるか迷っているようだったがアンジェラが狙っている方ではない方へ向けているのがわった。目が完全に怯えていることも。巨人同士で戦い打ち勝てる彼女が、怯えた目をこちらに向けていた。
「答えて。あなたはどちらの側にいるのかを。再生者は宇宙の敵か否かを」
「助けを求められから助けただけ、なんてお返事は通用しないことを理解した上で答えて」
そんなことを言われても、言葉通りなんだから困ってしまうんだけど。なんて答えたらいいのか少し……悩んでしまうとアンジェラは立て続けに言葉で畳みかけている。これがどういう未来を呼ぶものか、なぜここで銃を向けているかと。
「地球を滅ぼしたのはそれらの群れよ。今は散発的に出ている単体がいるだけ、私は単体なら勝てるけど多数は危うい。それがまた1つになろうとしている。それが呼べば……おそらく出来る。また人の住む惑星が滅びる。ヤガールの巫女なんかじゃない、新たに生まれた宇宙怪獣の女王よ」
「あなたはそれに力を与えたの。わかっているの?これから先また星がいくつも滅びるわ」
「生まれるべきではなかったのよ、そんなものは」
「いやそう言うのはどうかと思うよ」
アンジェラが真面目に考えて答えろと言っているときに、つい反射的に口が出てしまった。
それはアンジェラの私への詰問の内容にではなく。アンジェラのその物言いが気に入らずつい感情的に、反射的に口で出てしまった。アンジェラはヘルメットのクリアなバイザー越しではあるが……思いっきり顔を顰めているのがわかる。いや不機嫌と言う方があっているか。
「誕生の経緯は今更何をどう言ってもだろうし、生まれたものに対して生まれるべきでなかったというのは間違っている」
「そいつが、生まれてよかったと本気で思っているの?あなたの故郷を滅ぼしたものと同じじゃない」
「同じであっても……同じじゃなくても、私は生まれてものに生まれてよかったと言いたい。だからどちら側でもない、どちら側でもあるかもしれないが距離を取って他人事だって言っているんじゃないんだよ。なんか……わかってくれないかな?彼女が何かをしたわけじゃないだろ?行いだよ。本当に助けを求めていただけじゃないか、しかも自分のことではなくレーツェンとバファムトを止めるためにだよ?」
「既に破滅に足を踏み入れているかもしれないし、まだやってないだけでしょう」
「既に起きていたことなら困るな……なんとかしないといけないが、まだのことをどうこう言えないんじゃ?」
どちらの側でもないから他人事で、関係ない。知らないというものではなく。別に中立中庸というわけではなくて……ただ生まれたのだから、まずはそれを認めて受け入れたいと。その他は、また他の問題であるのだから。私がやったのは、まず生まれたことを認めて「おめでとう」としただけ。いやもちろんその後のことも知らぬ存ぜぬというわけではない。
また自分の身ではなく、とにかく宇宙の崩壊を止めてくれと頼んだのだ。自分の身が破滅するかもしれない時にそう言える人のことを私は信じたいし……助けられたことをよかったと思いたい。
それを……私を遺跡で起こし助けてくれたアンジェラだけには、わかって欲しかった。
「正気だろうが狂っていようがやることは変わらない。それに宇宙の敵ではないよ」
「それが通じると思っているの?公の場で」
「通じるように、まず話してみるよ。彼女にも他の人にも」
まず対話できるのなら対話するべきだ。恐れて最初から何をと決めず、だ。他の人が恐れてしまうのならば私が間に入ればいい。それだけのこと。ただ1つワンクッション置くだけで少しは変わるかもしれない。それにこれは……もしかしたら今後の宇宙の情勢が変わる瞬間ではないだろうか。宇宙怪獣が脅威ではなくなる世界への第一歩を踏み出せたと思う。
「通じるといいわね、ネロ執政官補に」
「その、根気よく話します……き、きっと?わかってくれる?から?」
「い、いいんですか先輩?!いえどうにかなるかはわからないんですけど!これでいいんですか!?」
「いいのよ責任取るって言ったんだから。あなたも聞いたわね?ならこの話は終わり」
「あああぁぁぁ!私証人にされてるぅぅぅう!!!先輩またですかぁあ!?」
わかってくれたのか、それともミカエラが言う様にただ何かの証人が必要な手続きだったのか。とかくアンジェラの銃口は降りて、続いてミカエラの銃口も離れていく。私はホッと……事態がひとまず収束してくれたもので。今度こそ終わったと巫女の彼女へ今度こそ、サムズアップ。
これで今回の件は……一区切りついたよね?
■数日後 惑星ヤマト04 東方大陸 山岳地帯 ヤガールの寺院中庭
「ははぁそれでその子を預かるようになったと」
「御子様の頼みなれば……断るわけにもいかず……」
「何を不承不承というような顔を、あなたが生まれるように頼んだものでしょう。あなたの責任もあるのですよ」
「いやしかしぃ……こう……なんというか……わからぬかなぁ……?」
わかりませんねぇと中庭でエルダー2人がお茶をシバいている。リィンがレーツェンの淹れた茶を飲みながら、縁側でだ。亜麻色と麻色が混ざり合う修道士服を着用している2mの宇宙エルフと漆黒のヴェールと僧服の4~5mの宇宙デカいバアさんが。老人ティータイム。お茶請けの根菜の漬物齧っているし……梅干しで御番茶つついているみたいだ。
「こらそこ、手を動かす!余計なことを考えているのが丸わかりですよ」
なんとも珍妙な絵に手を止めていた私は、リィンに叱られてしまった。何しているかって荒れていた中庭の手入れをしている。させられているわけではなく、あれから数日たって落ち着いてきたもので中庭の掃除をしているところに教導院のマスター・リィンがやってきてお茶の時間になっていたのだ。
一方でカナタと……妹のハルカはここで政務をしている最中。なにせ執政府が完全に潰れてしまったもので仕事するところがない。仕事と言っても事後処理が大半で、現在の情勢からして産業同盟の業務のほとんどが出来る状態ではない。今後の運営や在り方自体もどうなるかわからない状況だというのだ。それは流石に色々大変そうだし、そもそもの在り方があんまりなもので……どうにかなって欲しいところだが。私が出来ることはあるのだろうか?
「姉様やはり今回の件、報告でこのような形にするのは如何なのかと……」
「やむおえまい。他にどう説明すればいいものか、説明して産業同盟が受け入れるかもわからん……演習の拡大中の事故とするしか。地球帝国側には御子様にお任せしよう」
「考えすぎてもよいものは出てきませんよ。ひとまずあなた達もお茶にしませんか」
「クオン……の姉様。いただきます。時にこのお茶は?何を?」
「今の時期に生えていたよい香りのものを」
そしてその間で笑顔で座っているのが……スミレ色の髪の巫女、白銀青の宇宙怪獣の中身?の子。私が公的な身柄、つまり籍はどうにかならないかとレーツェンに頼んだら快く引き受けてくれたのだ。それもありここに置いてくれたわけで。名前はカナタ、ハルカから続くようにクオンと名を与えられ……年齢的には彼女ら姉妹より上が故に三姉妹扱い。行方不明の長女?
カナタとハルカは知らない姉が急に生えて来たもので、困惑していたが……同門の年長ということやクオンの穏やかな性格からすぐに受け入れてくれた。宇宙怪獣から生まれたものであるが、生体サイボーグ……宇宙怪獣という巨大な器とその中身という物理的関係性や相互関係に馴染みがあるからか。卵から先かニワトリからのことでまぁ、深くは考えないようにされたらしい。
「バファムトのことは残念でしたが、またこうしてあなたとお茶を飲めたことはよいことです。このまま皆バラバラで終わりかと思っていましたから」
「いやそれがバファムトのことなのだが……いや、これはうぅん……」
「なんですかレーツェン、あなたは再会したらしたでどうも歯切れが悪いことばかりですね?何か悪いものでも食べていたのですか?お腹の調子が悪いとか……この漬物、発酵しすぎなのも気になります」
「御子様が……うぅむ……まぁよいか、まぁよい……また後でな」
私がトントンと基礎用の木枠を作っている後ろで、レーツェンは何かをはぐらかして。ふぅんという顔でリィンが何か私を見ていたが、再びお茶に戻りそれ以降は特に何かはなく、ただ静かな時間が過ぎていた。荒れ果て枯れていた中庭を整理し、ゴミを捨てるだけ捨てて……壊れた塀の基礎を作っている時間。ゆったりした日曜大工をしている、落ち着いたその時間こそ私が好きな平穏な時間なのだが。
「御子様、アレクサンドリアの執政官補から今回の一件で聞きたいことの整理がついたから帰還するようにと」
「……一週間延ばせない?」
「大工仕事は私がやっておきますから」
この惑星の執政官であるハルカが、別の惑星の執政官補から政治的なルートを使って受けた話。はやく帰ってこい、帰ってこなくてもいいが呼ぶときは必ず最速で戻るように。ネロの極めて怒りを抑えた声を無線越しに聞いてから、こちらに逃げ込んで数日。とうとう彼女の限界が来たようで……招集がかかってしまった。
「い、いきたくない……」
「あらあら御子様は私のために行ってくださらないと?ネロ様は私のことでお怒りなのでしょうか」
「行きます……行きますから!ぐぅぅ!」
もう絶対何聞かれるかわかっているから、ちょっと心の準備をしていたかっただけなんだよと自分と他の人に言い聞かせ。カナタに庭園造りを任せて……ちょっと手を洗うから!上着を着るから!と時間を少しでも伸ばそうとしていたが。ハルカが連絡を受け取った時にはもう降りて来ていたのか、ハッチを開けた輸送機が寺院の真上に降りてきていている。
そこには仁王立ちしているネロも見えて……見えたら飛び降りて来て、ネロ本人に引っ掴まれてしまった。
「さぁ再生者様。積もる話もあるものですから、機内ではなく惑星アレクサンドリア執政府中央議会に行きましょうか。私と執政官のお姉さま、3人でお話しましょ」
「いやっいやっあれだよフィオナ執政官の植物園でさぁ!」
「裁判所でもいいのよ、はやく来なさい」
場所がどっちも嫌で選択権のないところを突き付けられ……もうどうしようもないところを悟り大人しく捕まるが。
「時間はたっぷりとってあるから、しばらくはお別れを済ませてね」
「わかってはいたけどさぁ!わかってはいたけど!誰か助けて!」
「あなたが助けるのよ再生者!大人しくしろ!このバカッ」
輸送機が最速の手順で飛び上り、ハッチ扉が閉まる最後の瞬間。クオン筆頭に姉妹が手を振って見送ってくれたことだけが……心の支えになってくれた。なってくれるはずだ……これから始まるネロとフィオナ執政官とので始まる長い長い時間の、お話が。




