7話 荒ぶり狂う巨猛の獣
■ ヤガールの寺院 門前
「あれって私がどうにかできるものなの!?」
「あなたしか出来ないのです!」
「それはなんだカナタァ!何を持っている!」
赤錆色の円弧が空を舞い、カナタとソニアのショック・セイバーを打つ。白青色のセイバー光と赤錆が打ち合い弾き合う。しかしエルダー・ヤガールの尾とも言える赤錆色の鎖も振り回され……それがカナタとソニアを薙ぐ。時間差で二重に来る打撃の円を防御しきれず、二人ともの体が弾かれてしまった!
私はと言うと一瞬のすくみが命取りになってしまったのか。臨戦態勢に移れなかったがために……アンジェラに放り投げられ、ポリに引っ張られてエルダー・ヤガールの作ったクレーターに引っ張りこまれていた。そこから頭を出して覗いているのが私であるが……傍らにいるポリでさえもどう乗り込めばいいか決めあぐねている。
それほどの隙のなさだった。
ソニアとカナタが窮地と見ると、アンジェラが移動しながら重機関砲の掃射に続いて榴弾を撃ち込むものの。それも赤錆の鎖で防いで弾き……小賢しいことをするなとばかりに10フィート以上の赤錆の金属棒を放り投げた。あの体でブン投げられるものだから、炸裂しない質量弾そのもの。アンジェラがすんでのところで回避はできたものの……それこそが彼女の隙になってしまい、エルダー・ヤガールの接近を許してしまった。残るもう片方の金属棒を振り上げた!
しかし、それがアンジェラに撃ち込まれるのを……阻止できたものがいる。
金属棒を何かが打った後に聞こえた音。ネロの大口径狙撃砲による長距離射撃。一射、二射と金属棒に撃ち込まれたことでアンジェラに撃ち込まれることは阻止できたが……それでもエルダー・ヤガールは金属棒を落とすことはなく。それどころかネロのいる方向へ向けて……金属棒を構えたのだ。遠投の構えで!
これはまずいと思った時、ポリは既に飛び出していてエルダー・ヤガールの横っ腹に突っ込み。そのおかげで遠投された金属棒はネロのいる場所から離れた場所に着弾したようだが……またヤガールがヤギのような叫び声を上げて両手を掲げると。その両手に金属棒が吸いつくように戻って来た!私がショック・セイバーを呼ぶ時と同じだ!
「本当にあれは生き物なの!?あんなのとてもじゃないが……エルダーだしリィン導師……自我を制御出来ていないリィン導師みたいなものじゃないのか!?」
「えぇその通りです。だからこそ御子様が祓える隙があるのです」
えぇそれは本当かい?!と振り返ると、クレーターの中で私の隣に……ポリがいたところでちょんと座る巫女の彼女がいる。その彼女がクレーターから小さく頭を出すもので、私も一緒に見ると……必死に向かっていくソニアとカナタが見えた。なんとか赤錆色の円弧の動きと、鎖の動きとに食らいついているが……防御がメインになっている。アンジェラもネロも決定打を持っていない、アンジェラの言う様に決め手は私らしいが。
「おばあ様の動きは恐ろしいもの。しかし操法は乱れに乱れています。錫杖を飛ばしたり、戻したりばかり。相手の動きを見るのに使う程度。本来は操法の前に物理的な距離など関係ありません」
さぁよく見てください、と彼女から伝えられれば……彼女から習ったように目を凝らす。するとエルダー・ヤガールから見える淀みのような力は……本当に、見たまんま彼女の姿に内から纏わりついているだけ。たまに飛ばした金属棒に糸のように絡みついた力が、ゴムのように戻っていくぐらい。確かによく見れば……見られれば、恐れるようなものでもない?気がしてきた。
「さぁ心を静めて。おばあ様の荒ぶる魂を目覚めさせてください。方法はお任せします。あなたが一番いいと思う方法で」
「うん、よし。やってみるよ」
「お前、お前は先から誰と何を話している!何を見ている!何を持っているのだそれは!なぜおまえが聖鉄を!」
「いかん、御子様!御子様?」
錫杖を支えにクレーターから出た私へと、エルダー・ヤガールは目標を変えた。しかしその動きは荒れているだけで大きい。速度も力も強いが、まさしく獣のごとく。どこに向かうかわかっているならば……怖いものでもない。私は地面に転がってエルダー・ヤガールの突撃直線から身を逸らすと、力を込めて錫杖をカナタへ放り投げた。そして交換するように彼女の持つ私のショック・セイバーを引き寄せ……さらにソニアへ渡す。
彼女へ無言で……二刀で扱う様に薦めると、ソニアは意図を汲んだかショック・セイバー二刀流でエルダー・ヤガールに飛び掛かった。ヴォイド将軍の時にも見たが、二刀流は扱えるものが扱えば攻防一体以上の……単純な攻撃力と防御力、そして連撃の速度という手数を増やせる戦い方になる。
ソニアはエルダー・ヤガールを中心に宙を舞い、防御と打撃とを繰り返して相手の手数を塞ぐ!それでも手の外にある赤錆色の鎖の尾が、振りかぶられるが……それはソニアには届かない。なぜならその鎖を、カナタが錫杖で縫い留めたからだ。さながら鎖で繋がれた猛犬のよう……だが犬は道具を使わない。ソニアの連撃をエルダー・ヤガールは……10フィート以上の金属棒、それの中間点で持つことで器用に捌き始める。空いた片手で金属棒を投擲し、私を打ちたいのだろう。
「今よ!ナンブ!決めるなら決めて!」
アンジェラがエルダー・ヤガールの胴体に榴弾を叩きこみ。ネロの狙撃砲が手首を狙い、金蔵棒を叩き落とす。呼び戻そうとした……その手元へ追撃するようにポリが噛みついたところを見た時。私は既に駆け出していた。エルダー・ヤガールに直接宇宙の聖なる力だかを叩きこむため。
「よ、る、な、ゲテモノ!」
「エルダー・ヤガール!正気に戻ってくれ……トォ!」
ソニアへ棒で打つのではなく、棒の中間点で握った拳を打ち出しソニアを押しのけた後。握った金属棒を握り手を緩め滑らせながら……リーチを伸ばし私へ薙ぐ打撃を繰り出してくる。私はその、斜めの円弧へ飛び。赤錆色の円弧を蹴り、飛び上る!すると足元で美しく高い金属音が鳴り。赤錆色は剥がれ……白青の鋼へと姿を変えていくのが見えた。
私はそのまま高く、高く飛び上り体を捻って……姿勢を傾け自由落下の力を得る!金属棒から伝わった力で手が痺れたのか、慄くエルダー・ヤガール。彼女へ落ちる私の姿勢は……彼女の胸へ向けて足を打ち込むための姿勢!必殺の落下飛び蹴り!
「マスターッ!キーック!」
彼女の胸……骨と皮と、強靭無比な膂力を生み出す筋肉を打ったことが足に伝わると。そのまま力の反動を利用して後退するようにバク宙返りで地へ戻り。十分に力を注ぎ込めた確信と共に……よし、と気合を込めた。
気合を込めたら寺院の塀を全部吹っ飛ばすような、周囲を巻き込むほどの大爆発が起きた!?
「あらあら、おばあ様の中の淀みが大きすぎたようで」
クレーターから出ていたのか、巫女の彼女は私を見て……袖で口元を隠して笑っているが。これ笑っていい規模なの!?今度も大丈夫だよね?!相手は無事?!




