プロファイリング
カクヨムで書いてた2章そのまま出すのもなぁ~というのでネロ側の話を追記していきます。
彼女の姉である執政官との対話から。
■惑星アレクサンドリア 執政官室
「と、いうのが私の見解。姉さんが直接会うかはまだ様子を見てもいいかもしれない」
「神経質過ぎませんか、何かの保菌者ではないのでしょう」
「シャクに触るけど帝国の方の見解とは同じ。ハッキリしないわね、この男の是非は」
「是非というのならば是非もないと思いますが」
「姉さんは甘い、この男は宇宙神話の創世者みたいな神秘的な存在とは程遠いのよ」
執政官の業務が終わり、姉妹でこうしてミーティングをするのが私たちの日課。ここ最近は激務に次ぐ激務であり、この時間も遅れていたが……今日はようやくそれなりの時間が取れた。それもこれもアイツのせいなのだが、そのアイツのプロファイリングをしていけばしていくほど頭を抱えたくなる。こんなやつに宇宙の命運を任せるのか?と。
そんな私と違って、私に近くとも幾分穏やかな姉上……惑星アレクサンドリア執政官フィオナ・ウィンタースは杞憂だと宥めるのだが。それは今の終業後の服装と化粧をほぼ落とした顔のせいだろうか。緩んでいると言えばそうだが、年齢相応以上に穏やかで知性を感じさせる瞳に広げてケアしている髪の毛……執政官補と違い執政官の執務中は特に飾られ個人も特定できない化粧と装飾で埋められているのだから、それから解放されている今は何でもさらりと流したくなるのも無理はない。
「まぁこの際、この際よ。アイツが起床してからのデータで視線の動きや脈拍から地球帝国の男連中よりは、性欲がある……異性に興味がある、という点はいいの」
「その……あまりそういったところを、本人に了承取らずに探るのはよろしくないのでは?」
「会えばわかるわよ。アイツ特に会話とかない、空いてる時の視線って大体胸を見てるし。背中向けてるときは尻見てるし」
「ネロ、姉として言いますがそうしたことを決めつけるのはプロファイリングとは言い難いのでは」
「21世紀当時では健全な性欲を持っているってだけの話よ。猿みたいに盛ってるわけじゃないんだから人間しているってこと。あと気づいて見返すと目逸らすのよ、恥じらいがあるのはいいけどわかりやすいのがねぇ」
氷塊を浮かべた蒸留酒のグラスを揺らし、姉上は「そのあたりでやめておいて」と次の話を促してくる。まぁ品性がちょっと欠けていたとは思う。そうはいても地球時代に遺され、続けられたものの価値というのはよく調査し考えた上で我々が受けなければならない使命がある。それが人類文化保管機構であるこの惑星アレクサンドリア本来の使命。今やってる地球時代の文明再現を見せる観光都市では決してないはずだ。
今姉上と私がシバいている蒸留酒も地球時代にあったイモ・ジョーチューというもの。くすねて来たわけではないが、管理リストから検品を目的にいただいてきたもの。21世紀の楽しみ方はわからないが、だらだら長時間飲むには特徴的な香り。我々のようにダラダラ飲んで楽しむならもう少し個性が抑えめの方がいいかもしれない。
とかくそのような具合で地球にあった文化や種を精査する使命がある。
それはアイツ、あの21世紀の地球人の男として例外ではない。地球原種であり、あの時代の最後に遺された人間の男性。もちろんその遺伝子情報がどうか重要かというのはある。そのあたりはドクター・ミサキや水面下で色々やってる地球帝国側武官のクラウディアやらがやってること。誰がアイツと子を成すか、アイツの子を人工子宮で生産していくかについてはまだ議論の段階だが私はご免被る。もうすこし賢ければ、まぁ考えたが。
「帝国からの要望リストにあった監獄要塞の件よ、送り込むことは決定してるけど懐柔されないかという要素は最後まで抜けなかったわ」
「懐柔……されるような、性嗜好の方なんでしょうか?我々とはだいぶプロダクトのラインが違いますが」
「いやぁわからないのよ。アイツが21世紀に所持していたハードウェアの類、全部プリムが管理してて。私たちには開示されず、なんでかソニアの方には渡されてるのよね」
だからアイツが購入していただろう書籍類……ポルノ類やコミック類がさっぱりわからない。そこからプロファイリングの精度は上げられそうなものなのだが。ソニアと一部のもののみが知るという。プリムと教導院、いやソニアの間でどういう密約があったかは知らないが……これに関してはなんとか開示させないといけない。人類文化補完のためでもあるのだから。
「でも単純な予測なら立てられる。我々でも興味があるのなら、海兵隊連中でもっては普通に至るでしょ」
「それはまぁ……そうだけれど。いくら21世紀基準で健全な成人男性と想定しても、獣か何かと考えていない?」
「性欲の話は半分。アイツは大局がわかっていないのよ。地球帝国も銀河連邦の体制もそうそう変わるもんじゃない。海兵隊が海賊軍になるのだって今後も続くわ。海兵隊だけじゃない……絆されて排除できません、ってなってもらっては困るのよ」
「それは少し性急よ。教導院も議長達も変えようとしている。そのための彼なんだから」
「どうだか。私たちもやってるとはいえ、都合がいいから情報提供の制限を各々勝手にやってるもんだから何わかってるか、わかってないかも滅茶苦茶じゃない」
各々アイツを最大限尊重し慮っている……というのはあるだろうが、一方で都合よく利用したいのだ。なので不都合な銀河連邦の事情や地球帝国、教導院の内情や現状を話したくはない。自分で探す分にはいいが、と干渉をなるべくしないようにしている。恐れていると言ってもいい。恒星系復活させるような力を持つ創世者に最も近い男のご機嫌を窺っているのかもしれない。
「まぁ同情はするわ。21世紀の人間とはいえ、我々と同じなのだから」
「ネロ、そのあたりで」
「わかっている姉さん。ちょっと飲み過ぎたみたい、効きが早かった」
アイツも私たちと同じ。どんなに恐れられ敬われようとその強大な力を求められているだけだ。そして再生者という役割をも。役割と能力が全て。我々は一部以外、そうして生産されては廃棄されていく。海兵隊の連中はそうして廃棄され、海賊軍になる。やってられないわ、こんな世界。
だからこそアイツがあの時。宇宙怪獣の群れが来る時に今後の政治的状況を顧みずに我々を選んだのは……素直にいえば、少しは喜んでいいいのかもしれない。あのアンジェラが少し落ち着き、物腰が柔らかくなっているのもその表れ。アイツにとって我々にはそれ以外の……価値がある存在なのだと、言われたような。
「ごめん、本当に酔いが回って来たみたい。今日はこれまでにしましょ」
「明日も早いのだから、これまでにしましょう。明日から監獄要塞に向かう準備に入るのでしょう?」
そう、明日からオペレーションのための新たな業務が増える。アイツをまず先行して送り出して、それに追従する形でプリムを引率に使い潜入する作戦が。我々では感知できない宇宙の聖なる力の流れを利用するのだというが、全く。酔っている中で考えるものではない……宇宙神話を今聞けと言われているようなトンデモ具合。
「それじゃまた明日、姉さんもあまり深く飲まないように。私とあまり変わらないのだから」
「わかっている。これでやめておくわ」
グラスの片づけと甕つぼの始末を姉さんに任せて、私は部屋を出る。部屋を出て少し歩いて、夜風に当たる前に……壁へ背を預けて考えてしまう。我々と同じでもある海賊軍を見て、アイツはどうするのだろうか。我々と同じように……それとも、アイツ自身の判断基準で、アイツは海賊軍を……いや、今後のことを考えても排除をしたほうがいいのだが。海賊軍になった連中なんて……いや、でもしかし
「……飲みなれない酒は、飲むもんじゃないわね」
いや、それとも姉さんと瓶つぼ2つ飲み比べしたわけだが量がよくなかったのだろうか。次は1人1瓶ぐらいまでに留めておこう。流石に宇宙で遊んでいた時とは今は年齢と立場が違う。明日に残らない飲み方を常に心がけないと。
次回がプロローグ2となります。




