5話 デカいウルフドッグ!
犬猫もですがペットを飼ったことがないもので、ソシャゲのペットに憧れるんですが
文化的なものかネームのレパートリーがね…
■宇宙監獄要塞
「おかしいですね、IDがもう発行されてます」
「なんだいそりゃ……司令部には確認したのかい」
「確認を取るなら管理の方ですが、そういった話は聞いていません」
拘留と解放から翌日。ジャネット軍曹とシンシア伍長に連れられて要塞の警備局に連れて行かれた私は新規のID……個人認証用のパスポート、身分証明を作ってもらう予定だったのがなんとびっくり。そこでは既に私のものが作られているというビックリ事案が待っていた。
「これは……ホラーの導入、ではないよね」
「まさかと言いたいが、まさかのまさかのあんたが関わると一概に否定は出来んね」
「ここに侵入出来たことから考えても、先に作られていた可能性の方がまだありそうで」
「むしろ侵入と同時にとか……いえ、不確定でした。とりあえず上には上げておきますので、そのままお待ちください」
ここ宇宙監獄要塞の内部を見学する準備が出来た、というので見て回るにあたり内部の警備施設から認知されてくれるように……であったり。ある意味私の身の安全のためにというのもで通行許可証みたいなものを作ってくれる話であったが……守衛の彼女曰く、既に作られている上にいつ作られたかもわからない、最初から当然のようにあったように表示されているというのだ。
スペース・ホラーだが? コズミックとはいいがたい。いやもしかしたらコズミックかもしれない……
「まぁほら、作る手間が省けたと思えばいいだろ、それで上は?」
「概ねそのような返答ですが注意はしてほしいと」
「注意って何を注意すればいいんだい……」
「出るとか?」
「何がです?」
幽霊……と呟くと、お三方は大変しぶい顔で私を見てお返事の代わりとなさった。
幽霊みたいなのはお前だろ、という顔ではないと思いたい。1歩引いた彼女らは互いの顔を見て所感が一致したことを確認したので話を本題に戻し始めた。
「それで今日はどこから見て回る?兵舎はオススメできないよ」
「そりゃぁいきなり生活の場?に近いところにいくのも……状況を知るとなると食堂……いや、ううん?」
「歩兵の訓練施設のほうがちょうどいいでしょう。再生者様の体力訓練も兼ねますしエレベーター経由ですが車両移動で近い場所にあります。ここから向かいましょう」
守衛の人が管理しているのか、それとも守衛以外の仕事もしているのか。移動用の車両使用の許可が下りたもので私は彼女らに連れられて歩兵訓練所エリア……練兵所みたいなところに向かうのだった。
いや訓練所とは?匍匐前進のための鉄条網とかアスレチックが置いてあるとか?
■宇宙監獄要塞 駐屯地エリア 歩兵訓練所
「ひ、広い!」
「そうかい?訓練校のある惑星と比べればこれでもまぁまぁの規模だよ」
「ちょっと狭いくらいです。理想はここからシームレスに演習に迎えるのがベストでしたからね」
車両で到着した先で私を待っていたのは学校のグラウンドぐらいのサイズで陸上競技もできる広さの場所……ではない。それすらも小さく感じるのだ!教育施設内に併設された囲われたエリアという設営コンセプトではない!
21世紀で見たような具合で例えるなら、年に1回は富士の近辺でやる大規模演習をやるような広大な場所。確かに彼女らはほぼ兵役のままであるし、座学をやる必要はない。訓練や教育をやる必要はあるかもしれないが、それは別の施設でやればいいところなのだと説明があった。
それが故か……とにかく広く、高く。艦船ほどではないが輸送機も飛ばし、車両も走る。人もたくさん走っている大規模運動会のようなものが目の前で行われていたのだ。これが毎日の訓練?私に窮状を訴えるためだけに今だけ芝居しているのではなく?これもうスペース・コロニーでやる行軍訓練でしょうに。
「そりゃ酒飲んで飯食って適当に略奪行為でもして生活出来てるなら、やるところもあるだろうけどねぇ」
「習慣的なものや受けた教育もありますし、常に動いていなければすぐに調子を崩すんですよ」
動くために作られた……生産された彼女らはマグロのごとく、というのはおかしいだろうがそういうからだのつくりをしている。戦闘のために作られた彼女らの体が求める運動とエネルギー、そしてそれを包む精神が故に……公的な政策として帝国から排除されても、染みついたものを捨てることが出来ない。
かといって同義とも言えそうな……海賊ギルドのような犯罪シンジケートに加わることもしたくないのだろう。そのあたりの矜持というのは不適切だろうが、職業として培われた精神性の柱が引き留めていてくれたことは幸いだろうに逆にどっちとも取れず中途半端になっているのではないかとも思える。聞いた限りの憶測でしかないが本拠地を持てず身の振り方もこれと決められなかったからこそアメリアと呼ばれる総司令の行動に集まってきたのではと。生きていく上でのままならなさを強く感じてしまう。
「軍隊を運営するにはお金がかかる……というようなものではなく、とにかく補償がなく……その、なんというかアテがないからこうなっていると」
「言葉を選んでくれてどーも。まぁそういうわけで生きていくだけでも苦労するもんでね、必要だからやってる」
「私からはなんとも言えませんが、そういうことになっています」
かなり言葉を選んだが、作るだけ作って後は知らんというもので見放されている……というよりも人としての社会保障がそもそもないのが問題なのだろう。アンジェラが言っていたような扱いの話が関わってくる。
彼女らも計画的に生産されているというが、だからといって私から見ても人である。そんな彼女らが生きていくのに生活以上に生態としてもやむおえずやっているのが現状であり、それを見た上でどうするのかと聞いているように……エメラダ副司令らは私を乗せて運んだのだろう。とかく武器とか見せるよりも、最小単位の集まりの状況を見せること。人を近くに見せたのが効果的に計画されているような気もするが、覿面にきいているのは間違いない。
籠城や誘拐の犯人に同情してしまう、ストックホルム症候群だかではないが私は彼女らに同情的になってしまっていた。誰がどの程度こうなると予想していたかはわからないが、自分が任された……頼まれたことを実行するべきなのか。決めることがとてつもなく重要だと理解し始めてきた。今度もまた、彼女らの生き死にを決めるものであるのだ。
「あれ、犬もいるの!」
「えぇ内部の統制用、警ら用ですが基地には大抵軍用犬がいます。近くでみますか?」
「こっちだ、こっち!」
難しいことを考えていて、はてさてどうしたものかと考えていれば。ふと動いている人らに視線を動かしていたら見えたのが犬。軍用犬の群れ……群れだ!群れには1匹に1人つくようにパートナーのコンビが走り込みをしている最中だったのだ。
それらが……車によりかかり私の保護者をしてるジャネット達が呼びかければ、方向を転換して一斉にこちらへ向かってきた!群れだ!
遠くから近づいてくるシルエット、そして見た目、色、毛並み。どれも私が想像する警察犬や軍用犬とはちょっと違う。黒いジャーマンシェパードとかあのあたりかなと思ったら灰色とや白の混ざった北の犬のようなものでサイズは……あれ?大きいな。大きいな、犬のサイズとしては見ない具合の……と正確に距離感からサイズを見ようと思ったら遅かった。
「ぐえっ!」
群れからさらに突出して、一匹の犬がとびかかってきた!その上デカイ!あまりにデカイのが突撃したもので、車両の後部座席ドア前ぐらいの位置に立って見学していた私は、そのままひっくり返って車の座席に転がってしまった。
「申し訳ありません軍曹!訓練中のものが……こら、待たないか!」
「いいよ、じゃれているだけなんだから。ずいぶん気に入られているようだし……まぁいいんじゃないの?」
「いや軍曹止めましょうよ、他のも群れて歯止めが効かなくなってます」
毛むくじゃらのなにかデカいのに伸し掛かられたと思ったら、顔中を舐め回されるし……首元のシャツのあたりや頭をぐいぐい引っ張られるし。そうかと思ったら次々になにかがこっちに突っ込んでくるもので止めることもできない。後部座席あたりの何かを掴んで立ち上がろうとするも……そこかしこ毛むくじゃらで身動きが取れなくなってしまった、早く助けてほしい。
■ 少しして
「その1匹は教育中ではあったのですが、配属転換もありハンドラーが空いてしまったんです」
「それで纏めて見てたら、見きれず飛んでったと」
「そうではありますが今までにない力だったんです」
「まぁそりゃいいんだけどさ……いい加減放してやったらどうなの」
「力任せにやると怪我しますよ、この人が」
と、事情を窺ったわけではある。どうもこの1匹は……最初にとびかかってきたのはハンドラーがいない。つまりパートナーが不在らしいのだ。
そのせいで、なのかが全く分からない状況なのだが……この犬?は私の上を譲らず動かない。車両の後部座席に座りながら、半身を乗り出している私の上に伸し掛かって顔を私の頭の上に乗せて……両手?両前足を乗せて居座っている。どいてもらわないとまず私が動けないんだが?
「ちょうどいいから再生者殿に任せりゃいいでしょ。散歩も訓練も一挙にできるし警護担当が増える」
「上の許可は……申請しておきますが、こんな具合でいいんですか?」
「そういう風になりつつあります。異常事態が始まったばかりなので」
異常事態、と訓練担当官が繰り返したところで犬……デカい犬は私から降りて車両の前に座り。それが待っている姿勢だということや、ようやく解放されたこともあって私も降りて……犬、デカい犬の前に立ってから姿勢を低く下ろした。この犬?と目線を合わせるために。それにつられてか、他の犬も先ほどまで散漫だった視線と注意が私に一斉に注がれる。ちょっと怖い。
「そいつらはそれ用に改良された犬の種類だけど、パワーとスタミナにスピードはとんでもないからね。程ほどに付き合わないとすぐバテるからお気を付けて」
「えっ今からここで体力訓練を?彼女らと一緒に?この格好でもいいの?」
「ほらみんな特別参加者様お待ちだから行って来な」
「あぁそういうことなんですね。ではペースは自由で、とりあえずパートナーの犬の方が様子を見てくれるでしょうから……そちらに合わせてください」
とにかく巨大な犬の群れ、の間にいる先ほどのデカ犬が私の周りをくるくる回りながら押して、訓練担当官らの方に連れて行く。なるほどこういう具合にとなるなら改良された巨大いぬ……彼女らの知能は相当なものではないのか。この時代でも野生が残っている獣同然では不都合があるからかもしれないが。進化させた犬か、強化させた犬か。とにかくデカい図体にふさわしい知能がありそうで……ただの手綱を握れない、フリーに暴れる犬との散歩にならなそうでそこは安心した。
「では再開!メニューは予定の通り、ゴーゴーゴー!」
訓練教官らと犬たちが駆け足を始めていくのを少し、見送ったところで犬が動く。私に並ぶように位置を取り歩き出すのを待っていたようだ。なので私も体の姿勢を正す。21世紀でやってたジョギングの姿勢を取り……動き出す。それに続いて犬も走り出した……!当時は経験しなかったが、犬との散歩は密かに憧れがあった。荒川の土手とかね。
憧れはあったものの、自分以外の命と連れそう気が持てなかったのでついぞできなかったが。それは今変な形で叶えられているのだから、その新しい環境とチャンスを受け入れて感じてみよう。犬とのジョギング体験を。
「体よく休憩の口実を作ったんですか?犬で」
「そうだといいんだけどねぇ……あの体力で、あのペース。いつまで持つか」
「あぁ……」
■ 5分後
「コ、コヒュー……コヒュッ」
5分後。私は犬に背負われていた。3分ジョギングして限界が来たから。
さておいて私の体重は戻りつつあるとはいえ、軽い成人男性ぐらいあるはずだ。それでもデカ犬は問題なく走っている。すごい……もしかしたらちょうどいい重りが欲しかっただけではないだろうか?ランニング中で並ぶ女性兵士が不可思議なものを見る顔が見えたが、並んでみていると、次第に気まずくなって目をそらし。
しかし背負われているままだと訓練にならない。のでデカ犬を呼び止めて減速してもらってから降りては走りはじめ……兵士と犬ら訓練の列に並び。
「ケヒュッ ヒッ……ハァ……」
自分の口から出される吐きそうな呼吸音と、運動不足特有の筋肉不足からくるわき腹の痛みが出てふらついてしまえば……デカ犬に背負われて。またデカ犬の背中で休憩して……を繰り返していたが。30分すればついぞ足腰が立たなくなってしまい。
「あぁ……意外と持ったほう、まぁ根性はあったんじゃないか?」
「引きずられてこっちに来てますよ……いいんですか、あのままで」
「いやぁ……ありゃ手を貸したほうが、かわいそうになるってもんだろ……」
訓練メニューが終わるか?という時間になると私はデカい犬に襟を噛まれて引きずられて……ジャネットらが待っていた車両の前に連れて来られた。ちょうど昼飯の時間ぐらいになった、とジャネットが言っていたが、耳には半分ぐらいしか入らないし受け入れられない。今なにか食料を入れたらそのまま噴出してしまいそうな具合だった。
「とりあえずシャワー浴びせて休憩させてからでいいだろ、飯は」
「そうですね、ほらお前も乗りなさい」
車両の後部ドアを開ける前に、後部座席に飛び乗った犬。後部座席のドアが開いたので、這い上がるように乗り込む私……の襟首を噛んで掴んで引き上げる犬。私がなんとか体を収めると、後部座席のドアが閉じて……そのまま走り出したが、転がって仰向けに倒れて休む私の視界は天井と……労わるのか塩分補給したいのかわからない犬の舐め回す顔だけが写っていた。
汗とヨダレでべちゃべちゃ。
スペース・ウルフ・ドッグは宇宙の犬である。




