10話 機械福音教団の騎士団長
■惑星ネザリア 西方 森林保護区域 教会 処刑場
「ハァーッ!」
「多少……いや、少しは訓練はしていると」
「くぅ……!」
機械福音教団の騎士エステル
当然の如く長身であり、体に暖色のエネルギーラインを流して煌めかせる機械騎士の彼女。軍事者らしく短く切りそろえられた髪……それを揺らすこともなく、軽装の彼女は軽やかに私のショック・セイバーを受けていく。その場から一歩も動くことがなく、だ。軽い小気味よい音だけなってしまう。
私はリィン導師からしこたま叩かれて訓練したが、攻撃する技術はあまり教わらなかった。もしかしたら……なのだがリィン導師からしたら暗黒宇宙将軍ヴォイドとして暴れていたのだから、それでいいだろうと判断したのかもしれない。そうした相互の認識とかのすり合わせする時間もなかった急場の育成訓練だったもので……とにかく防御をだったのだろうが。覚えていないんだよなぁ……!心も体も!
「ど、どうして……セイバーは当たっているのに!衝撃を与えられていない!」
「我々が直接の戦闘能力や技術がない、とにかく数を揃えた量産品だとお思いか?であればそこの不逞の輩の捕縛にも苦労したでしょうが」
そ、そうだ!アンジェラもソニアも彼女らが自負している通りの実力を持つ戦士。その彼女らが苦戦していた……ギルドの戦士長。いくら惑星に墜落したとはいえ、あぁもピンピンしてるようであるのに……身ぐるみを剥がせる程度に制圧している。ほぼ無傷とは言わないが、それでも圧倒的な実力差でねじ伏せたのではないのか!?私のセイバーも、彼女のブロードソードの腹だけで……腕の捻りの旋回範囲だけで防がれている!
「エヴァンゲリウムはザ・マスターの力を……宇宙の聖なる力を解きつつある。我々はそれにより生まれ、生き、使命を得て剣を取っているのだが」
「くぅ……!やることがないからといって……!」
「まだほんの入り口でしかない。例えではあるが、入口の門を見つけただけだとマシウス様は仰るが……超常の力となるには十分」
機械だから解析できるっていうのか!?私が必死にセイバーを振っているのも、動きも全てお見通しと!?手を変え品を変えとはいかないが、色々打ち込む方向を変えるもエステルに全て防がれてしまう。そもそも身長があっちの方が高い上に、腕も足も細長く流麗!変な言い方だがスタイル抜群シルエットの彼女とはリーチが違いすぎる。それでも近くに迎え入れて近接戦闘に持ち込んでいるのは侮りか、いや……今彼女がマシウスの言葉を借りて話しているように彼女らの現状と認識を教えているのだろう。
「アナタは鍵だ。我々と共に来て、たった一言ひらけ胡麻と唱えれば……その門は開かれる」
「……地獄の門の間違いでは?」
「我々は人ではありませんので、元より望みはありません」
「都合によって生きてるだの、ないだの使い分けて……!」
「フフッ……とかく、俗的に言えば近い志の者を誘い、あと少しのところで袖にされた。マシウス様はお怒りということ」
「余計なことはいい!遊んでいないで拘束しろ」
「だ、そうですが。これ以上なければこちらから叩きますよ」
彼女らを退けなければいけないのに、こちらが打ち込んで引いては構え直す形になってしまった。ここで彼女だけでも押して退けなければ、そもそもここを包囲している他の機械騎士を退けたり隙を作ることなどできない。こんなことならノコノコついていく前にポリだけソニア達を探しに行ってもらうんだった!
だが今私だけしかいない状況で何とかしなければならない。このままだと拘束されて、あぁ言った手前でギルドのゴリラ戦士長達を見殺しにして彼女らのいう鍵にされてしまう。それは避けなければいけない。だから……時間のない今、よく考えなければ。
リィン導師は確かに無茶苦茶な教え方だったが、説明ハショった暗黒将軍の時のことをも考えると私一人でもある程度は大丈夫と見越してのことだ。ならそこに攻撃するときの……前に立ち向かう時の何かコツがあるはずだ。技術ではない……剣の技術を教えたわけではないのなら、ゲームっぽい言い方だが魔術の使い方だ。
といってもすぐに武装解除呪文とかできるわけではない。それに魔法の杖もないし私は……いや、ある!そうだ魔法の杖はこれだ。ショック・セイバー!これを通して使えばいい。おそらく……おそらく、だが。出来ると考えれば出来るはずだ、湖で拾った時のように感じて呼べば飛んでくるように。このショック・セイバーで出来ると思えば出来る、はず!
ならばこれを用いて出来そうなことは何だろうか?等身を伸ばしリーチを伸ばすことか……いや、それでは逆に危うい。使い慣れない長さの棒を振るのは危険すぎる……なら、長さを変えずに力を変えればいい。もっと重く、鋭い打撃を与えられると思えば!
「これなら……どうか!」
「これは……面妖なっ」
重い音が鳴った。
先ほどまで鳴っていた軽いエネルギーの衝撃と、ブロードソードが叩かれるような軽い音ではない。エステルもその場を動かない立ち姿勢だが、地を削る程度に動かす衝撃を当られたようだ。少々声色が変わったので文字通り衝撃を与えられたようだ。しかしここまで力を与えても耐えられるのは、どう考えてもおかしい。彼女にそこまで重量があるような雰囲気はないのだが。これもザ・マスターが操っていた宇宙の聖なる力とやらのせいか?
「あまり遊んでいられないようだ、そろそろ大人しくしていただく」
「大人しくなるとは思わないでもらいたい!」
ならばこの衝撃を何度も与えればいい。幸い重い衝撃を当られるがセイバー自体は軽い。振るう速度も遅くなることもない。このまま釘を打つように、しかし振るう方向を変えて叩き続ければ彼女を退けられるかもしれない。彼女は耐えているが、地を削るように動いている。ならば……ここぞという時に思いっきり、これ以上の衝撃を与えればいい。
そのタイミングがあるとしたら……彼女がブロードソードを、正面での盾にした時だろう。彼女が斜めや側面に構えたときでは、よくて吹っ飛ぶだけかもしれない。それであれば体制を立て直して飛んできそうなもの。なら死にはしないだろうから、地面に埋め込むぐらいの……そう、釘やテントの杭を打ち込むように叩きこめばいい。
それは……左、右、左と打ち込んだ後。ちょっと見え見えのフェイントを交えた後に、同じパターンで……しかし衝撃力は強くして打ち込めば!
「今ッ……!?あっ!?」
だが私のセイバーは彼女のブロードソードに当たった瞬間。いや当たったと思ったら引き込まれていくように、吸い込まれるように動かされてしまった。剣術でやる柔道か合気道のよう。彼女が半歩動いたか、と見えた瞬間にはもう遅かった。セイバーは彼女のブロードソードによる躱しですっ飛んでいくし、私は彼女に完全に拘束されてしまった。
拘束というのも締め上げられる、とかではない。するりと背面に回り込んで……そのまま私を掴み、間接に膝や肘を押し付けてキメにかかる。古代ギリシャのパンクラチオンみたいなレスリングの技が近いだろう。私はまったく体を動かせない程に拘束されてしまった。デリガットに拘束された時と同じくエステルの豊かな胸部もまた私の首元を拘束している。生物っぽいというよりシリコンみたいな無機質な触感で……ただし暖かみもあるので人間っぽいが、質感が違う。それにこの完全に動けなくなった状態への危機感で性欲での反応などまったくできない!
「ポリ!逃げて!ソニア達を探してくれ!」
「行動の予測も我々は人間以上に高速で立てられる。剣の振り、力の使い方、どう使うか。状況判断の思考等……ですからこうして拘束など容易にできる」
「同じくして人格も、だ。再生者……我々はあなたの行いと心を評価している。他者を慈しむあなたを。あなたであるならば同じ道を進むに十分な信頼がある……だからこそマシウス様はあぁいう態度となるわけだが。私は好きですよ優しい再生者様。こんな結果になって残念です」
ぐぅ、そうは言われてもこう拘束されて何をともなる。この状況で喜べない上にポリがいただろう方向に槍とか他の騎士が飛ぶ音が聞こえる。これはまずい、ポリを拘束するつもりだろうがポリもポリで立ち向かうかもしれない。どちらにせよ抵抗をするのは見ていなくても明らか。
「セイバー!来い!セイバー!セイッ……」
「無駄だ、部下が押さえている。このままゆっくり抑えて……眠るといい。起きる頃にはマシウス様が準備している会食の時間だ。装飾様式に手間取っているようだが、まぁ付き合ってほしい」
ショック・セイバーを呼ぶも手元に来ない。それどころか胸が苦しい、私の胸がだ。上から押さえつけられているのだが、その力でゆっくりと私の肺にある空気を潰していく感覚だけ伝わってくる。吸うこと、肺を膨らませることができない。そのため酸欠でどんどん意識が遠くなる。何かに手を伸ばそうにも、動かせないまま……エステルの話ですらも朧気になり。
ここで気絶する自分の不甲斐なさ、情けなさに涙が出そうになった時。
私は解放され、そして何かに引っ張られるままに飛び。一気に肺へ空気が入ったことで意識を戻すことができた。私を引っ張った相手は……長身の、長い銀の髪を揺らす彼女。今はアーマーを着用せず、教導院の修道騎士のような落ち着いた衣装の……彼女。
「ソニア!?」
「お待たせしました、わが主。なにぶんインフラが整っていない惑星でしたから、一度離れると合流するのが難しく」
私を抱えて下ろした彼女は既に臨戦態勢だった。ショックではない、持ち手が長いセイバーを片手に……ポリの頭を撫でてから一瞥。降りた場所といえば、あの戦士長のすぐ隣。機械騎士の1人は両手両足を切断されて……転がっている!?
「そうか……お前が再生者を、手引きしていたのか!」
拘束されている戦士長の声が絞り出された。驚愕、それは私に向けて放たれていた怒りの言葉とは色合いが違う。明らかに……何か、そんなはずはないと怯えているような声。いやしかし納得するしかないような、声だった。
それが誰なのか。視線の先にいるのはソニアではない。
ソニアと同じくセイバーを持つ騎士だが、彼女のような銀髪ではなく。黒く長い髪を持ち……それをシニヨンに纏めている騎士。ソニアの師と聞いている……耳の長い宇宙の長命種族の女性。いうなればスペース・エルフの彼女。
彼女の名をエステルが叫ぶ。
「教導院の魔剣使いリィン・グラハム!|光茨の魔女の企てだったか!」
「エヴァンゲリノイドは意中の殿方を武術で拘束すると、いやはや古典にも見ない野蛮な求愛方法で」
「総員装着!拘束は不可能だ!打ち取れ!力も技も我らが五分以上のはず!」
エステルの怒号が飛ぶ。私と打ち合っていた時の空気など……どこにもない。明確な敵と戦う時のような強い言葉。そして周囲の騎士らの……殺気だった空気。その中でもそよ風がふく中で散歩でもしているかのような、リィン導師の声が聞こえてくる。この場所でここまで落ち着いているのはどういうことなのだろうか!?
「さて、ソニアともども遅れた分は働きませんと。行きますよ、再生者様とポリは他の子らの解放を」
何を、こんなに囲まれている時に!と答えようとしたところだった。ソニアに止められ、言う通りにするように伝えられる。ポリもなんだ、と思っているのも……本当に、本当にここまでだった。ただ1人、ギルドの戦士長だけは身を低く、構えているように見えた。教導院の騎士でもないのに……これから何が起こるのかわかっているかのように。
これから何が起こるか。何が起きたか。
端的に言うと私はこの後、リィン導師による本物のセイバーでの戦い方を見ることになる。
アンドロイドのデカ女騎士に挟まれる、というだけです
それはさておいて神秘の力をマナと彼女らが読んでいるだけです。
MPじゃなくてあっちのほうですね




