11話 デカいことになってきた要塞防衛線
人間には向き不向きがあり、やりたくないことをやる必要があるんですが
そうではないということもママあってですね…難しいですね
■宇宙監獄要塞 Nポート
「ちょっと!聞こえてるの!聞こえているなら返事をして!」
「状況のコントロールが出来ているようですが、ご自身でどこまでコントロール出来ているかわかりますか?」
ナンブの意識、まどろみの中で久方ぶりにも思えるよう聞こえてくる声がある。7日ぶりに聞いたかもしれないネロとクラウディアの声はフィルターどころかブラウン管や液晶モニターを通して聞く遠い遠い国から聞こえてくる衛星放送のように遅れて聞こえてきた。
そんなことをぼんやり受信しつつも己の体と共に光のラインを4本飛ばす。崩れた艦船の外壁から出てきたところをギルドの兵士が見たのと同時。外壁を、床を滑るように着地しながらプラズマの光球を弾き返しては軍勢の群れに単身飛び込んでいく。機械で制御された4本腕が蠢くような機械的でぎこちない動きではない。滑らかなセイバーの動きは最初から4本腕の生物がそのために編み出したような、艶めかしく妖しい光を描いていく。
それを操るのが2mを優に超える巨体のパワー・アーマー。異形に偽装された姿は凶悪に伸びる尾すらも質量武器として振るっていく。艦船内部へ向けて強襲するには制限が多かった巨躯も、広いポートで振るわれるには理想的な動きが出来る……奇怪な動きを繰り出せる膂力を披露するに最適だった。
再生者であり、宇宙暗黒将軍のヴォイドとなっているナンブはこの姿……立場というロールを演じさせられている間は宇宙に流れる超常のちからをまさしく意のままに操っていた。それがこれらの鎧と意志を意識の上書きのように施したプリムが保証する力。かつてはザ・マスターにより宇宙に瞬く光の流れの如く溢れていた力。それを操ることができるという遺されたテックを存分に与えられ、操るものを傷つけられる存在はいなかったのだからこそ……ギルドの艦船や違法船舶への襲撃を悠々とこなせたのだ。
それは今も同じ。
無謀に見える突撃の繰り返しは、強力な超常の力により構築されたパワー・アーマーの恩恵により絶対的な威力を見せつけていた。
到底2本腕の生物では対処が難しい4本の斬撃。
当然そうした近接戦闘の距離に入らせないのが常套手段だろう。だがそれを可能にしているのが個人用のフォース・シールド。プラズマを用いるエネルギー・シールドと違う力の壁が阻む。銃弾、エネルギー榴弾兵器を全て逸らしてしまい……その隙にセイバーが振るわれているのだ。もちろん飛んだり跳ねたりでギルドの兵士らの隙間であったり射線を盾にするような機動を進んでいるのもある。
そしてその動きに注意を向けた結果、続いて出た海兵隊らの攻撃に晒される波状攻撃が押し返していく。ギルドの兵隊はこの強襲を何度も受けたことでポートを2つ奪い返されて、押し戻されてしまったのだ。出発点のEから続いてSからW、そしてここのNのポートを取り戻すことでEに戻るのが将軍ら遊撃隊の作戦。
「コントロール?出来ているともこのまま戦士の長を抑えて排除し、中枢へ戻り防衛機能の制御を攻撃的に行う。それよりネロ、クラウディア。帝国海軍に派遣の連絡をとってくれ。ギルドの艦隊を掃除するには外からの手が必要だ」
「バカバカバカ!コントロール出来てないでしょ!アンタわかってない!いい加減そのふざけた物言いをやめなさい!」
「何をごちゃごちゃと言っているかと思えばやはり、お前は背信者ではなく再生者か!ならばなぜこのような……!」
宇宙暗黒将軍がギリギリと締め上げているギルドの戦士。以前巨大遺跡構造体で遭遇した巨大な野種のゴリラ顔の戦士。あの時は歴戦の戦士アンジェラと教導院の騎士ソニアの2名でも手こずっていたところで遺跡構造体のトランスフォーメーション機能で追い払ったわけだが……今は只一人のパワー・アーマーに抑えられている。
いかに強力な膂力と兵器を持っていようと、それを上回る超常のものが出てくればなんてことはない。個人と個人の争いに持ち込まれれば、あっさりと組み伏せられてしまうのだ。あの戦士長をねじ伏せ、ショック・セイバーで押さえながら締め上げていた。致命傷の傷にはならないが、非殺傷性の衝撃が戦士長に当てられ続け拷問のような拘束が先ほどから続いていたのだ。
「中枢はもう最初から繋がっているんだからあの時とは違うの、理解した!?あの時にあの場所で命じればある程度の迎撃機構は機能したのよ!」
「だが判別が出来ない上にポートに係留している艦船が邪魔で迎撃の妨げに、同士討ちが」
「その判別が出来るから言ってるのよ!うまく乗せられて、英雄的行動に走るようにされてるの!聞いてる!?わかった!?このまま宇宙暗黒将軍続けたいの!?肩入れしすぎ!」
「続けるも何もこれが私の役割……これが?宇宙暗黒将軍が……」
続いて続くネロからの叱責と目の前で吠えるように呻く戦士長の声。それら嗜虐的で攻撃的な組み合わせによりふと、自分の今の姿に疑問を持ってしまったがために……緩んだ戦闘意識がショック・セイバーでの拘束をも緩めてしまう。その隙を逃す戦士長ではなく、体を跳ね上げるように力を振り絞り拘束を解いた。その衝撃により、力の入らないパワー・アーマーはあっさり跳ね飛ばされた。
■
「撤退だ、撤収!兵を引け!Eポートだ、Eに迎え!」
「お、おれ?お……わたし、私は一体?」
なにやら動きにくい。重たい毛布が重なって布団から起き上がれない心地であったが、犬の鳴き声が聞こえるものでこれは非常事態だとわかり……なんとか体をひねって抜け出すと異様な光景が目の前に飛び込んでいく。ほうほうの体で引き上げていく異星人の兵隊たち。そして私の元に駆け付けてくるパワー・アーマーの兵士たち。私は何が起こっているかよくわからないまま、自身が抜け出したものを見下ろすと異形のパワー・アーマーが蝉の抜け殻のように転がっていた。
「なっなにっ!」
「はぁ~~~~~~~ようやくお目覚めね」
「執政官補、緊急の連絡をローデンシア提督に緊急を入れましたが、ギルドの艦隊が厄介な動きを」
「これはまずいわね、今すぐ他の兵士をEに向かわせたほうがいいわ」
「将軍閣下、先ほどから誰と連絡を……」
「シンシア伍長!?これは……これは何!?」
「はぁ…?まずいねシンシア、これ正気に戻ってるよ。どうしたもんか……」
「どうしたもんかもこうかもないわよ!こちらはそいつのお守、管制!いい?よく聞いて。他のポートが奪還されたから敵も狙いを絞ってきた。Eに集中して艦船と輸送機を突っ込ませている、兵隊以外も流し込んできている。通信を繋いで!」
「何を……こちら遊撃隊、そちらの状況を」
「巨大生物だ!コレクターのペットがなだれ込んできている!援軍を、対処するにも数と火力が足りない!」
私のスマート・ウォッチを経由してか投影された映像に映し出されたのはEポートでアメリアの兵隊たちに襲い掛かる巨大生物の軍勢。宇宙怪獣のようなサイズではないが巨大重機ほどの獣が大口を開けて海兵隊に襲い掛かっていた。蛇のようやら獅子のようであったり多様な宇宙生物、モンスターがあふれている異形の戦場になっていた。これならスペース・ファンタジーといってもいいぐらいに。
「揚陸用のビークルや戦車の突入はできないの!?」
「自走しても展開速度が劣る、車両で乗り付けるしかないわ。外に輸送機を出すと撃ち落されるから早く迎撃機構の起動を指示!命令系統の混乱が招いているのよわかってる!?」
「お、おお、おお……はい!迎撃機構起動、排除を。内部の火力を輸送できる手段を……手段は」
「落ち着いて。考えながら話しても全部が混乱するだけ。いまきちんと説明するから、兵隊はEポートに向かわせて」
本当に大丈夫か?と伺ってくるジャネット軍曹に大丈夫だから、と断りを入れて輸送車両に詰めてもらって援護に向かってもらった。残るのは私と軍用犬のポリだけであり、抜け殻のように横たわるパワー・アーマーのみ。
ネロからの説明でようやく理解できたが、要塞を構成する外殻機構の制御はある程度できるが……それはあくまで今までの宇宙監獄要塞という範疇の機能だけ。遺跡が操れるパワー・リソースの配分や制御は遺跡中枢からしか命令を受け付けないようにしてあるのだとか。
そのためギルドの内部でも有数の勢力が3つも集まった艦隊を排除するには、より強力にパワー・リソースを使わないといけないと。それも外の連中が艦船でやってくる波状攻撃を防ぐにはそれしかないとネロが教えてくれたのだ。
「すぐにローデンシア提督の艦隊が到着する予定だけど、この物量と火力を一点突破に使われると持ちこたえるのが厳しいわ。せめて艦隊からの干渉を防がないと制圧まであっという間」
「ポートからのエレベーターは起動しているので、徒歩でも十分間に合います。急いでください」
なんだか先ほどまでの記憶があいまいだが、彼女らが言うならそれが最善の策だろう。たしか増設したエレベーターは4つのポートそれぞれにあるはずなものでこのNポートにも当然ある。巨大でわかりやすく真新しいエレベーター扉はどこだったかと目を配らせると、私よりも早い。ポリが先に向かっており、扉の前で吠えた。
「すぐ行くすぐ行く、それにしても……一体何が何やら、なんでこんな」
「ぶつくさ言わない!走って!」
走ろうとすると、なんだか体が軋むようにぎこちないし関節が痛いわ筋肉が熱があるし自分も風邪を引いたように熱っぽいし歩くだけでも辛いんだけどもとにかく急がないといけない。だるい中でもなんとか足を動かすと、私を追い抜かしていく影が出てきた。抜け殻のように倒れていたパワー・アーマーだ。
アーマーは私を追い越すと、そのまま扉の前に来てエレベーターを起動させてくれたようだ。起動させてくれるようなら、私を運んでくれてもいいじゃないかと見るとそれがポリの方に伝わったようで。飛び上がって首元の襟を噛むと、そのまま引き倒すように私の体を引き寄せて背負ったのだ。デカい犬だからこそ出来るわけだが、これではまさしく子供が犬の背にもたれかかるみたいだった。
「本当に……何がどうなって……」
誰も答えてくれない上に背負われていくのは、どこか雑な扱いを感じざる負えないが……聞こえてくる通信の音声からそれどころではないというものが伝わってくるのでこれ以上文句を言うことは出来なかった。とにかく中枢に向かわなければ……
「戦車破壊!後退!榴弾来るぞ!」
「誰があんなものを持ち込んできたんだ!シールド用意!盾を持ってい来い!どっちもだ!」
「あいつらあの星系のドラゴンを投入してきたぞ、自分のところのヴィークルも潰すようなものを!口が開いた、回避ーっ!」




