11話 銀河教導院の騎士
■惑星ネザリア 西方 森林保護区域 境界 仮設処刑場
我々機械福音教団の騎士は、ヒトの言葉で雑に言ってしまえばアンドロイドである。
動力を銀河に流れる神秘的なエネルギーとし、それらを用いて生産されたボディに|中央的に集約された場所や分散された場所を通して人格を現出するエヴァンゲリウムのナイト階級。ヒトがイメージする太陽の色に最も近い暖色のエネルギーラインを通す以外は……銀河連邦の一部好き者が使うアンドロイドと、そう外見は変わらない。
我々の平時は軽装だ。
惑星国家運営、国家や集団の運営において自治警察を担う職務ではあるため武力を備えているが……それでも一般市民を保護する立場であり近い場所にいるのが常だ。だからこそ本来的に想定される、国家運営や統治を脅かす武装集団への武力行使の際以外では装備の着用を禁じられている。威圧しては良好な関係を構築できないとマシウス様の考えは我々としても当然のものとして、同意している。
許される場合となれば……例えばギルドの敗残兵であったり侵攻時には銀河連邦の兵士や惑星国家の警察機構ではあるが。それでも事前には申請……よりもまず統制している最上位者、使徒であるマシウス様らの許可が必要となる。
であるが、何かに圧され独断で部下ともども瞬時に装備を着用することを命じたのは初めてであり……それが正解か不正解かもわからないほどの相手と剣を交えることになっている。
「早いッ!エルダーのパワーではない!」
「まったくうっとおしい光ですね。なんでもかんでも光らせればいいと思っているのですか?それで剣の腕を疎かにしているようでは、底が知れる」
「魔女に通じるとは思っていない!」
「それはそれは、では手をもっと増やさないと追いつきませんよ」
それが物理的な手であるのか、術理であるのかは判断しにくい言葉が出る度に……死が近づいてくる。直接的な消滅の危機ではなく、体をバラバラに切り刻まれるかもしれないという予感だ。手はいくつも打っているはずではあるのに、それが追い付けない速さで光の刃の軌道、円弧を描く光と貫くような突きの棘が打ち出されてくる。
たしかにエネルギーラインには視覚的な誘導作用の副次効果があるのは知っている。しかしそんなものが通じるのは雑兵か戦い自体に不慣れな素人ぐらい。目の前にいる悪名高い銀河教導院の騎士にして魔女に通じるとは思っていない。
リィン・グラハムはとにかく素早い。
素早いと言っても目にも留まらぬ速さで動く、打ち込んでくるのではない。こちらの行動の返しとして繰り出してくる速度と、判断能力がズバ抜けて早いのだ。魔剣使いの異名は伊達ではなかったのだ。
魔剣とは即ち剣の術理を返す魔技に他ならない。故に打ち込まれたもので生き残っている者はいないが故にデータがとれない。
これは我々が研鑽を積み続ける圧縮模擬戦闘の仮想限界値以上に、実戦でも経験したことのないものだった。海賊退治や侵攻時では想定も経験もされていないもの。銀河教導院の騎士の話は収集していた。そのデータや推定値をも算出してはいたが……それでも到底追いつけないものだった。
これはおかしい、例えるならば過程から結果を作っているのではなく……結果から過程を作り出していくような剣術で……
「貴様まさか我々を通す聖なるエネルギーが見えた上で意識操作を!」
「半分不正解、次への課題ですね」
「エステル隊長!」
手を増やせ、と言われた私であったが……その手が飛んだ。両手が飛んだと思ったら足も飛ぶ。そうなればもう終わりで首が取られた。
それで切りあいは終わったものではあるが……エヴァンゲリウムの騎士はボディがなくても再生はできる。人格を近くのハブに飛ばせば再び……と、ボディから抜け出した時に見えてくる異常なヴィジョン。部下の騎士たちが次々とハブネットワークにより送られていく流れが見えてしまった。
それでもまだ近隣ハブがある基地からの復帰が出来ればすぐにでも追撃が出来る。そう判断し許可も即座に降りた途端。ハブネットワークが揺らぐ現象が起きてしまい……弾かれてしまった!
■惑星ネザリア 南方区域 東方境界基地
「|聖なるエネルギーの過剰高圧界化と!?」
「我々のボディを使って引き起こさせたのだ。今西方区域の森林区域では広域でブラックアウトに陥っている。復旧の目途は経っているがな、やられたよ」
「申し訳ありませんマシウス様、遊びの時間を取りすぎました。早いうちに再生者を確保していれば」
「その件はいい、実際に確保できていた。問題は教導院の騎士……魔女があれほどとは」
「マナをあぁも利用できる……エルダーであるからでしょうか。それで対策は」
「らしくない。まだ魔女の手のうちが分かっていない。その件はそれについておおよその推論が経ってからだ。問題は別にある」
再生者の確保にあたって最大の障害になるだろう教導院の騎士らに対しては、ひとまず置いておく。確かに戦略的に見れば現在と同等かそれ以上の戦力を揃えるか、戦力数を送り込めばいいだけの話ではある。それらの話になるというのなら、確かに自分の不出来を……適材ではないと告げられるもので聞きたい話ではないが、それ以外の問題とは
「通常動力の戦力を送り込み、ブラックアウト中のエリアを探索させたが姿形を捉えることはできなかった。今もなお行方は不明」
「あのリィン・グラハムや弟子のソニアがいるならばマナを用いたネットワークを抜けてのルートを探っているか、潰しているか……」
「そこまでは出来まい。現に何か触れるような反応はない、微弱な反応でさえな。であれば残る予想は1つ……再生者だ」
「あの再生者が、何をと」
「やつは見えているがため、全て抜けたルートを作っている……と。すなわち再生者が覚醒しつつある。どの段階かはわからないがな」
「ルート、ルートとは……まさか!」
惑星ネザリア、エヴァンゲリウムの占領下の惑星では植民地時代のインフラをすべて撤去している。そこに我々が宇宙の聖なるエネルギーを用いたネットワークを敷くことで……現在の銀河連邦に加盟しているような惑星国家のようなインフラを必要とせずに運営できている。違う国家であると改めているのだ。情報通信網しかりエネルギーしかり。
あの男がいたという21世紀の話でいえば、エネルギーとネットワークが一体化し圧縮されたことで都市計画によりヒトの生活圏内がスマートになったような……とにかくあの男なら未来的な高度計画都市のヴィジョンを浮かべるだろう。
それにより市民は生活の中で簡略化したい部分を簡略かさせ、アクセスのしやすい都市になっているとマシウス様は考えている。実際そうと聞くが……聞かない部分が一番重要でもある。治安維持面での貢献も大きく、そのネットワークでは不審なものの感知など容易く行えるのである。保護と監視と観察。
だからこそあの家族の元から再生者が逃げてもすぐにわかったのだが……今それがわからない。だが再生者がそれらのエネルギー・ネットワークを視認できるようになっており、それらを避けているのだとしたら……見つからないのもわかる。わかるし、どこに行きつくかもわかる。我々が干渉しにくいエリアに向かっている、と。
「北方の廃棄封鎖区画、ネットワークを排除いているあの場所に向かうのは……予想がつくが」
「再生者が覚醒しつつある、のであれば話が変わってきますか」
惑星ネザリアの北方、極点付近にある廃棄封鎖区画はヒトの住めない区画である。
いや住めない区画を作り上げたという言い方が正しい。
植民政府と企業の人間を放り込むためという我々の段階での過去はさておき、そこに今現在も残っているものがよろしくない。マシウス様はそう言っているのだ。
「第一世代のゼノ・テック……この惑星に捨てられていた太陽系時代のザ・マスターとの兵器が目覚めるかもしれないと。あれがですか、しかしあれは」
「可能性は高い。破壊できなかったがため再起動の危険性を考え、ネットワークからも遮断した場所に封印したが……エステル、兵を率いて迎え。ネフィリムⅢまでの使用を許可する」
「北方区域の封鎖作業は間に合いますか」
「間に合わせる。北方でサージを起こされたらたまらぬ。市民に被害を出すわけにはいかないからな」
通信が終わり次第、基地司令部を通りポートに向かう。衛星軌道上にいた巡洋艦を呼び寄せ、すぐさま極点に向かうために……だが。その小走りな歩みを進める中いくら思考を巡らせても出せない未来と結論、つまり不安感を拭うことが出来ないとの自己分析が出てしまう。頭がどうにかなりそうだったが、それでもマシウス様直下の騎士団長として果たさなければならない責務が落ち着かせてくれる。
落ち着かせてくれはするが……巡洋艦への輸送機に乗り込んだ後ですらも思考が波打つ。これから向かう北方の荒海のように。
「再生者、光茨の魔女、銀の黒騎士……」
「エステル様、魔女への対応は如何しますか」
「囲む。数で対処する。術理の解析はその最中でいい」
「了解しました」
いまだかつてない剣、騎士としての職責よりも……魔女との戦いによる敗北。その屈辱に傾きつつある自分の人格の浅ましさが一番腹ただしい。自戒を込めて、祈りを捧げる。本来ならすぐ隣にいたはずの者へ。弱き人のためと立つ者へ。




