6話 デカい宇宙監獄のデカい中枢へ
専用装備イベントですよ。専用装備
「ポリ~」
「ハッ!」
名前を呼ばれた灰色混じりの白いデカい軍用犬は私に一瞥くれるだけでベッドの上から動きもしない。名前を呼んだから返事をしたが、用もないのに呼ぶなこれで何度目だという態度である。用もないのに呼んでた私が悪いのだが。
はてさてあれから3日ほど経った。正確にはスマートウォッチの経過時間からの計測なので今が何年何月何日かはわからない。
本日は朝食後に待機を言い渡されたもので、私は仕方なくストレッチや柔軟で体を軽く動かしてから……追加された備品の椅子でキコキコ揺れながら暇をつぶしている。ここに来てまだ3日しか経っていないものの、だいぶ環境に慣れてきている気がする。それは彼女ら海賊軍……まぁ海兵隊の彼女らもそうで、ポリが私を見ているからとジャネットやシンシアらも私から目を離すことが多いからだろう。
かといってスマートウォッチに追加された無線の機能でネロやクラウディア達に連絡を取れるかというとそうも出来ない。軍用犬であるポリが見ているならば異変あれば騒いでしまうかもしれないもので……中々にうまい監視方法ではないだろうか?
「ポリ~体結構曲がるようになったんだよ、ほら!」
「ハッ」
さておいて健康面等の待遇は非常にいい。運動で心身共に健康に向かっているせいかガチガチに硬く、またやせ細った体でもある程度はマシに動けるようになった。毎日朝食の後に健康チェック、そして運動。昼休憩を兼ねて彼女ら……食堂とかではなく訓練場や格納庫、艦船用ポートで提供された食事をとる。
最初は警戒されていたというより異質なものを見ている彼女らであったが、ジャネットやシンシアからの話に加えてポリがいてくれる影響が大きかった。彼女らとも一緒に過ごしている軍用犬、それがすぐに懐いている様子がある程度受け入れやすさを作ってくれたのかもしれない。
そんなもので初日にはもう犬ともっと仲良くなりたい……と訓練担当者に名前を聞いたのだが、それはハンドラーやパートナーが命名するらしく。あぶれていた彼女は特になかったもので私が命名することになった。なったのだが私は犬を飼ったことがないという問題を抱えていたもんでだいぶ難儀したのだ!わかってほしい。
「やっぱりもうちょっとかっこいい名前が良かった?でもさぁ……なんかそういうの違うじゃないか……」
地球時代では子供なんて夢のまた夢の独身男性だった……というのはおいておいて、ペット持つことがなかった。そのため生き物にネーミングするような機会がなく。考えることもないもので名前をひねり出そうとするとルーリングやマナーを知らないことが考えを渦巻かせてしまい、どうともならなくなってしまった。
MMOやテーブル・トークのRPGでキャラクターメイキングをするのなら手近にあるモノからやるような人間だったことを思い出したのもよくなかった。太郎次郎とかぐらいしか知らないうえに、私のパートナーなドッグは雌だったわけだし。
「やっぱりポリの方がわかりやすいって、ね!」
「フー」
落胆気味の低い吐息が聞こえたがまぁ仕方ない、わかってほしい。
海外ゲームにおける犬の名前……でローカルな名前がポリ。それが案外キャラクターネームとしては慣れているもので呼びやすいしわかりやすい。意味合い的にはポチやシロなのだが、呼び名としては異国のものなので固有名としても聞こえる。
安直すぎるネーミングではあるが、異国の音なので固有に思えて個として見れるのも奇妙な話だ。名前を呼ぶ、というのは音もあるので字面や意味合い以上に重要な時もある……と思いたい。
またポチシロはかわいらしい愛玩の犬の名前で、側にいるデカい犬に対して向けるにはあまりに不相応ではないか?
私がすーっと近寄って抱き着くと、よくわかる。顔と顔のあたりを合わせて、手と足でその巨体にしがみつくと……ちょうど後ろ足の前ぐらいまでのサイズに私の体が収まる。つまり私の座高よりポリの体(尾含まず)が大きいのだ。
そんなデカい犬、デカいウルフドッグと聞いたが……彼女を愛らしい名前で呼んでもイメージに合わないのだ。語の意味的には同じだが、異質感がある海外ローカルネームを選び私の中ではわかりやすいパートナーとしてのキャラクターをと思ったのだが……あんまり気に入ってもらえなかった。ショコラとかストロベリーちゃんとかの方がよかったの?
「だからってサンダーボルトとかレオポルトとかジャガーとかぐらいしか浮かばなくてさぁ~」
心底嫌そうに身じろぎをして私をすり抜けたポリは、もういいとばかりにシャツの襟元を齧って訴えてきた。この話はおしまいにする。よくよく考えれば後ろ2つは猫科の名前だしね。センスないね。
「準備が出来たよ……あんた、犬相手なんだからもうちょっと厳しくしたら?」
「えぇ……そうは言ってもさぁ……準備ってなんの準備だっけ、今日の見学ルートは」
「まさか忘れてたんですか。あなたは首裏の神経接続の防衛処置をするためにここに来たんですよね……?」
忘れてました。これをどうにかしないと、宇宙怪獣がやってくるんだったよ!
■宇宙監獄要塞 遺跡中枢部への進入用エレベーター
「こ、ここは?」
「中枢である遺跡への進入のために作られたものです。研究のため建設されたものですが……中枢機構がある程度の距離からは接近を許しませんでした」
「先日からそれが許されるようになったもので、建設を進めていまして先ほど完成したと報せを受けてご同行をお願いした次第」
「そ、そう……」
自らの身を守るには何もない心許なさ……からぐっと私の体を上から捕まえているポリの前足を掴んでしまったがこれは流石に無理もないだろう。
私は今その出来立てのリフト・エレベーターで降りる形で中枢に向かっている。すし詰めという具合ではないが、リフトに搭載可能な程度に乗った人員に囲まれているのだ。
私の声が異様に引いているのは、このエレベーターが建設されてすぐのものであり安全上大丈夫なのかというものとか……このエレベーターの周りの空間に漂う何かの残骸とか、何かこちらを見ているヒトガタなドロイドのような存在が目を光らせている状況とかで縮こまっているのではない。
「まぁそうご緊張めされるな、ここまで来れているということは再生者殿の存在があることで、中枢への進入が許されたという証」
「そうですね……?」
私の隣で私を見下ろすのは……声からしてエメラダ副司令だ。声からして。そうなのである。彼女……彼女らは私がこの遺跡に侵入した時に待ち伏せされたときの姿。鈍色のヘビーなパワー・アーマーという重装鎧で私を中心に取り囲んでいるからだ。その物々しさは私の護衛、監視などと言うものではなく外にバッシバシに向けられており、その余波で私は縮こまってビビリ散らかしていた!
「軍曹あれを……」
「目を離すなよ」
私が知らないだけでここは戦場の真っただ中なのだろうか?リフトの上という逃げ場のない場所というのもあるが、それ以上に周囲の兵士達の圧が強い。何を見ているんだろう……と緊張感しかない彼女らの視線を辿ると、見慣れた顔が見えたので少し、ほっとした。プリムのような浮遊立方体がこちらを遠巻きに見ているのが見えたのだ。
「先にお伝え忘れましたが、あまり刺激されないように……」
えっという言葉も出なかった。見なれた顔が見えたもので、手を軽く振ったところでエメラダから注意が下りてきたのだ。何をそんなに怯えているのかはわからないものではあるが……いや、もしかしたらこの周囲の何かわかる程度に散らばっている残骸を生み出したのは彼女ら……遺跡の管理AIなのだろう。
そうであれば兵士達が怯えるのもわかる気がする。
なにかこう……知らないうちにプリムみたいな浮遊立方体があちらこちらから出てきてこのリフトを中心に渦を巻いているのも、その怯えの元かもしれない。
■ 宇宙監獄要塞 中心遺跡構造体 中央制御室前
「ようこそ、お待ちしておりました。我らが主たる宇宙超常存在の後継者である再生者様。お目覚めしたとの報せがありましたので準備を今か今かと」
「ど、どうも?再生者の南部です。プリムではないんだよね?」
「えぇ、私はコフィンのものとは別個体です。報告は受けましたが、私はこの星域でヒューマノイド・タイプの戦闘兵器技術関連の保存と検証をしている者に過ぎません」
エレベーターが止まった後、リフトを囲んでいた浮遊体に誘導されるがままに進んでいけば。見たまんま超がつく宇宙古代文明の遺跡のホールみたいなところまで進むことが出来た。
雑な言い方かもしれないが、あまり鉱物的には感じられないメタリックで冷たい構造体でありながら……宗教的建築を思わせる繊細な装飾がベースにあるもの。そうとしか表現できない。相変わらず馴染めないセンスだと驚いていたが周囲の兵士らとここの管理者AIにとっては荘厳な雰囲気と威圧感を感じる場であるらしい。
いやいや何か物騒なことを言わなかったか?ヒューマノイド・タイプの戦闘兵器技術関連の保存と検証!?えっ監獄の要塞って元々はザ・マスター軍事施設か何かだったのか!?
「戦闘技術関係を!?一体なにをこんな……一体何の目的で」
「お答えする権限はございませんので、それ以外のご用件を」
はぐらかされた!プリムがいたところもだが、自衛にしてはやたら物騒なものが多々ある。遺跡自体に元々あるそういう規格なのか、それともこの遺跡らを遺しているザ・マスターはなんでこんな物騒なものを遺していたんだ!
「宇宙怪獣が再生者様の首元から神経系のウェーブを辿り探している。その危険性の排除のための対策、防御措置が出来ると聞いた」
「可能です。ただ現在地球帝国で製造されている規格との交流は許可できませんので内的に封じる形式になります」
「独自の規格ならばあると。ならばその規格に適応した再生者様専用のパワー・アーマーを作ることは可能か?」
「可能です。しかし再生者様は戦闘経験がない、非戦闘員と聞いていますが」
「新兵用神経負荷緩和システムは知っているはずだ、それを」
「エメラダ副司令!?私はそんな、ここに戦いに来たわけでは!」
エメラダ副司令の話にすらすら答えるこの管理AIもだが、エメラダもエメラダである。私のことではあるんだが、私抜きで話を進めてしまっているのだ。私が来た目的はこの首元の後ろぐらいの……この時代で、行われている生体神経だかの交信を封じるための措置をして欲しかっただけ。最初にエメラダが管理AIへ持ち掛けた件だけで十分なはずだ。
しかし私用のパワー・アーマーとはどういうことだ?
もちろん彼女らのような鎧には興味がある。かっこいいし。しかし彼女らも私の状況など知っての通り……運動して3日程度たった人間が着用するようなものではないのは彼女らのほうが態々口に出すまでもない基本的なことではないだろうか。彼女らのような肉体を鍛えに鍛え抜いた精鋭がその先に求めるもの、あるいは鍛えぬいた人間でないと着用できないものではなかろうか?
「よいですか、再生者様。我々を知るということは……我々が何をして生きているかを知っていただくこと。それを知らずして現状を理解したつもりになるのは甚だ許しがたい」
「し、しかしそれは私に海賊軍をやれということに繋がるので!?戦った経験なんて一度もないのに!」
頭の上のポリが妙に喉を鳴らすと思った途端、頭の上の重さがすっと消えてしまった。なんだと思えば両脇にいた海兵がポリを拘束してから引きはがしていた。幸いにも手荒な真似を振るわれることもなく、私から離されただけなのだが相当に唸っている、唸ってくれているのはうれしいが……!
そんな彼女らの行いに、ちょっと待ってくれという時間もない。
我々の前に……前の床が、開く。
継ぎ目などない精密な工業製品が立体変形を展開するように、開いてせり出してきたのは……巨大な鎧。彼女らが装備しているパワー・アーマーと呼ばれるものの類であるのは察せられたが、それよりもさらに頭1つ分大きいものが我々の目の前に現れた。私だけではなく、周囲の海兵隊の者たちでさえ感嘆の声のようなものが漏れていた。私から出たのはぎゃあという声だったが。
「やはりそうか……ザ・マスターはこの時が来るのを予期していた!後継者が戦場に出ることを……他の遺跡や兵器群もこのために」
「既にこのように出来上がっています。あとは再生者様が装着するだけです。神経防御用パッチの装着も同時に行えますが」
「待ってくれ、私はまだ」
話を勝手に進めないでくれ。私に海賊行為なんて無理だ、それに海賊をすることを君たちはさておいても他の人間は求めているのか?許されるのか?そんな疑問が考えの整理もなく口に出てしまうが誰一人聞いてくれるものはいない。それどころか、私は両脇を掴まれて……その専用パワー・アーマーの前に引きずり出されてしまった。
「こんなの無理だ!私にはこんなことをさせないでくれ!」
「こんなことですか。その私たちがやっている、こんなことを知らずに私たちを知ると言えるのですか」
両脇の拘束が解けたと思ったら、今度はたった一人。エメラダにより両脇を掴まれて持ち上げられ……パワー・アーマーに近づけられてしまう。
彼女らが纏う鈍色の大鎧ではない。その形状は人の鎧ではなく、やや猫背で……1つ分に見えていたそれは、伸ばせば彼女らよりも頭2つぐらい大きい上に金属の尾もある漆黒の怪物。シャープな顔に伸びた腕。また細い腕も脇にある……腕が複数もあるような異常なシルエット。これが私用のだって!?何を考えているんだ平和的なイメージが欠片もない!それとも銀河連邦ではこれが平和の象徴のカラーで、ザ・マスターはこんな姿だったのか!?
「我々のことを知らず、では我々のことはどうでもよろしいと。このまま目的を達成し遺跡の制御権を手に入れれば……我々を排除するつもりなのでは?」
「そんなことは……」
ない。ないのだが……ない、と口に出す前に周囲の視線の圧力で押しつぶされてしまい言葉が続けなくなる。当然彼女らを見捨てることなんてしたくないし、ましてや排除なんてと思っている。だが……このまま彼女らが何に苦しんでいるか、苦しんでいるからこそ手どころか身を汚している今の状況を間近で見ずに何を言えるのだろうか?
そんな私自身の迷い、戸惑い、または当然の疑問が出てきてしまったがため続けられなかった。
ここで頷かなければ、彼女らとの間にはずっと埋めがたい断絶が生まれてしまう。
「……わかりました、受けます」
「素晴らしい……流石宇宙を救う救世主様だ」
口先だけの問答は彼女らを拒絶するのと同じ。私はエメラダによって……借りてきた猫を抱えて移動させられるように、異形のパワー・アーマーへ納められていくのを受け入れた。足元から鎧が装着され、腰から胸……腕へと続き。顔に兜だかヘルメットが下りていく。
その最中に視線で探した……探した先のポリを見ると、最後まで抵抗をして暴れていた様子が見えた。
……うれしいが、これ以上暴れたことで怪我をするような事態には陥ってほしくなかった。




