12話 星夢の巫女
■惑星ヤマト04 首都ニュー・カピラ執政府 キャッスル前
「見えた!あれが?あれが執政府!?」
「その通り。あれが代々続くこの惑星の管理政府が置かれる執政府ハイ・テンプル・キャッスル!」
正面の遠景から見ればすごい東南アジア的な寺院……かと思いきや。
それらを積層して組み立てた超アジアンでテンプルなキャッスルが見えて来た。政府庁舎とかではなく文字通りキャッスルのような重厚さを持っているテンプル・タワー。ロボットに変形しそうな外見のようなものではなく、巨大で威圧的なトラディショナル将軍の居城!それがデンと立っているのが……この惑星国家ヤマト04の管理機構がある執政府の領域。ニュー・カピラの中心であり頂点である。
その正面ゲートまであと少しの距離……役所にタクシーで乗り付けるならこのぐらいかなって距離に差し掛かったところでだ。巨大な2つの影が我々の前に差し掛かり、陰りを作ったのだ。
「ハルカ!今助ける……チェストォ!」
「失礼ィ御子様!」
エルダー・ヤガールことレーツェンに……ポリ、次に私が引っ張られた。錫杖の一本釣りを2回転でだ。するとその……私がいたあたりに瓦礫と土煙が舞う!なんだこりゃとレーツェンの錫杖に吊らされながら前を見ると……サイボーグ宇宙怪獣のご遺体が倒れていた。四肢と頭を切断された状態の不審死体姿で。
「カナタァ!何をしておる!ハルカに気を取られ過ぎではないか!執政府どころか御子様を潰すつもりか!」
「も、申し訳ない!しかしこの、その抵抗があまりに強く……」
「いいから!いいから無事だし!レーツェンのお陰で、ね!ソニアも無事だし!」
遺体が噴き出す体液を、うげぇという具合に避けているソニアだが……馬は胃ごと驚いてしまったようでここでギブアップしてしまった。ここまで駆け抜けてくれて来たわけだし、それはやむなし。ポリも同じく私を乗せて来てくれたので限界が来ていた。目的の執政府に到着したわけだし、ここらで待機してもらう……もらいたいが。
もらいたいが、というのは……ちょうど足を止めてしまったからだ。周囲を包囲するように宇宙怪獣の細胞に浸され増殖している、ヤガールの武士が這い出てきたのだ!まだこんなにいるのか、と言う具合に!これどんどん増えていないか?
「シルバー・サムライ!まだサイボーグ宇宙怪獣は残っているんですよ!というか私に押し付けないで!今3体1なんですよぉ!?そっちで1体ぐらい持ってください!」
「ちぃ御子様がこのような時に……それに執政府を潰してしまって……もうなんと申せば」
そう、その通り。サイボーグ宇宙怪獣のご遺体と破片で執政府のキャッスルが見事に半壊した。半壊というのは地上部分の半分、潰れたのではなくケーキを切り分けたように削り取られるが如く崩壊してしまった。これじゃどこから地下施設に行けばよいかわからないが?
「いいえ御子様。ここまで来てくだされば十分、さぁこちらへ。まだ無事なところに入口があります」
「そ、そうか!まだ無事なところから行けるんだ……よし」
「御子様!ここで我々が留め置きます故に、犬と入口を!」
いいや大丈夫だ、ポリも馬も休ませてあげてくれと……レーツェンの言葉を手で制した。レーツェンにはまだやってもらいたいことがある、生体制御ユニットになっているカナタの妹、ハルカの救出だ。なんとかこの場所を離れたくないカナタが、タイタンの指先で……サイボーグ宇宙怪獣のご遺体から肉をつまみこじ開けようとしているのを代わってあげてくれと。
ソニアはその間に合成武士からレーツェンらを守れれば十分だ。もう突入の入り口はわかっている。私だけでも向かえばいい……!守りとなるとリーチがいるだろうと、錫杖をソニアに投げ渡して私は駆けだした。
突然のことだったが、私の言ってることを理解してくれたか。レーツェンがサイボーグ宇宙怪獣の生体制御ユニットボックスから……カナタと同じ、美しい黒髪の巫女ハルカがずるりと出て来たところを背後に見届けながら。白青の巫女である彼女が指し示す先へと急いだ。
■惑星ヤマト04 首都ニュー・カピラ執政府 キャッスル 地下研究所
適当な布切れを拳に巻いて、空のエレベーターシャフトを飛んではしがみ付いてを繰り返し……最下層まで降りた後。真っ暗な闇の中をスマートウォッチのライトを頼りに歩く。
研究所?の内側には入れたようだが……よくあるバイオテック!でケミカルなライト照明の出迎えはない。
その代わりにかぁん、かぁんと……冷たいスチールのような足場を歩いていく音が響いていく。まるで夜の建設現場を手探りで歩くような心持ちだが、どこに行けばいいのか……わからないわけではない。私の前を歩いていく白青の巫女の彼女が導いてくれているからだ。彼女のもつ錫杖がまた、薄く明りの先を示すように見えている。だがその彼女も……ある時点でふっと消えてしまった。暗闇の中で、足元近辺ぐらいしか照らせないスマートウォッチの明かりだけが、この場所の情報源になってしまったが。
「そうか、そういうことか。どこまでも嫌らしい女だ。そうか、そうだな雌だったな」
虚空の闇の中で、姿を現したものがいた。
何かに座り、こちらを見ている彼女。最初に遭遇した時は、おそらく巨大遺跡構造体。そして次は海賊軍の基地の……情報スフィアのところ。どちらも巨大な肉塊のような、蠢く昆虫類のような姿だった。しかし……あの後より、ヒトのような存在に姿を変えて出現したもの。ギルドの密輸部門幹部デリガット・バフム。
この暗闇の中でも虹色に輝き蠢く長髪に、人の瞳の中に複眼を持っていたもの。こちらを見て、複眼が収束し人の瞳に変わる。
その正体はエルダー・バファムト。この宇宙に生きる生命を好きに弄れるもの。彼女がこちら……いや、正確には私の真横にあるだろう何かを見ていた。彼女の方に向いた私からすると、真後ろか。
「ここまで来るのが早すぎた。初動から何までだ……おかしいと思っていたんだが、お前が呼んでいたのか」
「はい、私が呼びました。この場所へ……ヤガールの夢見の操術を使い、アナタの凶行を止めるために」
「凶行?凶行と言ったか?お前が?生まれながらにして凶悪無比なお前が?」
姿の見えない、白青の巫女の彼女の声とバファムトの声が交わる。真剣な巫女の彼女と違い、バファムトは大層バカなものを聞かされているという呆れの混じった笑い声であったが。その笑い声が……おそらく、音の反響でたたっぴろいと思われる……この場所に吸い込まれるように止み。
「確かにお前を生み出したのは私、そのお前が私の行いを凶行と呼ぶならお前は禍イモノだ。それを自己で証明にしたに過ぎない。カエルの子はカエルだったか、再生者」
「それでもこの方は来てくれました。この宇宙とアナタと、私を救うために」
「だ、そうだがお前はそうなのか?姿を見せないこいつのため、この場所まで救世主をやりに来たと」
「そりゃぁ、彼女から助けてほしいと言われたからさ。行くよ」
「頼まれたらいく!お前は、そうか!安い救世主だな!それを求めた私が愚かか!」
また、反響し続けるこの場所へ向けて……私ではなく、この空間にだ。一通り笑った後に溜息を1つ。座っていた姿勢から立ち上がり……こちらを見下ろす瞳は冷酷であり、怒りに燃えるような眼を向けて。その視線で「私を貫き内側から引き裂いてやりたい」という強い暴力の意志を叩きつけている。
「これのために来たと!おまえは言うのか!私のためではなく!」
怒りの声と共に……この空間を光りで割くように照明が灯っていく。急な明かりの変化に目をしばし、眩ませてしまい……だが慣らしたと思った後でも見慣れない光が私の背後で一層に輝いていた。金属の冷たい足場をも照らす程に。私の背後にいる、光を反射するプリズムの光を受けて放つもの。バファムトが呼ぶこれを見るために振り替えれば、彼女がいた。
白と青の薄いスミレ色の髪の毛を持ち、豊かに伸ばして流し纏めて。ヤガールの巫女の重い装束を纏い、錫杖を持つ彼女がいたのだ。
重厚な外壁に、枯れたようにヒビ割れささくれだった羽を……赤錆色の金属ピンで縫い付けられた巨大な羽虫のような宇宙怪獣。シャープでソリッドな白青銀の巨体を持つその巨体の頭らしきところの上に、彼女はいた。その形状を見て一目でわかる、地上で戦うことになったサイボーグ宇宙怪獣のフォルムにそっくりだ!
私が白銀青の宇宙怪獣を認知したためか、彼女の姿はすっと消えてしまった……その姿が夢幻だという様に。現実はここにあるのだからと。消える最後の瞬間の彼女の顔は己の正体を私に晒す時が来たものでか……こちらへ怯えたような、悲しそうな目を向けていた。
しかし私の口から咄嗟に出てしまった感想はただ1つ。
「デカいな……いやデッカ!でっかいな!?デカすぎるだろ……デカいにも程がある!」
なんとなく、そうかな?と思っていたが!これは流石に想定外だった!




