7話 宇宙暗黒将軍
犬のネーミングセンスもなければ、衣装のネーミングセンスもない。
意識が変わっているので、デカいサブタイトルではないです。
■ 宇宙海賊軍 輸送機内部
「ハァーッ!ハァーッ!やっぱり無理だ……私には出来ない」
「落ち着いてください、深呼吸を。ゆっくり息を吸って、吐いて……」
「新兵用の神経鎮痛操作が作用していないのかい?それとも21世紀の人間はみんあこんなもんなのか……」
「フーッ!」
34世紀の宇宙で地球人類はデカい女性がその数のほとんどを占めている。
そのため21世紀の人間である私からすると、輸送機から何まで大きいもので……その中で息苦しさは感じたことはない。
しかし今は彼女らの身の丈以上の視線を得てしまっている。彼女らは概ね2mぐらいあるだろうが、それより大きい位置に私の頭があり……彼女らを見下ろしているのが今なのだ。ザ・マスターの遺跡で作られた、異形のパワー・アーマーを装着することで宇宙海賊軍になって……彼女らの最も近い場所で彼女らを知るために。そのため万全の安全とか防御性能をということで、こういうサイズになっている。
輸送機の天井に頭がついて、ヘシ曲がった電灯のように身を納めて彼女らを見下ろしているのが今。
聞き覚えのあるジャネット軍曹とシンシア伍長が私の側について……いや、両腕のあたりを抑えて必死になだめてくれている。私が装着してここの輸送機に押し込まれてから、もうずっとこの調子なのだから仕方がないかもしれない。しかし私をここに連れてきたのがそもそも間違いだ。間違いであってほしい。ポリは周囲をめっちゃ威嚇しているし。やっぱりこの状況はおかしい!
「へぇ個人用のフォース・フィールドを。まぁこれなら大丈夫だよ。安心して私らの後ろに入ればいい、見てるだけでいい」
「しかし、しかし……」
「実働は我々がやりますから、何もしなくていいんです。基本的に臨検と変わりませんから」
臨検がそもそも平時で変わらない、といってるあたりでもう怖い。少なくとも21世紀の日本でも海上保安庁でやってる荒事の一種だし……アメリカだと沿岸警備隊が麻薬組織とかとやるようなものじゃないだろうか?もう相手は何をしてくるかわかったもんじゃないところに行くなんて!RPGが来るゥ~!
「いいかい?これはお決まりのことで銃ぶっ放したり船ぶつけたり乗員を何かするようなもんじゃないんだよ」
「と、と、いうと?」
「ん~シンシア、説明」
「……輸送船舶側、民間の通商組織側と保険企業側とので決まった定期的な儀式なんです」
えぇ、何と聞き返せば……最初はどう切り出そうか迷っていたようなシンシアではあったがジャネットから一方的に振られたものであるから飾るのをやめたらしい。的確に、正確に、短く事実だけを教えてくれた。
民間の輸送企業に保険企業とが示し合わせて、宇宙にそれらが必要である……その脅威があることを証明するためにやってる芝居なんだという。海賊ギルドほど悪辣でもない組織であるからできるとのことで、方々に散っていた元海兵隊の傭兵組織から始めたのもあるとか。
現海賊軍の首領であるアメリアはそれをまとめ上げて事業として成立するようにしてしまったと!また海兵隊上がりの傭兵組織とも示し合わせることもあり、そうした武装勢力を用いた組織的なワルイコトをしていると!
「そ、そんなそれじゃ……」
「そう、うちらは予定通り船に近づいて停船させて、積み荷を一時預かって後で返したりそのままだったりなんだりするだけ」
「いくら海兵隊から除籍となっても民間船舶に攻撃行為を行うのはやはり抵抗がありますから」
それを聞いて、少しほっとしてしまった。確かに彼女らは窮状にあるのかもしれないが、それでも野蛮な略奪行為や暴力行為に訴えるような人間ではなく。多少セコいことに手を出すぐらいには留まっているようだ。
彼女らの後ろで全てが終わるのを待ち、彼女らに一部始終を任せて……まぁその微妙にセコい……そんなことをしなければならない現状の結果を間近で見てだ。その所感をエメラダやジャネット、シンシアや他の海兵と共有できたらいい。そこからこの状況を打開するために何をすればいいのかを考えればいいのだ。
私自身がその方策を出せずとも、ネロやクラウディアのように頭のキレる女性たちがいる。そういう政治的事情にも詳しい彼女らならなんとかしてくれるはずだ。私が協力できるところは全力でやり、彼女らをなんとか窮地から出せれば結果よしではないか?
「脈が落ち着いてきましたね、そのままゆっくり呼吸してください」
「そうそう、それに今回はもっと楽が出来る。荷物の検品するにも手助けになる犬がいるしね」
「あぁ、麻薬犬みたいな感じで積み荷の詳細を探るを助けてもらっているんですか」
「みたいな感じじゃなくて麻薬だよ」
「軍曹!」
「いいじゃないか、もう間近だし。今更隠すものじゃない」
それは、どういうことをと聞いたらすぐにジャネットが説明してくれた。説明してくれたが……あまりに聞きたくない内容すぎて頭が真っ白になってしまう。
積み荷の収奪、一時預かりとしても消えるのであれば積み荷のリスト以外のものを積んでも構わなくなる。そうしたご禁制、連邦法違反になるような余分な荷物の運び屋的な業務の仲介をすることで輸送船側から金銭をさらに割り増しで受け取っているという。連邦の警察機構や惑星国家の警察組織が追っていても、このプロセスを挟むことで密輸が可能になるのだと。
せどり、が近いのだろうか?
「そ、そんなことを……」
「そんなことでも仕事は仕事。報酬は貰える、我々がしている海賊業務はこういうせせこましいことの積み重ねさ」
「軍曹!それ以上は」
「これからお邪魔する取引相手の船団もそれじゃないか、何を今更。隠さず話すのが礼儀だろう」
海賊軍とは何かと思っていたものとは違う、という失望ではない。
麻薬の取引なんて21世紀でも忌むべきものだ。薬物の汚染は絶対に防がなければならないし、それに手を貸すこともしてはならないことだ。それが今の彼女らの中では普通のことになってしまっている。ギリギリ留まっていたなんて私の勘違いも甚だしい。彼女らにとって普通になってしまったからこそ、わからなかったのだ。
そうした社会を……宇宙を蝕む行為に手を貸すことに、何の抵抗もなくなっている。なぜだ?帝国のせいか?それともアメリアやエメラダのような筆頭のせいなのだろうか。いや……原因は今探れるほどに物事を知っているわけではないし、根が深い話にもなるだろう。
「軍曹……」
「なんだい、そろそろ船が見えてきたから停船信号を出すよ。今更手順の確認を?そんな必要ないだろうに……全く」
では私は今何ができる?原因を取り除けない今……彼女らにこのようなことをさせないためには、どうすればいい?彼女らと戦う?違う……彼女達にさせないためには彼女らにこんなことは間違っていると示せと?ただの口だけで……今ここで説くことが得策なのだろうか?
「軍曹」
「シンシア!さっきからなんなのさ!いい加減に」
「ジャネット軍曹」
「はぁ?なんだい再生者様、今更輸送機で待っているなんて言わないだろうね?我々と共に行動してくれるのはここまでですか」
いや、違う。私の知っている宇宙海賊は……憧れる男の中の男は、こんなことは間違っていると伝えるならば口だけではない。その身で、態度で、示すはずだ。ならば今彼女らにどう見せればいいのだ?誰なら?どういう姿なら?食客?自分の中で考えうるそれらしいキャラクターが、自分を組み立てていくような……クリアな神経を伝って広がり、体と頭の働きに繋がり形を成す。
「強襲接弦用意」
「はァ!?今から停船命令を出して、接弦をするのに!?何をあんた」
「聞こえるな!強襲接弦用意!」
私の右腕を抑えていたシンシアからすり抜けた強化延長腕で、輸送機の内壁を叩く。無線の先にいる操縦士は驚いていたが、復唱を求めればそのまま従ってくれた。従わせたと言っていい。聞かなければショック・セイバーで内壁を破っていくぞと言えば聞いてくれたのだから。
「軍曹……神経伝達の、いえ脈もですが……」
「どうなっているのさ!」
「全てフラット、正常です」
「そんなバカな……極度の緊張状態でおかしくなったんじゃないのか!?」
「火器用意!突入は私が先行する!軍曹は最後尾、ポリは積み荷の捜査!続けッ!」
■ 民間輸送船団 先頭艦 艦橋
艦船の外壁を破るのなんて容易いもの……だとは思わなかった。しかしこの両腕と両副腕、サブアームでそれぞれ持ち起動させたショック・セイバーを使えばなんてこともない。私のパワー・アーマーで伸びた図体が収まるぐらいの四方を切り抜くことなど造作もない。
伝統と格式の隔壁四方溶断カットの後は、私が先頭に立って抵抗する者たちを叩いて艦橋まで進めば制圧などあっという間だった。
「は、話が違う……お前たちが一体、まさかギルドの」
「違う。我々はギルドとは違うぞ、だが今までの海賊軍とも違う」
「何を……何を言っているんだ!」
船団を指揮する艦長……ではなくその副官から引き抜かれたレーザー・ピストルの光弾を左手のショック・セイバーが弾く。弾けばそのまま光弾は打った副官にあたって文字通り衝撃を受けて倒れた。すごい非殺傷武器だ。こちらが弾いたエネルギー武器も非致死性の攻撃に変えてくれる。
「無駄な抵抗はしないことだ。現在最後部の船の艦橋も制圧が終わったと連絡が来た。乗員の安全は保障してやる、投降しろ」
「契約は聞いているのか!?お前の顔は伝えられていない、やはりギルドの……なんてことだ!」
「艦内の電子頭脳にアクセス、積み荷のリストを引き出せ。正規のものをな」
「はい、将軍」
抵抗する艦長をパワー・アーマーの金属テール、尾で締めあげて強制的に生体アクセスを実行させる。兵士の一人がそのまま接続を試みれば、すぐさま内部の情報が丸裸になった。
「将軍!?海賊軍に知らない将軍がいる!?どういうことだ、何をしている!それに触れるな!」
「何をしている?君は我々を知っているようだ。ならどこから来ているかも知っているだろう」
「どことは……それは、確か……宇宙の監獄の……さっきからこいつは何を言っているんだ!誰か説明してくれ!」
「将軍、輸送船それぞれにリストにないものがあると連絡がありました」
「素晴らしい、流石だ。まとめて読み上げろ」
「取引が禁止されている薬物関係や持ち出しが禁止されている鉱物資源もそうですが……」
「どうした」
「非登録の民間人と思われるものが」
「奴隷か、人身売買か、密航者か。そんなものまでに手を出しているとはな」
船長を持ち上げていた尾に力を入れて、ぎりと尾を締め上げると……船長は苦しそうに呻きながら言葉を吐く。締め上げられたせいか複数の瞳を見開きながら、弁明でもなんでもない戯言を口にする。
「社の方も全て承知済だ、そちらも承知しているはずだろう!一体なんなんだ!こんなことをするのならば、社の方が別の手でお前たちを……」
「承知?否、承知などしていない。私はこんなこと承知などしていないぞ!」
ぶぅんとエネルギーの流動と振動、衝撃が混ざり合ったショック・セイバーの剣光を光らせて船長を脅す。威嚇する、このようなことは許されない。私はそれを咎めに来たのだと示す。
「宇宙暗黒の虚無より生まれて、宇宙の監獄より呼ばれた私が許さない」
「あ、あなたは一体……セイバーを使うのならば教導院の背信者!?いやしかしそんな……」
「私は宇宙暗黒将軍、|虚無の闇より来た……」
「宇宙暗黒将軍……ヴォイド……」
締め上げられ、ショック・セイバーを向けられた船長はそのまま瞳を剥いて気絶してしまった。してしまったので兵士に拘束を任せて他の艦への通信を開けさせた。これは臨検であり、諸君らは拿捕されたのだと。
「宇宙暗黒将軍が告げる、宇宙を汚すこの船団は私が裁く!進路を宇宙監獄要塞へとれ!!」
兵士達は皆黙って粛々と命令をこなし、この船団を制圧し主導権を握り……本部へ連行する業務を始めた。私は両腕それぞれを組み、また本部へと通達する。これから悪徳船団を連行するのだと。無線を何度も繰り返し、また私のものである遺跡に引き入れるのだと、その権利を強引に通し受け入れさせた。あの巨大構造体の所有者は私なのであるから、その場所や付随する施設が本来もつ目的からすれば何も間違ったことはしていないのだと。
そう主張したことで海賊軍内部に……超常的な力を持ち、また屈強な兵士を従える宇宙暗黒将軍がここに誕生したのだと……海賊軍外の者までも知らされることになった。
後からの話にはなるが、誰かこのネーミングセンスについて異を唱える者はいなかったのだろうか?いなかったんだろうな……空気的に。




