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オリジン・シード  作者: 草間
コスモ・レコンキスタ~宇宙回帰運動~
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9話 祝福されざる者たち

■惑星ネザリア 西方森林保護区域 境界 刑場


「なんで、とは。明らかなことでしょう。マシウス様」


 はるか宇宙の時代、惑星間航行など普通の世界で中世じみた処刑場が設けられたこの惑星。その奇妙さをどうにも飲み込めない中で、みた顔がこれから執行されるのだという具合なものだから何も考えずになぜと出てしまった言葉に対して……機械の女性騎士は当然の話だと答える。その答えを、内容を説明してもらうようにマシウスへ呼びかけると……どこからともなく聞こえてくるマシウスの声が語り始める。


「その者たちは我々が移民を受け入れている最中の軌道上で、だ。受け入れのタイミングを狙って侵入を試みた。それがどういう事態を招いたかはお前がよく知っているだろう」


 続く女性騎士の言葉。


 マシウス達は惑星に保護障壁を張り巡らされている。その性質は今伝えることはないが、とかく侵入者を阻むもの……つまり他勢力の干渉を退けるもの。それを解除する時があるとすれば移民……他の惑星国家勢力圏から逃げて来た者たちを受け入れる時ぐらいしかない。そのタイミングを狙ってか、彼らは空間跳躍して船舶を移民船に当てて侵入を試みてきた。明確な攻撃行動であり、この惑星の平穏を揺るがすものであると。


 そこからのは私が身をもって体験したことだが、船の1隻はヘシ折れて墜落。運よく半分の方に集中していた人々は助かったが残り半分は残骸化。異常な異例の1人と1匹が生存したものの……大事故になった。墜落現場が運よく森林保護区域であり住民が少数だったため人死にでなかったとのことだが。


「何か言い分があれば聞いてやると言っているが、態度は崩さない。それどころかアナタを見てからはより獰猛になっている。因縁がおありで?」


 機械女性騎士の言葉を聞いてからギルドの戦士長……ゴリラ戦士を見れば、拘束を食いちぎろうとばかりに暴れてはサル科特有の威嚇の雄たけびと声を上げてこちらを見ている。拘束がなかったらお前の首をねじ切ってやるといわんばかりの気迫。あまりの剣幕に引いてしまったが、この処刑場の異質な空気のお陰でひるまずにいられている自分がいた。異常な空気、異常な事……それは私から見ての判断でしかない。だがこれを見ろというのはどういうことなのだろうか。ギルドの戦士といえ人間?だ。それをこのような執行方法で裁くというのならば、問わねばならない。


「いや、いや……そう、だけどこれは一体どういうことなんだマシウス!」


「どういうことかは説明したが理解できないが」


「そういう話で聞いているんじゃない!なぜこれを見なければいけない……いや、なぜこんなことを!これがあなた達の()()()なのか!?」


 そうだ。惑星への侵犯とかそういう法務とか惑星国家運営の安全保障上の問題解決の話というのならいい。アンジェラも言っていたが海賊行為に対する自衛行動で彼女もだいぶ戦ってたし、私もそれを……まぁ、その、受け入れた。


 だがそれならそうとして、これはなんだ?捕縛後に態々機械女性騎士ら……執行者を用いてでも実態的な執行をもって生命を終わらせる行為の意味とはなんだ?それを見せて私に何を言わせたいんだ!そういうことを聞かずにはいられなかった。


「これらの者は、悪だからだ」


「悪!?悪とは……悪だからといってこんなことを!?恐怖を!」


「ナンブ、いいか。宇宙の弱き者たちを食い物にする犯罪シンジケートであるギルドのものは全てが悪だ。これは罪を犯しているから、などという刑法上の問題ではない」


 そうだ、彼女らは銀河連邦の参加勢力ではない。ならそれらの国際法であったり惑星国家自体の自治に関する法律がどうのというのからはひとまず置いておくことになる。ではその彼女ら……マシウスが許さないもの、悪とは。


「この宇宙に生きる生命(いのち)を己が欲望により蝕み、犯し、簒奪(さんだつ)するもの。それらが全て悪である。それらの無計画で自己中心的な活動こそ生命の冒涜と侵犯。聖域を作らざり悪徳を広げるのだ」


 抽象的な話な上にスケールがデカすぎる、だが言いたいことはわかる。この時代に対して古い……21世紀の人間だからわかる。そういう話は、私が生まれる前とか頃合いで散々話されているものだったし。それは刑法とかではなく倫理や道徳とか……そう、だからそうなのだ。彼女らは機械福音教団(エヴァンゲリウム)、そういうふうな教えを中枢教義(セントラルドグマ)として活動しているのだ。


 では、いや……いや、そうだ。では彼女らが言うような悪。その理屈や心情を辿れば他にも心当たるものが出てくる。ギルドだけではない……それに符号しそうなものは。


「で、では……銀河連邦も、悪だと」


「悪だよ、だから私たちは帰って来た。この宇宙に生まれる嘆きの声が我々を呼んだ」


「銀河連邦の拡張的活動が生命を歪め、生命を脅かし、宇宙の聖域を崩している。仰ぐものもいない空虚な闇(ヴォイド)を広げているのだ。深き欲望にただ飲み込ませていく虚無の中心こそ銀河連邦」


「だからこそ我々は決めたのだ。これ以上悲しみと嘆きを広げないために、連邦を囲い封鎖し……その後に虚無を塞ぐ。外から内へ……だ。宇宙に繋がり広がったヒトはもう一度はるか昔の時代に回帰せねばならない。己が行いを悔い改めさせるために」


「裁かれる時が来たのだ。祝福されざる者たちの……我々が執り行う。執り行わねばならないのだ。我々がやらねば、誰も行わない。悲しみは終わらない、続いていく一方だ」


 だからマシウスは私にこの場を見せたのだ、とでもいうのか。それらを……生命のため、宇宙のために執り行う覚悟があると。では……では、その前のはなんだ。少女と老婆とのあの時間を送るよう薦めたのは?いや……いや、そうだ。そこから考えていくとわかってしまうかもしれない。


「……地球帝国も、今の地球人類もそうだと、言いたいんだな」


「言いたいんだな、だと?わかっているはずだ。わかっているのにお前を囲う連中かが目を逸らさせていただけではないのか。地球人類の生体サイボーグ技術、生産している人類政策、植民システム。それは生命という神秘への冒涜……銀河連邦と共謀し拡大政策の()()()として機能させているのはお前にとって受け入れがたい現実ではないのか?」


「あの少女と老婆も同じ。ザ・マスターからの許諾を都合がいいように解釈し続け、惑星開拓と植民政策のために生産されて送り込まれる人造生命体たち」


 やめてくれ、わかっていたがそれ以上を言わないでくれ。なんとなく受け入れられずに、聞けなかったし……そこからわかってしまうことを今言わないでくれ。いや……今だからこそ言うのか、私の周りで……目を塞いでくれる誰もいないところだからこそ、突きつけて問う。


 己が欲望のために名前もない彼女らのような存在を生み出していく者たちは、正しいのかと。


地球原種(オリジナル・シード)にして再生者(リ・マスター)のナンブ、だからこそ問う。我々と共に宇宙を再生させるのだ。銀河を、そして地球を。今ある銀河連邦や地球帝国ではなく我々と原種のお前で……生まれる生命を祝福し、宇宙を正しくあるように回帰させるのだ。我々ならできる、我々が成す意義がある!」


 今までにない熱を持った言葉。理も、情、信念すらも感じるその熱き想いを……マシウスはどこからか語りかけてくる。ここにいる機械の女性騎士らも……改造軍用犬のポリですらも私の答えを待つ、静寂と期待、そして不安があったと感じる一瞬の時間。


 そう、それを一瞬とする程に私の言葉を決めるに十分なマシウスとの対話の時間だった。


「マシウス……あなたの言葉は()()はできる、()()もできる。アンジェラ達より先にあなた達に出会っていれば……と思うぐらいに。それに彼女らについても……だが、だからこそ受け入れられない」


「理由を聞こう」


「そこにいる彼らも同じ、生命(いのち)だと思っている。ここで恐怖と共に処断していいと私は思わない」


「恐怖を与えた者たちであってもだ」


「あってもだ。法の裁きと、あるならば()()が必要だ」


「ふざけるな!お前に同情され!許される謂れわない!なめるな人間!()()だ!」


 ギルドの戦士長の怒りの声が飛ぶと、それを叩くように女性騎士らの拘束が強まる。棒状のそれらをもって締める力により、怒りの言葉と呻き声が混ざった悲鳴が響く。それと同じくして、ポリの低い唸り声が鳴り始めた……場の空気が変わりはじめたことを感じ取ってだ。既にこの処刑場には先ほどまであった私への期待の熱はない。()()を感じる冷たい空気がこの場を重く冷やしていた。


 まるで審問が終わったものでこれから……私が執行される段階に入ったかのように。


「それに……今の銀河連邦や地球帝国が間違っていたとしても、それを変えようと私を信じてくれている人たちがいる。私は彼らと共に何かを成す前に、彼らから離れることはしたくない」


 先の言葉の通り。アンジェラ達と先に出会っていたから……彼女らからまず頼まれたのだ。やるコトは大きいコトではあるが、きっかけなんて小さなものだ。だがその小さいものを軽んじることは私はしたくない。もしマシウスらと何かをするにしても、アンジェラ達やネロにオルファリウス議員らとある程度やることの目途が立ってからでいい。


 それにしたって、大儀や信念のため……彼女らのいうところの祝福されざるものへ恐怖を与えるために処すことは受け入れがたいが。とかく私を信じる人を見捨てる、裏切ることはしたくない。間違っていることを正そうとしてくれている人らはいるのだ。やり方の相違はあろうとも、だ。


「我々は今苦しんでいる者たちのために、いるんだがな。受け入れられず残念だよ」


「期待に応えられず、力及ばず申し訳ないとは思っている。本当にね」


 程度はさておき決裂したのであればどうなるのか。


 拘束されていたギルドの戦士らを私から遠ざけるために、大多数の騎士らは彼らを引いて移動しはじめ。だがこの惑星に降りてから面識が続く女性騎士は……私と対峙するように、立ち塞がる。機械の女性騎士らしくはない、大きくも短い()()が聞こえた。


()()()()、拘束しろ。利用はないが、放置すれば脅威となる……敵である、とせよ」


「我々はあなたを信じるだけですが、よろしいので」


「任せる」


 機械女性騎士、エステル。彼女は軽装ではあるが故に……鎧や巨大な剣を持たない。だが腰のあたりに据えたブロードソードのような剣程度はある。それを鞘から引き抜くと……なんてことのない、飾り気のない物騒ものが姿を現す。


「切りはしません。ですが()()は覚悟してください。我々としてもあなたを処すことはしたくはない」


「ポリは下がって!私がやる!」


 やるって何をだよお前って顔をポリがしていた。だがやるしかない、ここで彼女らに拘束されるわけにはいかない。言った手前もあるがゴリラ戦士長だかも見捨てられない。もう窮地ではあるが、ここで受け入れられないと表明したのだから……抵抗するしかない。幸いこの前リィン導師にはしこたま叩かれたし、腰が引けることもないはずだ。私は腰に吊るしたショック・セイバーの1本を取り出し、その光る棒状の……エネルギーを引き出した!


「マシウス……エステル!私も受け入れられないものは受け入れられないと正直に言う他ないんだ。子供のワガママじゃないぞ。だから……抵抗はさせてもらう!これは嫌だと!」


 一時保護者か観察者みたいな位置にいたエステルではあったが、いざその武力を行使する立場にあり。やるからな、となるとそれなりの威圧感を出してくる。アンジェラやネロ……ソニアらと同じく私からみても巨躯の彼女。しかも人間というよりもアンドロイドに近い、機械の女性騎士。体に走るいくつものエネルギーラインがゆったりと輝き人を惑わせそうなものを……静かに瞬かせながら、ブロードソードを構えてくる。多少痛い目にはあってもらう、だが加減はしてやるぞと。


 なめるな、とはいわない。実際実力差は相当だろう。だがここで声を上げないわけにはいかないのだ。黙って、嫌なことを嫌と言わず従ってしまえば楽ではあるが取返しのつかないことを……今度こそ招いてしまう。それだけはやってはいけないんだ。


「いくぞ!」


 とにかく、止まってにらみ合うのだけではこの状況を打ち破ることはできない。何とか抵抗して、彼女らを退かせて戦士長らが逃げる瞬間を作らなければならない。できるのか?疑問はいくらでも出るが……やってみるしかないじゃないか!


 そうして私はショック・セイバーを振り上げてエステルに飛び交った。この先のことを考えても悪い結果が9割ぐらい返ってきそうであっても、だ!

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