4話 デかい宇宙監獄はデカい海兵隊基地
■宇宙監獄要塞 第3番大型艦艇用ドッグ
「うぉっ……すごい慌ただしく動いているね」
「基本的に常に行動していますから、あまり休みはありませんね」
「貧乏暇なしってところさ。兵隊含めて常に動かしてないといけないものが多すぎる。海賊の看板出してても海兵隊の精神を捨てたわけじゃないからね」
食後の散歩がてら彼女ら2人に案内されて連れてこられたのは彼女らが運用している艦艇用ドックの1つだ。1つというが、彼女らの扱う巨大でガラの悪いクジラみたいな艦艇がドンと係留されている。
周囲ではせわしなく小型艦艇……クジラと比べればイルカだったりイワシぐらいの個人用航空機も離着陸している姿はまさに基地。郊外にある駐屯地を間近で見下ろしているのだから規模感覚が狂ってしまう。
「外から見たらわからないもんだけど、ここにはこれだけの基地がいくつもあるんだよね」
「具体的な数は伏せますがその通りです。係留して整備が必要な場合のみ入港するようにしていますが、それでも足りないぐらい……」
「でないと常にあの規模の艦艇が駐留することになるからね、危機管理からみてもよろしくないんだよ」
いかに堅牢で難攻不落な要塞や基地であっても事件は起きる。例外も起きる。侵入してきた賊に艦艇のエンジンを利用した破壊活動が成功し……などと許せば誘爆が続き一気に壊滅させられてしまうと。
この要塞、古代超文明の巨大遺跡に作られた外郭にある基地であっても例外ではない。4隻ほどの艦艇が誘爆すれば、たちまち要塞はバラバラなって崩壊してしまうだろうとのことだ。
これ例外である私がやらかさないか暗に釘を刺していないか?そんな怖いことはしないんだけど、いやいや怖いよ!そんな事態!
「それにしてもあの艦艇……戦艦?はずいぶん外見を派手にしているね、宇宙海賊らしいといえばそうだろうけど」
「視覚的に海兵隊と区別が着くようにしているんですよ、結成時は誤認させるため海兵隊の艦艇を利用していたのですが」
「続くにつれて後輩も加入してくるから判別可能にしたというのは建前、パーツ足りないからゴテゴテ盛ってるだけだよ」
おぉ治安の悪い海賊軍の艦艇。眺めればツノどころかトゲトゲすらある。これ世紀末な荒野で暴れるならずものの車みたいなデザインの艦艇。彼女らがこのビジュアルにする経緯についてどこまで本当のことを語っているかはわからないが、素人目にみても見るものに威圧感しか与えないビジュアルだ。案外ぶつけるためにトゲトゲを付けている単純な理由かもしれないし。
そんでもって、これに乗ってるのが鉄色の鎧の兵士たちなものだからもう恐ろしさしかない。タフボーイ時はまさに……銀河世紀末時代!ちょうど目線の先にある小型の輸送機が側面ドアを開けていたか、着用した彼女らの全身を見ることができたのだが……これもまた大きい、タフボーイ!タフガール……?タフレディ?マンは違うよな、栄養ドリンクだし。
とかく体格もおそらく宇宙服を着用した私より大きく、しかもその大きい彼女らが羽織る毛皮のマントまで異様な貫禄がある。毛皮なんで?宇宙毛皮?どんな宇宙生物の毛皮なんだろうか……と考えていると目線の先にいただろうその彼女が、体格に似合わず手を小さくこちらに向けて振っているのが見えた。
見えたのもので、彼女らからハッキリわかるように私は両手を大きく振って応えた。港から出向する船に向けて手を振る気分だったのだが、身振りが大きいことがわかりやすかったのか……目線の先の彼女は大きく手を振って返してくれたのだ。
そこから他の乗員も側面ドアに身を乗り出しこちらへ挨拶してくれたもので元気を貰えるような心地よさを受けることが出来た。彼女らはこれから向かうところは……おそらく荒事の中の荒事のはずだ。航海祈願ではないが、少しでも景気づけになればいいのだが。
その荒事の内容については……特に是非は、まだ私が知るところではない上にその良しあしを絶対的にこうと私が判断することが出来ないのでどうとも言えない。生活がかかってると言われたら、言葉に詰まる。
こうしてコミュニケーションが取れてしまうと、どうであってもいなくなるようなことがなく……無事に帰ってきてほしいと思うのが人情ではないか。どうであれ生きて帰ってきてほしいと思ってしまうのは、今後の……当初の目的を考えればよくないのかもしれない。
「それにしても、こんな軍隊の人たちがなんでここまでして賊になっているので……?困窮しているとは聞いたけども」
「そりゃあ……ねぇ」
「まぁはい……それは……なんといいますか」
先ほどまで合間合間から見ても海兵隊調で勢いのあった語りのジャネットの言葉が詰まっている。シンシアなどほぼほぼ口をつぐんでしまったぐらいだ。少し様子を見ていると……実態を何も知らない素人に対して伝えるべきことをどこまで伝えるか、考えあぐねているようだ。
もしかしたら、という勝手な考えだが子供に対して大人の話をどこまでしてもいいかと悩んでいるようにも見えた。私は彼女らから見れば付き添いされていることもあって処遇どころか、頭の中まで子供扱いかそれ以下なのかもしれない。
「説明できるところだけでいいからさ」
「私たちからすりゃどこまで知っているか、を聞かせてもらいたいね」
「あなたが目覚めてからの時間経過はそう経過しているわけではないと聞いていますが、1000年分の歴史の空白をどこまでご存じなのかということです」
確かに私は何も知らないというか知らされずに送り出されている。それは私に対してある種の期待があるからが故なのだろうが、今更ながら流石に知らなすぎるところが足を引っ張っているのではないかと小言が出かける。難しい試験問題をその場で出されて試されているような、頭を抱えたくなる感じだ。
が、そうして送り出された……そういう判断がされたということは……だ。
私から見ても彼女らの方がずっと頭がいいとも思える人たちの判断。アンジェラからしてもそうなので、執政官補とかすごい役職のネロや修道騎士のようなソニアも然りでクラウディアもそう。プリムだって変な判断基準を持っているはずではないと思う。
つまり何かしら考えられる、導きだせる材料は与えられているのではないか。
「海軍も海兵隊も兵隊は生体サイボーグ……その、生産されているのが大多数とは聞きました。そこから社会的問題に繋がっていることも」
「そうだね、あんたに説明したやつは……まぁいい具合に濁したのか、説明したくなかったのか上手い具合に止めてるね」
「我々は小程度の組織までも大体の定員や勤続計画等が決められています。勤続はおおよそ20年、将官クラスですとその限りではありませんが、これは地球帝国の人間だからでしょう」
これから面倒なことが始まる、という空気を出すジャネット軍曹が手すりに体を預けるとぎぃと音が出るわけだが彼女の装具の音か。それとも手すりが耐えられなくなるような体格なのか。一方のシンシア伍長は丁寧にそのあたりの補足を始めてくれたわけだが……数字がおかしい。勤続が20年……?
21世紀の話ではあるが、自衛隊はさておいても他国の正規軍の勤続年数はもう少しあったような話は聞いた覚えがある。20ということは大体40ぐらいで引退のはずでセカンドプランを考えるが……年金の受給関係で大多数が海賊になる状況が多々発生している、ということなのだろうか。
「えぇと20代で兵役に入って40そこそこで除隊して……」
「残念、開始は14ぐらいの体格の構築が始まってから」
「14!?14から入隊して34で引退!?働きの盛りじゃないの!?」
「一番状態がいいピークの時期がそのあたりなので、そこから逆算をして決められたと聞いています」
そんなバカなことがあるか!?
つまり彼女らは14から教育を受け、数年で配属されて兵役について20年ぐらいの後に退役。年金をもらってとなると……社会はどういうことになるんだ?!そういう計画で人を……兵士を送り出すと世の中は軍人で溢れてしまうし、年金等の供給等で社会財政を圧迫する破綻した社会になるんじゃないのか!?
そんなことは戦時であれば罷り通るかもしれないが、少なくともどこかデカい組織と彼女らが戦争しているとは聞いていない。海賊ギルドだって犯罪シンジケートでしかない、と言ってしまえばそうなので大戦争しているわけではないだろう。
「年金なんて微々たるもの。それじゃやっていけないだろうって与えたのが惑星開拓植民権。これもまぁ都合のいい棄民政策ってやつだよ」
「開拓する場所はさておいても人類が生存できる惑星を探すほどの物資が手持ちにあるはずもないので……まぁその、それらを都合よく拡大解釈した私掠行為から海賊軍が始まったと」
頭がくらくらしてくる。彼女らはつまり全盛期の戦闘能力が欲しい、量産された使い捨てで更新されていくものであり……ある程度の消耗品としてしか地球帝国は見ていないし作っていない。それでもある程度の制度を与えられているのは銀河連邦に加盟しているからこそ得られている後付けの補償なのか。とかく待遇がよくない。
「そういうわけで我々みたいな不良軍人は任期満了前に出てしまってこっちでの生活を長くして慣れておこうって考えるわけさ」
「私は一応満期まで勤めるつもりでしたが、事故がありまして……」
なんてこった。もうこれ事態がそうある社会制度から生まれてしまったもので当然のように組み込まれているなんて。惑星の開拓も出来ない……するほどのものがない彼女らの拠点が監獄要塞になっているのか。ならばここを、安全な防衛能力がほぼ万全といえる場所を人工のでもいいが本拠地惑星にしたのが理解できてしまう。
「まぁそういう話は少しずつ、おいおいでいいだろ。散歩の時間は終わり、そろそろシャワー室の清掃が終わるから体洗って来な」
「我々が、入口の前にいますから終わりましたら声をかけてください」
ぎぃと手すりの音を鳴らし、時間を見ただろうジャネットが先導し。シンシアとで前後に挟まれる形で艦艇用ドッグを離れて歩いていく。しかし彼女らの声はあまり頭に入らない。
これからやること……もし、与えれたこと。頼まれたことを……この基地の無力化をする、ということは彼女らの居場所を直接的に奪うことに他ならない。私にここの要塞の中心である遺跡の継承や力の行使権利があるといってもそれを行っていいものだろうか?彼女らの本拠地を奪う権利があるのだろうか?
ないはずだ、と思いつつも……その権利がどう、という問題とは別の問題が故に私が送られたことがわかっているがため全く考えが纏まらず。やたらめったら広いシャワールームで湯を浴びながらなんとか考えを伸ばして捏ねようとしても、纏まることはなかった。




