2話 デカい事故じゃないか?
時はまさに
宇宙世紀末
■ 辺境惑星への航路を進む難民船
そんなわけで私はボロ布を2枚3枚纏ってポリと共に難民船に忍び込むことができた。なんだか乗り込むまでがだいぶ楽でほぼ検査もなにもなかったのが印象深い。機械福音教団としては警備の手を薄くし、幅広く人を受け入れているのだろうか。
だいたい難民船ってなんなんだ、と思っていたのだが銀河連邦の植民惑星から逃げ出した人たちを迎え入れるための船らしい。そんな辺境国家といえ惑星国家からの勝手な出立を現地政府は許すのかと思ってたら、辺境惑星の中でもそうした自治能力が弱まったところから出ていくもので止めようがないし止める気もないときた。そうこうしているうちに難民として流出したところから情報が渡って状況が悪化し、機械福音教団の軍勢が大挙して迎えに来るという侵略のシナリオなのだとリィン導師は語っていた。
そういうわけでぬるっと小型輸送船で辺境惑星に降り立った私たちは分散して行動することになり、私は出航予定の2隻のうち1隻にご丁寧に並んで入場したのだ。待っている場所は開けた荒野……時間は真夜中で明かりがついているものの、大口を開けた宇宙船舶が人々をとにかく迎える静かで異様な光景をみた。
まるで誘導灯ようのようにきらめく設置されたビーコン、それに並ぶまばらな人々、深夜のバスターミナルよりも物寂しい雰囲気であった。この惑星を脱出する人々が思っていたより少数だったのも印象深い。いくら難民になるほど窮地であろうとその先がどうなっているかわからない、騙されるよりは……という警戒心や妥協、諦めの心が人々にはあるのだろうか。そうした国からの脱出者も少数であれば、艦艇という大きさの規模はさておいて見逃されてしまっている要因かもしれない。もしかしたら……銀河連邦の統治もギリギリな辺境では人さらいもそう珍しいことではないのかも。
「傷はまだ痛むのかい?この船に貼り薬もあればよかったんだけどねぇ」
「痛みますけど……大丈夫です、あともう少しらしいじゃないですか」
ここに来るまでをぼんやりと思い出していたら……声をかけてくる身の丈がデカい老婆がいる。彼女と、彼女の隣にいるこれまた身の丈のデカい子供……少女は何かと私とポリを気遣ってくれている。経緯はひどい話で私の全身に残るリィン導師によりボコボコにされていた痕跡。アザや腫れを見て心配してくれたことからなのだ。相当にひどい扱いを受けていたと勘違いされている。いやひどい扱いであったのは間違いないが、彼女らの想像するようなものではない。
「水も食料もたくさん積んである、それだけで助かりました」
「私たちもだけど、あなたも相当大変だったのね……どれだけ食べていなかったのかしら。それでもここまでひどい扱いは聞いたことがないのよ」
おそらく彼女の孫である少女の相手をしてくれているポリを横目で見ながら彼女の話を聞いている時間がここ数日続いている。数日の旅の中で彼女らの不安な時間を過ごす話し相手になれたのはよかったが、こればかりは愛想笑いになってしまい……曖昧な返事で濁してしまう。
これは難民船とリィン導師は言っていたが、彼女の言葉と今の状況を見てわかる実態は機械福音教団が用意した亡命用の船舶だ。外見は旧式の連邦艦艇にされているが内部は綺麗なものであるし……とかく広い。穀物等の貨物運搬船や強襲揚陸艇を想像る方が近いものだ。無機質な内壁に階段、そして物資が詰まれた箱類。
無人であり人影は難民以外になく、だが彼らの使いか細長くデカいドロイドらしき存在が避難民のサポートをしてくれている。
健康や体調チェックが入船する際に行われ、簡単な病気の検査等がされたが……私は打撲等の外傷ではあるが微妙に判断しにくいものらしく。治療は保留され食料と水を配給されるだけだった。受け取った食料パッケージの中で見つけた銀のパッケージ包装を見て喜んだのがいけない。日常生活ではお目にかかることのない、包装に生きる希望のメッセージが書かれた救難時の非常食なもので興奮してがっついてたのが相当哀れに見えたのだろうか。虐げられ食事もまともに与えられない地球人の男であったと。
彼女はそろそろ到着するぞ、というアナウンス音声が流れてくるところで孫を引き寄せて惑星降下の際にあるだろう衝撃に備えようと伝えて我々から離れた。各々ある程度離れて床に座り込むぐらいがちょうどいいようだ。
私は私で見えてきた惑星を見ておこう、と壁面にある窓のように置かれたモニターを見た。そこには眼下の惑星の映像が青く綺麗な惑星を映しだされたわけだが……それがブレている。21世紀の旅客機でいえば座席から機体についているカメラを通して、着陸前の外の様子を映像で見れるようなものだろう。大気圏に突入するときはノイズが入るのだろうか?
「もうすぐ惑星につくらしいから、あなたもちゃんと治療を受けてね」
「あなたこそ……お孫さんと」
お元気で、と言おうとした瞬間だった。
船体に大きな衝撃が走り、私は衝撃でこちらに向けて跳ねてきた老婆を受け止めた。デカい老婆だがそう重くはない、勢いを殺せるぐらいは鍛えたはずだがしんどい!ポリはうまく少女の下に潜り込んでクッションになってくれたおかげで二人とも無事だが、この広い貨物エリアでまばらにいた難民の多くは転倒してしまったようだ。
「な、なにごと……」
「現在非常事態が発生しています。降下アプローチ中のためこのまま進路を継続しますが、搭乗している皆様におかれましては」
「この非常事態は何!?」
説明はないが何か状況を確認しようと壁面モニターを見たところ……映っていたのは衝撃を与えた相手。隕石でもない、船だ。治安の悪く連邦の艦船とは違う外見の……ギルドの海賊船!
「ギルドの船がなんでここに!」
「あぁ!こっちに来る!」
こちらを攻撃しているのか、と思えばそうでもない。あの船も煙を吹いたり炎を噴き出してこっちに突っ込んでくる。何かしらの故障か、それとも攻撃を受けているのか。とかくそれに巻き込まれて、こちらの難民船も墜落しかけているのではないだろうか!
「貨物ブロックの一部破損を確認。防護壁を閉じ火災及び破壊の拡張を防ぎます。指定の隔壁ラインまで移動してください。繰り返します」
「は、走って」
「でも!」
いいから、と言うまでもない。既にわかりやすく誘導ラインが点灯されているのだ。あそこまでいかないと、防壁が閉じられてどうなるかわかったものではないと。私は受け止めた老婆を抱えて、ポリは少女を背に乗せて走る。
身軽なポリが少女を運びおえ、こちら急かすように吠え。そして私も十分に間に合うか……というところでまた衝撃が加わった。なんとギルドの船がこちらの難民船の後部に差し込んできたのだ。対艦隊戦での白兵戦に移行する手際のよさかか。これは私でもすぐにわかる非常事態。老婆をまずなんとしても送らないと、と彼女を押し込めばボリが咥えて受け取り引き込み。
そして私の危機を察知してこちらに飛び込んだボリが、ギリギリ緊急で降りた防壁をすり抜ける。ポリが私に覆いかぶさった時、そこで防壁が完全に閉じた音がした。
「置いていかれたが、こういうときは相手の船に乗り込み返すことで窮地を脱せるはず」
「それをやるにはギルドの戦闘員の相手……不安だが、やるしかない!ポリ!」
私は立ち上がりショック・セイバーを……光る剣を構えた!リィン導師とめちゃくちゃに打たれた時間は無駄ではない。戦って、とりあえず負けなければいい気概が持てるようになった。多数の戦闘もそういう雰囲気を入れた訓練もしたし……大丈夫だ!
ポリは私のプランに何いってんだというあり得ないアホを見ている顔をしているが、目覚めてここからあり得ないことばかり。無理を通せば道理は引っ込む、引っ込ませればいい!
そう意気込み構えて、乗り込んでくるギルドの兵士をみた途端。
船体がねじれて切れ始めるいやな音が聞こえ始めた。ブリキの金属板がチギれるような音だ。私はそれと同時に起こった衝撃で転んでしまい、ポリに掴まれながらも壁に体を打ち付けた時。見えたのはまた別方向から飛んできたギルドの船!それが突撃してきて、惑星降下の力具合やらと混ざって変にねじれ始めたのだと予想できた。
予想できたが、ねじれ切れて分離してしまった船体もろとも惑星に自由落下していくのを止めることなんてできない。
「おっ落ちるッ!ちぎれて!?うそでしょ!?」
ポリは私の体をかばう様に覆いかぶさってくれたが、貨物室内に残された食料物資が飛んで跳ねるまでは防げなかったようだ。私はパッケージに書かれた気合の入るメッセージを目の前で見たところで……襲い掛かる衝撃により意識を失った。




